今日はいつも通りの魔法理論などを学ぶ座学の後、魔導院の外にでてモンスター撃退の実習をすることになっていた。勿論外に出てしまえば、白虎の兵も数人とは言え出現するので、野外実習はどうしても1組や2組と言った上位のクラスでないと行えない。だから、今回は1組、2組で合同演習なのだ。
ほんの少しだけ伸びた髪をそのままなびかせて、外へと一歩踏み出した。今の自分には、その輝く太陽が眩しい。眩しすぎる。腕で影を作ると、前を歩いていた誰かに早く行くぞ、と声をかけられた。

(今日は、こいつか)

斜め前を歩いている2組の成績最優秀者を見る。最近時々ペアになる相手だ。彼女でないということに、気を落とすことは無くなった。慣れてしまったのだ。それほどまでに、時間は流れた。
少しだけ伸びた髪は、あれから伸ばし続けた訳ではなく、あれから何度も切る機会があった、その結果だ。伸びるのが早いわけでもないのに、切った回数は彼女が居なくなってから片手で収まるかどうか。

それに、彼女の姿を目で探すこともなくなった。

「クラサメ君、元気ないくぽ〜」
「え、あ……」

ふと横を見れば2組のモーグリ。あれから何かと自分を気にかけてくれているが、もう自分は大丈夫だというのに。

(何もない)

彼女という大きな存在が欠けてしまった。だから、自分にはもう何もなくて、だから何が起こっても大丈夫だと、生きることへの執着まで失った。何事にも恐れず全てを切る捨てる姿はまさしく『死神』のようだと、誰かがいっていた気がする。そういった意味ではメンタル面で強化され、お陰さまで1組の中でも群を抜いてアギトに近い存在と位置付けられるまでになった。
こんな自分を見てカヅサとエミナに怒られるかもしれないと思ったこともあったが、エミナは慰めてくれたし、カヅサは何も言わなかった。

(カヅサに関しては、何か知っているようだったが……)

だとしても自分と彼女を会わせてくれるような解決策は持ち合わせていないだろう。持っていたとすれば、カヅサは迷わず自分を助けてくれる。だから、何もできない。

「体調が悪いくぽ?顔色が良くないくぽ〜」
「大丈夫です」

記憶はあるのだから、彼女は生きている。それだけが、自分にとっての救いだった。

「もし帰ってきたときに、俺はまだ強いと言うことを、示すために」
「ナマエ君への愛情は分かったくぽ。でも頑張るのと無理をするのは違うくぽ!」

ぺち、という音と共にモーグリの小さな手が自分の額に触れる。これは、叱られて小突かれたとでもいうんだろうか。それにしては、随分優しいものだった。

「今日はクラサメ君はお休みくぽ!」
「しかし……」

流石に一人だけ休むというわけにはいかない。それを伝えるとモーグリは頷いた。

「じゃあ見学するくぽ!」
「あまり変わっていないような……」

反論しようとしてもこれ以上聞く気がないというように話を進めていくモーグリ。諦めて自分も木陰に座り込んだ。少し遠くの方からモーグリの演習の説明が始まり、それぞれ武器を取り出す候補生達。お互いにしばらく打ち合いをした後、そのままのペアでモンスターを撃退しに行くのだとか。体を慣らしてから本当の殺意を持って襲ってくるモンスターを倒しに行くのだから安全面を考えてもなかなか良い演習だと思う。それに参加させて貰えなかったのは少し残念だが、確かにこれでよかったかも知れない。実際に精神面とはいえ疲れていたのだから。

(…ナマエ………)

変わらず太陽は光を放ち、風は頬を撫でるのに、彼女は居なくなって。
心に空いた穴は確実に広がっていたようで、気を抜いた瞬間眠りに落ちた。










嫌な音がした。
銃声だ。
いや、銃声じゃない。
嫌な音が銃声というわけではない。
肉を貫き骨を砕く音。
人の悲鳴。
モンスターを相手にしているはずなのに、悲鳴が聞こえてくる。

おかしい。

ハッと目を覚ますと、目の前を血飛沫が飛んでいった。反射的にナイフを振りかぶっている帝国軍兵にブリザドをぶつけると、急いで立ち上がる。近くに這い蹲っていた2組生徒に駆け寄った。

「何があった?」
「ほんと、に……たった、今………帝国兵、が…………」
「たった今?」
「………すご、い…数だ……」

ここはまだ朱雀領のはずだがどうしてここに帝国兵が、という疑問もあったが、脳内では認めたくないがある程度の答えも導き出されていた。

(誰かが演習情報を漏らした、か)

その時、倒れていた2組生徒が口をモゴモゴと動かす。何かあったのだろうかと聞き取ろうとしたが、突然後ろに出現した氷柱に帝国兵が閉じ込められているのを見て、生徒が何を言っていたのかすぐに理解した。詠唱だ。

「氷剣、の死神……聞いて、呆れる」
「何だと?」
「ミョウジが………いなく、ちゃここまで落ちっ………落ちぶれるの、かよ」

まもなく死を迎えようとしている生徒が、力強い視線をぶつけてきた。

「後にいる、て…帝国兵に、気づかないぐらい…っなんて、最低、だぞ」
「……………」
「ミョウジは、強い」
「あぁ」
「会ったときに、1組のトップが、げ、幻滅…っされんな、よ…」

もう話すことはないというように生徒は黙り込んだ。死んだ訳ではない。だから、ケアルをかけてその場を後にした。

自分は、もう迷わない。




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