おやすみ



宇宙に浮かぶ白亜の巨艦 ―――
その厳戒態勢に置かれているブリッジに少しでも疲れを取って貰おうと、アークエンジェルの自称『配給係』はお茶を配っていた。

「はい、マリュー艦長」
「ありがとう、ナマエ。貴方も休んで」

茶色の髪に柔らかそうな雰囲気、艦長マリュー・ラミアスはこの艦に乗っている数少ないCICの少女、ナマエ・ミョウジを見つめた。

「そう言えば、キラ君が部屋にこもったまま出てこないの。ちょっと見てきて貰える?」
「分かりました!」

明るく笑い、宇宙空間であるにも関わらず器用にくるっとターンすると床を蹴ってブリッジを出て行く。


久しぶりに会った時から表情が暗いキラ・・・
何かを思っているようで、いつも心は泣いていた。
何とかしてあげたいけど、自分に何が出来るだろう?


「キラー、いるよね?」

キラの部屋の前に立って声を掛ける。
しかし中から返事はない。

「入るよー」

始めから返事がないことは分かっていた。
でも、彼が傷付いているなら、それを癒してあげたい。

「・・・・・・・・・・・・・ナマエ?」
「あ、寝てた?」

キラはそのアメジスト色の瞳をナマエに向けた。しかし、それに光がない。
憎しみに溢れている。

「どうしたの?」

「・・・・・・・・・・・・・僕は・・・」

キラが口を開く。

「僕はどうして・・・ここにいるんだろう・・・」

何のことかと思った。
どうしてここにいる?
それは、あの時ザフトがオーブの中立コロニー『ヘリオポリス』に攻め込んできて、それで・・・

「・・・ナマエ・・・」
「何?」

「アスラン、まだ覚えてるよね?」

キラの口から出た言葉は、月基地で一緒に育った幼馴染みの名前だった。
紺色の髪に翡翠の目を持つ、機械いじりが大好きな少年だ。いや、今となっては青年か ―――

「覚えてるけど、アスランがどうかしたの?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・アスランが、ザフトにいた」





一瞬、何を言われたのか分からなかった。

アスランが・・・ザフト・・・?


「な、にを・・・いって・・・」
「僕だって、信じたくない!!けど、ヘリオポリスで・・・っアスランが、いたんだ!!紅いパイロットスーツを着て、マリューさんを殺そうとしていたっ」

でも戦いたくない。
アスランとは戦いたくない。

そう泣き叫ぶキラを、ナマエは優しく抱きしめた。
震えているその背中を優しく撫でると、ナマエは口を開いた。

「じゃあ、どうしてキラはここにいるの?」
「僕だって分からない・・・っ」

「そんなわけない」


自分が分からないはずがない。
だって、それは貴方が選んだことだから。


「仕方なかったんだ!!アークエンジェルには僕とムウさんしか戦える人がいない!!」

キラが睨み付けるようにナマエを見た。
その目を見た瞬間、ナマエは何かを感じた。
その感じたことをそのままキラにぶつける。


「じゃあ私がストライクに乗るよ」

だからザフトに行けば?


ナマエの予想外の言葉にキラは目を見開いた。

「私がストライクに乗る。だからキラはアスランの所に行っていいよ」
「でもっ・・・そうしたらサイ達が・・・」

あーもぅ、とナマエはめんどくさそうにキラをこづいた。
こづかれた頭をキラはキョトンとしながらさする。

「右と言えば左、左と言えば右・・・」

ようするに、キラは決めていたのだ。
すでに。


「キラは、選んだの。私たちがいる方を。サイとかミリアリアとかトールとかフレイとか・・・みんながいる方を。
 『私がストライクに乗るから行って』って言った時も、サイ達が心配って・・・結局さ、アスランと戦いたくないけど、選んだんだよ」

私たちがいる方を。


「だから、もう迷っちゃ駄目。後悔するかも知れないけど・・・あの時私の言うこと聞いておけばよかったって・・・そう思うかもしれないけど、選んだ限りは迷わずにやらなきゃ、どっちも守れないよ」

言葉がしみる。
キラは久しぶりに優しい笑顔を見せた。

「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・僕はやっぱりアスランと戦うのは嫌だけど・・・みんなを失うのも嫌だから、守るよ。アスランと戦うんじゃなくて、みんなを守る・・・」


ありがとう。

そう言って、キラは眠ってしまった。
その寝顔は、とても安らかで。
あぁ、最近寝ていなかったんだなぁ、と思わせられた。


「ありがとう、は、こっちの方だよ」





ありがとう、そしてごめんね。

何も出来なくて。

アスランとキラと私は幼馴染みだったのに、実際に戦っているのはあの二人で、私はただのCIC・・・。


何もしてあげられないけど、お茶ぐらいなら出してあげられるから。


だから、今だけは、安らかに眠って・・・・・・・・・

おやすみ、キラ。









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