外の噴水広場に行くまでに、何度かあの二人に後を付けられていないか何度か確認したが、そのような様子は見られなかった。さすがにそこまで野暮なことはしないか、と安心する。噴水前に着いたが、まだ彼女は来ていないようだ。

「くくく、クラサメ君っ!?」

少しだけ聞き覚えがある声。ナマエではないが、とりあえず呼ばれたので振り返れば、会長だった。そう言えば会長にも世話になったのだった、と思い出す。

「今日は私服ですのねっ!素敵ですわ!」
「そう思ってくれるということは、いつもの俺に戻っているということか?」
「ええ、とっても輝いていますわ!」

そこで会長が口を閉じた。観察するというには悪意のない大きな瞳が、自分を見つめる。

「どうやら、」
「?」
「ナマエとは上手くいったようですわね」

会長は、ある意味自分のことを本当に良く分かってくれている。ファンクラブの会長であるそれだけの理由はあるようだ。

「お陰様でな。仲直りできた」
「あら?それだけですの?『彼女』にまで昇格したのでは?」
「……どこで聞いた」
「いえ、女の勘ですわ。けど、当たっていましたのね」

クスクスと笑う会長に、鎌を掛けられたのかと悟る。
すると会長は何かに気づいたように眉をぴくりと跳ねさせた。

「では私はさっさと退散しますわ。嫉妬されて過去の仕返しをされても困るので」

ではデート、行ってらっしゃいませ。

会長は割りと早足でその場を後にする。その直後に肩を叩かれた。

「私から誘っておいて、遅れてごめん」
「いや別に構わな、い……」
「今の、クラサメくんのファンクラブの会長さんだよね?そう言えば最近会ってなかったなぁ。昔はよく会ったんだけど……って、クラサメくーん?」

ナマエに会うとすれば魔導院で候補生としてなので(ここも魔導院だが)、こうして私服を見る機会はお互いになかったはずだ。だから、見慣れない彼女の様子に自分も同じ状態なのだと思うと急に『デート』という言葉が自分を冷やかしてくるようで、気恥ずかしくなっていた。そして思考回路が似た者同士な彼女も悟ったようで、笑い出した。

「大丈夫?顔赤いよ?」
「あ、あぁ」
「じゃ、行こっか」

行く先は一番近くの都市、マクタイ。歩き出した彼女の手を取ると、今日はじめてナマエは顔を赤く染めた。










デートだからと言っても、何か特別変わったことをするわけではなかった。どちらかと言うと、ナマエの買い物の付き合い程度だ。しかも服などを見るわけではなく、今いる場所は食料品を扱う市場。旬の野菜や鮮度の高い肉などを眺めているだけだ。

「あ、クラサメくんの好きなものって何?」
「特に何が好きで何が嫌いと言うものはないが……」
「じゃあシチューとかは?」
「作ってくれるのか?」

質問に質問で返すとナマエは頷いてくれた。もう夕方だから、晩御飯というところか。

「あ、女子寮は一応男子入ったらダメだから。クラサメくんの部屋で作るね」
「あ、あぁ」
「あははっ、緊張してるんだ?」
「初めてだからな、彼女ができたのが……」

そう部屋に向かう途中で言えば、彼女は目を見開いて自分を凝視してきた。どうしたんだと声をかけると顔が爆発的に赤くなって、視線をそらされる。

「や、だって……エミナと付き合ってたんじゃないの?」
「エミナは友人だ。そういう関係じゃない」
「そっ、かー……うん、そっかそっか、えへへー」

ニヤニヤと嬉しさを押さえきれないのかナマエの口から笑みが溢れた。かわいい、と思ったと同時に自分の手が勝手に動いて、彼女の頭を撫でる。

「俺も、今こうしてナマエと共にいれることが嬉しい」
「……キザ」
「本当のことを言っただけだ。失礼だぞ」

穏やかに流れる空気の中で、何となく違和感を感じながらも、二人で歩く時間は暖かかった。




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