今日は1組と2組で合同練習だったが、まともにナマエが授業に出てくるとは思えず、その考えは的を得ていたことを思い知らされた。普段はあまりこんなことはしないのだが、彼女の姿をキョロキョロと探してみるが見つからない。友人とは呼ばないまでも、知り合い程度のクラスメイトにどうかしたか?と聞かれたが何でもないと首を横にふった。
あれ以来彼女とは何となく会えば喋るような関係になったが、授業に来ないからといって心配で連絡をするまでではない。知り合い以上友達未満と言うことか、と心の中だけで肩を落とした自分に、自分自身が驚いた。

「あ、ナマエ!」

2組のモーグリが発した名前にとっさに振り返れば先程心中で噂をしていたナマエが何食わぬ顔で闘技場に入ってきていた。相変わらず何も考えていなさそうな顔で堂々遅刻してくるものだから、担当の武官も呆れ返っている。じっと見つめていると、目があった。しかしこの前と違うことは、眉を寄せなくなったというだけか。

「ミョウジ、重役出勤とは良い身分だな」
「変わって欲しいですか、先生。土下座されても嫌ですけど」

冷たく、かつ尊敬の『そ』の字もない一言に武官顔をひきつらせて固まった。仕方のないことだとは、思う。

「え、えーっと、あ、アテンション!これからクラス別で成績が良い人順にならんでもらうくぽ!そうしたら1組の一番実力のある人は2組の一番実力のある人と組んでもらって、2組の人はしっかり1組の人から技術を盗むくぽ!逆に1組の人も油断しちゃだめくぽ!2組だからって侮ると、戦場で痛い目見るくぽ!」

固まった武官を見てあわてて2組のモーグリが授業説明をした。
2組のための授業のようなものか、と一人で納得する。確かこの前の実技試験は僅差で自分が一位を獲得したから、相手は2組の成績最優秀者か。誰になるのだろう、と予想してあることに気づいた。

『実力は1組を抜いてるかもしれないくぽ!』

あぁ、そういえばあの時モーグリが言っていた。
だから、彼女が自分の目の前にいるのか。

「や。おはようクラサメくん」

先程の無表情とは打って変わり、ナマエが手をヒラヒラとふって笑いかけてくれた。自分も口許を綻ばせて、手を振りはしないものの、相手に応える。周りの何人かが驚いた表情で自分とナマエを見比べていた。驚いている内容は理解できなくもない。
1組の(自分で言うのも何だが)トップと2組の不良が親しげに(いつ『親しく』なったんだ)、まるで友人のように(友人?)話していれば、どこで知り合ったんだ、となるだろう。そのあとも雑談を続けたから、おそらく他人の目に写る自分達は、友人以上(友人に見える、のか。俺達が)。

(そうか、だから嬉しいのか)

自分にはカヅサやエミナという友人は以前からいた。もちろん彼らに不満があったわけではない。だが社交的な彼らが自分だけの友人であったかと言えば、答えは否だ。
しかし彼女は、目の前にいるナマエの世界には、きっと自分しかいない。自惚れてもいいだろう、彼女の本当の友人は自分だけだ。

「だらしない顔」
「なっ………」

そこまで思考に没頭していたわけではないはずだったが、慌てて口許を手で覆うとナマエが笑った。

「そっか、図星だったのね」
「……鎌をかけたのか」

似た者同士。思考回路が同じだから、考えが読めたのかもしれない。恥ずかしくなって誤魔化すように睨み付けると、ごめんごめんと素直に謝られた。

「今日授業に来た理由はね、」
「ん?」
「クラサメくんが心配してるんじゃないかー、って思って」

他の人はどうでもいいけど、と付け足して言った彼女の言葉に本格的に顔が緩みそうになった。










『では、実践演習開始っ』

そう言われてから、どれほどの時間が経ったのだろう。さすがにこれだけ長い時間戦闘を続けられているものは少ない。大抵は1組が2組を早々に降参させ、あるいはモーグリの言いつけを守らず油断して1組が負けている。長期戦にもなれば男女でペアならスタミナの差で女が負けるし、集中力にものを言わせていてもその頼みの綱が切れてしまえば男女関係なく負ける人間が出てくる。もちろん男だってスタミナ切れは起こすし、最初の勢いをそのまま維持して戦ってるものはさすがにいなかった。
自分達を除いては。

「っ!」

目の前の彼女に魔力や集中力、スタミナの上限というものは無いのだろうか。サンダー、ファイア、ブリザドを当たり前のように連発してくるし、動きに衰えがない。一方自分はというと、実はあまり動いている気がしない。要するに、疲れていない。

(……踊らされている)

ナマエはわざと少し動けば外れるような場所に魔法を放っているのだ。むかつく、と思いたいのは山々だが、そんなことをしてしまえばすぐに隙を突かれるので、思わない。
自分の名誉の為に言うのなら、もちろん自分も本気を出している訳ではない。お互い腹の内を探っている、という所だ。そしてそろそろ面倒になってきた。それは相手も同じだろう。目がだるそうだ。

(なら、そろそろ終わらせようか)

避け続けて、時に自分からも攻撃をして分かったことがある。それは彼女に比べて自分の方がここ一番のトップスピードや詠唱精度、剣技において優れているだろうということだ。だから彼女も休むことなく魔法を放ってくる。自分に決定打を打たれたくないのだ。

(負けず嫌いか………熱いやつだな)

持っている本質はそうなんだろう。どんなに不良を演じたところで、核の部分は変わらない。彼女はそういう人間だ。
そう、人間なんだ。

剣を出現させ、最速でナマエまで接近する。予想以上の速さだったのだろう、彼女は驚いて詠唱を止め、すぐに後退したが遅すぎる。あえて余裕を見せてやろうと自分の最も得意とするブリザドを彼女の後に放ち、足止めをさせ、止まった彼女の後にわざわざ回り込んだ。

「あら、余裕だね」
「こちらの方が確実だからな」

剣を首元に突きつけると彼女はニヤリと笑った。何がおかしい、そう言おうと思った瞬間、首に回されているマントを掴まれ、前に引き寄せられた。

「っ…」

唇に触れる、柔らかな感触。
思わず緩んだ手を弾かれると、剣が飛んでいった。それに気づいて我に返ると、今度は彼女の肘が後に力強く押し込まれ、自分の鳩尾に食い込んだ。息をのむような感覚に思わず屈むと彼女が自分の腕の中からするりと逃げる。

「女は体も武器だからね、スタミナ無いからってなめないでよ」

そう言って、彼女の二本の双剣の一本が屈んだ自分の首筋に突きつけられた。




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