昼間の森
昔々、あるところに一人の女の子が住んでいました。
お母さんは少女が生まれたころから入院していて、お父さんと二人暮らしです。
「パパーっ!」
「なんだいナマエ?」
お父さんはコーヒーをブレンドしています。お母さんが家に居なくなってから、家中コーヒーの臭いで一杯です。しかし少女ことナマエはそれにも慣れてしまいました。習慣とは恐ろしいです。
「お母さんのお見舞い、今日行くんでしょー?」
「あぁ、そうしたいのはやまやまなんだが、お父さんは今(コーヒー作りに)忙しい。代わりに行ってきてくれるかい?」
ナマエは『はぁい』と返事をすると、篭にいっぱいお見舞いのプレゼントを詰め、少し上品な服を来て、逆にこの服とは正反対の安物の白い貝殻のイヤリングを付けました。
このイヤリングはお母さんから貰った大切な物で、外に出かける時などはいつも付けています。
「じゃあいってきまーす!」
『気を付けるんだぞー』という声が後ろからかけられました。
ナマエは足取りも軽く森を抜けようとします。が、しばらく歩くと側に生えている茂みががさがさと揺れ出しました。もちろんナマエはただの女の子でスキュラを装備しているどころか、イーゲルシュテルンすら持っていません。
しかしあの『砂漠の虎』の娘です。怯えている場合ではありません。勇気を出して茂みに声を掛けました。
「あの、どなたかおられますか?」
すると茂みの奥からいかにも薬をやってそうな三匹の熊が現れました。
「おらぁぁぁぁぁっ 瞬殺!」
一匹の熊(以外、クロト熊)が叫び声を上げながら襲いかかってきます。
「墜ちろぉぉぉッ!!」
もう一匹の熊(以外、オルガ熊)がクロト熊に負けないぐらい叫びました。
まだ熊はもう一匹(以外、シャニ熊)います。怖いながらもナマエは恐る恐るそちらの方を見てみると、シャニ熊はだるそうにゲームをしていました。
「おい!ちゃんとしろよ!」
「真面目にやらねぇとアイツに酷い目に合わせられんだぞ!」
「えー・・・今ク●バットとリザード●とギャラ●スと●ーシャン育ててんだけど・・・」
「多っ!つかリー●ャンとか似合わねっ!」
いろいろ文句を言われた後、シャニ熊はめんどくさそうに『墜ちな』と呟きました。そしてすぐにゲームに集中し始めます。もう呆れた他二人は放っておくことにしました。
「まぁ怨みはねぇが、とりあえず俺達の為に死んでくれよ、なっ!!」
さっきまでの変な空気を取り払い、オルガ熊がナマエに食い掛かろうと牙を向けます。さすがに何もしないまま諦めるのはイヤなのでナマエは走りました。
「っ・・・はぁ、はぁ・・・」
息は切れて、もう走れません。知らない間にお母さんから貰ったイヤリングも落としています。涙目になりながら走っていましたが、視界がぼやけて石に躓いてしまいました。
「いたっ・・・」
膝からは紅い血が破れた皮膚から流れ落ちます。
「もうおしまいだな」
後ろには3匹の熊が居て、もうだめだとナマエは怖くて目をかたく閉じ、おそらく来るであろう痛みを覚悟しました。
しかし、痛みはいつまで経っても来ません。恐る恐る目を開けてみると、三匹の熊が倒れていました。どうしたんだろうと近づいてみると、眠っています。
「ふぅ、危なかったな」
「あっ、パパ!」
熊達が出てきた方とは反対側の茂みから、我らがお父様アンディが麻酔銃片手に現れました。普段のコーヒー臭さをものともしないほどかっこよく決めています。
「パパかっこいい!」
「ほぅ、ナマエにも大人の渋さが分かるようになったか」
「? よくわからないけど、とりあえずかっこよかったよ、パパ!」
ナマエ、将来パパのお嫁さんになる!と高らかに宣言したナマエをアンディは嬉しそうに抱き上げ、一緒にお母さんであるアイシャの元へと行きました。
めでたしめでたし。
あとがき
パパ。
珈琲作りはどうした。