なんとか自分が敵ではないことを女性に告げると、女性は冷静な方だったのかあっさりと手を引いてくれた。ざぶん、と浴槽から立ち上がり彼女が出ていくと、一気に安堵感が押し寄せる。彼女が脱衣所から出ていったのを確認し自分も風呂場から出たら、ご丁寧に置いてあった男物のバスローブ。着ろということなんだろうな、とそれを借りてキョロキョロしながらリビングへと向かう。いよいよ自分の家ではないことがはっきりと分かった。そして今他人の家のソファーにバスローブ一枚で座らされているわけだが。

「あのー」
「?」
「ここはどこっスか?」

彼女が何を言っているんだ、と言いたげな表情で見てくるのも無理はない。知らない男が急に風呂場に出現しそいつに裸を見られたあげくここはどこだと聞くのだ。でもどんな人でもこの状況ならそう聞かざるを得ない。だって、

「ここ、俺が知ってる世界と違うっぽいんス」

あ、いたい視線が飛んできた。
でも、彼女が風呂場で叫んだなちゅらるだとかこーでぃねーたーだとか自分が生きてきた中で聞いたことない単語(英語の授業は別っスけど)があったし、そもそも目の前にいる人はどう考えたって外国人さんなのに普通に会話が通じているし、

「ここは、プラントのマティウス市」
「プラント……植民地?」
「違うわ、宇宙コロニーよ」

近代技術は宇宙に人が住めるようなレベルじゃなかったはずだ。
どーなってるんだ、と頭を抱えてため息をつくと、女性が大丈夫?と声をかけてきてくれた。良い人なんだろう。最初は怖かったけど、優しいオーラが滲み出ている。
目の前に湯気のたつコーヒーが置かれた。どうぞ、微笑んでくれる彼女に癒されながらそれを飲む。少しだけ落ち着けた。ふと相手の様子が気になって彼女の方を盗み見たつもりが、しっかりと目が会ってしまう。
聞くなら今しかないと思った。

「俺が知ってる世界は、少なくとも宇宙コロニーなんてのはないんスよ」
「そう」

「それで、この世界のことを、教えてくれませんか?」





知らないことは死に直結する。
とかなんとか昔のお偉いさんが似たようなことを言ってたけど、聞いといて本当に良かったと思った。

目の前の女性、ナマエ・ミョウジさん曰く、この世界は今、ナチュラルという自分のように普通に生まれてきた人間と、コーディネイターというナマエさんみたいに遺伝子操作を行って生まれてきた人間同士が戦争をしているらしい。今は少しだけ沈静化してはいるものの、ブルーコスモスという敵方の中でも強硬派の人たちがいて、軍人であるナマエさんは急に風呂場に現れた自分をその連中が寄越した刺客だと勘違いしたんだとか。

「貴方はナチュラルなのよね?あまり迂闊にこの事を漏らしてはダメよ。コーディネイターにも強硬派はいるから、バレたら首が飛ぶからね」
「マジっスか………。あ、でもナマエさんは……」
「私は母親がナチュラルだから、偏見とかそんなものはないわ」

意思の通ったまっすぐな人だと思った。この人の側にいれば、少なくとも大丈夫だと思わせるぐらい。

「あの、」
「なに?」
「ここに、いても、いいっスか?」
「え?」
「あ、ごめんなさいっス!」
「ここ以外にどこにいくつもりだったの?」
「へ?」

行く宛がないのは分かっていたから最初からそのつもりだったと、ナマエさん。一応独り暮らしだから安心して、と言われてほっと安心……できるわけがなかった。むしろ、よりまずい。

「俺、男っスよ?」
「知ってるけど?」
「大丈夫ですか?」
「何が……って、あぁ。そういうこと。何?貴方盛んな年頃?」
「盛んって、一応16歳っス」
「同い年ね。でも、大丈夫でしょう」
「大丈夫なんスか!?ってか同い年!?」

先ほど軍人と聞いたことがあったような気がするのは気のせいでしょうか?
訪ねるとコーディネイターは15歳で成人ということになっているらしい。

「今日はそのままのかっこでいて。明日になったら服買いに行ってくるから」
「あの、ありがとうございます」
「困ったときはお互い様よ」





For 7 Days





(ナマエさんナマエさん!)
(なに?)
(この世界のこと、もっと教えてほしいっス!)





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