教室が、静まりかえる。

思い出から目を開けると、そこには圧倒されたような男子生徒と目に涙を浮かべる女子生徒がいた。

「たいちょ〜」

シンクに限っては涙を浮かべるどころか号泣だ。

「失恋しちゃったんだねぇ〜」
「シンク、話を聞いていたのか。失恋してなどいない」
「でも、人じゃなくなったんだろう」
「そういう問題じゃないんですよ、エース。心で繋がっているんですから」
「この話は終わりだ」

理解してくれている一部の生徒たちに少しだけ感謝をしつつ、これではキリがないと話を切り上げる。だが、それで許してくれる生徒はいなかった。

「その隊長の彼女さん、見せてよ」
「いいねいいね!軍神ってことは召喚できるんでしょ?」
「お前たちには余韻というものがないのか」

呆れてため息をついたが、『俺らは今日の授業頑張ったんだ、さっさと召喚しろコラ』と野次が飛んできた。

「……今日だけだ」

ここしばらく召喚してなかったので拗ねているかもしれない、と考えながらも、さっと氷剣を出し落ち着いて詠唱を始める。氷剣が消え、代わりに現れたのは思い出より色褪せることなく強い存在感を放つ蒼炎の鳥。白鳥のように首が長く、大きさは130センチはあるだろう。ふわりと羽を動かし首をふるふると振った後、自分を見据えて来た。

「キレイですね」
「隊長の氷とナマエさんの炎かぁ」
「お話できないの〜?」

首を横に振ってやれば残念そうにため息をつく生徒たち。それでも個人持ちの軍神に興味があることに代わりはなく、鳥はすぐに囲まれてしまった。おろおろとしている様子がハッキリと見てとれる。仕方ないか、と鳥をもとの剣の形態へと戻した。

「ここまでだ。各自部屋に戻り明日の授業に支障がでないようにしろ」

いつもの足取りで、いや、少しだけ軽く感じるそれを意識しながら教室を後にする。





「たいちょ〜さ、」
「?」
「なーんか、嬉しそうだったよねー!」
「はぁ?!いつもの仏頂面だったじゃねーか」
「昔の話ができる、というのは、死によって忘れるこの世界で、嬉しいことなんですよ」





教室を出てからすぐに聞こえてきたナインの『仏頂面』という言葉に明日の朝からテストをしてやろうと心に決め、自室へと赴く。バタン、とドアを閉めれば案の定声をかけてくるものがいた。

『何で嘘ついたの?』
「男心が分からないのか?」
『クラサメくんの口から聞きたいなー』
「簡単なことだ」

ベッドに座って足を組んでいる彼女の元へと向かう。隣に座ればスプリングが軋んだ。

「嫉妬だ。0組の前に出させたら、どうなるか分かったものじゃない」
『カヅサの時に懲りたんじゃないの?』
「私のものになったんだ。あんなことはもうしない」

目の色だけはどうしても蒼いままの彼女。それは鳥の蒼と同じだ。その瞳に吸い込まれるように顔を近づけると、彼女はクスクスと笑いだした。

『クラサメくん』
「何だ」
『好きだよ』
「知っている」
『だよね』

トン、と肩を押してやればベッドに倒れる彼女。彼女を覆うように手をつき、マスクを慣れた手つきで外せば、傷口を優しく触れてくる手。
その手は、氷のように冷たい。
しかし、燃えるように熱い、手だ。


「ナマエ」


触れた唇はどこまでも優しく、

彼女の心がそこに在った。





――― 私が散るその時まで、共に歩いていこう。




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