りがとう」




直感でキミと分かったのかもしれない。
普段のボクだったら、女の子相手にこんなに優しくないから。
だから、ね。
忘れてた?なんて思わないで。
忘れてた?なんて言わないで。

ずっと覚えていたんだから。










シホ・ハーネンフースはザフトのパイロットスーツを少女に着せることに成功した。
後で来た話だが、少女は服を着る習性が無いのか、すぐ脱ごうとする癖があるらしい。それもシホが教えて止めさせたらしいが、人語が通じないためジェスチャーで伝えるのに相当手間取ったようだ。

「た、隊長・・・もう、大丈夫です」

完全に疲れ切った表情で扉を開けた。そこには赤色のパイロットスーツを着た少女が、さっきまで自分が入っていた水槽の台にちょこんと腰掛けていた。イザークはその少女にゆっくり歩み寄ると、まるで幼い子供と話すかのようにしゃがみ顔をのぞき込んだ。

「俺の言っていることが分かるか?」
「Daiti Iitikth Wakrmsg ――――

何を言っているのか分からないが、少女が首を傾げた、ということは分からないのだろう。イザークは舌打ちをすると少女を立ち上がらせた。

「行くぞ」

意味は察してくれたのだろう、少女は黙って着いてきた。全く表情のない顔。ただ外の世界が珍しいのか、しきりに目を動かして周りを見ている。

「A・・・・・・」

少女が急に足を止めたので、イザークもやむを得ず足を止めた。少女は今出て来た扉の奥、正確には水槽の台を睨み付けるように見つめている。

「どうした」
「Korn-nibn Sikkrrtir Bakdng Bakhtsms.」

少女が僅かに危険を知らせるような目でイザークを見た。他の人間には、それも初めて会った人間にはとても分からない微妙な表情だったが、イザークはそれを見逃さなかった。

「全員モビルスーツまで急げ!何かが・・・っ」

まだ室内を捜索している隊員に叫ぶ。が、遅かった。Pi ―――― という電子音と共に後方、要するに水槽の台が爆発した。
全てを飲み込むかのように、炎が押し寄せてくる。

隊員達の叫び声が聞こえる中、イザークは一人冷静だった。

(この爆発は即死だな。仮に免れたとしても・・・ヘルメットも付けずに宇宙へ出れば終わる、か・・・)

いつから生死に無頓着になったのか、自分でも驚いた。だがそんなことを言っていてもしかたがない、と諦め半分で隣の少女を見た。少女も冷静でただイザークに付き従うように側にいた。その顔にはどこにも恐れは無い。イザークは何故か安心の笑みを漏らしてしまった。その微笑みは美しく、少女が普通の人間であれば確実に赤面するものだろう。だが、少女は赤面する変わりに何かを唱えだした。

「Korn-nibn Kuukw Subt AUPA n Idu.Kuukd AUPA ninir Seimitiw Hokk.Douzn TaiFyun Kuukn Gaimkn CO2w Tekyu ――――

長い長い言葉。
それはイザークに向けられた物ではなく。
神に祈る物でもなく。
ただ、生きるための言葉だった。

「Sistm ―――― On」

視界を、炎が覆った。










死ぬ―――― ということは無かった。ただ、熱いだけだ。
足場が爆発の力により崩れてゆき、今度は酸素不足、もしくは血液沸騰で死ぬはずだ。そう思ってしばらくしても死ななかった。

「なっ・・・」

声が出た。真空空間で声が出ても聞こえるはずが無いのに、だ。すると隣の少女がこちらを見る。

「Nour'yksyuzn Eranin Sonzisnk"t Seimitih Taskrrmsndst...」

少女が申し訳なさそうにイザークを見つめる。イザークは苦笑すると優しく少女の頭を撫でた。

「他の隊員のことか?死んだ奴もいるだろうが、生き残っている奴は全部お前のおかげだ」

ありがとう。
そう言えば、少女もマネをしようとする。

「Arg,tu?」

少女は首を傾げてそう言った。発音が、何となく似ている。だから雰囲気で分かったが、また何か一言二言話し出せば、もう何を言っているのか分からなくなった。
その時、

「隊長、ご無事ですか!?」
『イザーク〜元気か?死んでない?』

シホの声とディアッカ・エルスマンのスピーカー越しの声。ディアッカはボルテールを移動させたようだ。

「隊長、この空気は?」
「あぁ、これか・・・」

シホが周りをキョロキョロしているので、イザークも同じように周りを見渡した。空気の層が何重にもなっていて自分を包んでいる。そして思い通りに移動できた。

「どうやら、こいつの力のようだ」

イザークは隣に座っている少女を見た。きょとんとして首を傾げている様子はなかなか愛らしく、しばらく見つめてしまっていた。

「隊長?」
「あ、な、何だ?」

シホに呼ばれてハッと我に返る。自分から視線を逸らしてしまったが、まだ少女は自分の方を見ているようだ。視線を、ひしひしと感じる。

「それで・・・その・・・勝手だとは思うのですが・・・彼女は命の恩人で、その・・・評議会へ受け渡すのは・・・」
「感心できない、と。そう言うことか?」

言葉を繋いでやると、シホはおずおずと頷いた。今言っていることは軍の命令に逆らう物だからそんな態度を取るのは仕方ない。しかし、彼女の言うとおりこの少女を評議会へ突き出すのは人道に反するだろう。イザークは少女の表情を見た。相変わらずきょとんとしていて、今何が起こっているのか説明して、と言うかのようにじーっと自分を見つめている。何となくその仕草は庇護欲を掻き立てられる。

「俺もそう思っていたところだ。艦に戻ったら検討しよう」

そう言えばシホは本当に嬉しそうに『ありがとうございます、隊長!』と喜びの声をあげる。シホが軍人らしくないことを言うということは、よほど少女に愛着があるのだろう。確かに服の着方も知らない少女の面倒を見たのだから、母性本能でも働いているのか。

これから、面白くなりそうだ。










ただの人じゃないことはみんな知っていた。
その所為で罵られることもあるだろう。
だが、彼は彼女を庇い続けるはずだ。
それが恋とは知らずに。
その感情に気付くのは、もっと先の、雪の降る日。
その思いを伝えるのは ――――










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