カツカツ、と靴を鳴らしながらエントランスに入ると当然注目される。天下の0組。そう言われて悪い気はしないが、注目されることが好きじゃない仲間も当然いるわけで、自分もその一人だ。エースは横を歩いているクイーンを見た。彼女は気にしていないようだ。
そもそも一人で歩けばそこまで注目されることもないのだが、こう言った任務帰りは赤いマントがずらりと固まって歩けばこのような状態になるわけで。慣れないとな、と言う意味を込めてため息をついた。

「ほら、0組よ」
「すごいよねー、任務も三人編成で一つの隊と同レベルの働きらしいじゃない」
「0組もすごいけど、あの指揮隊長もさ」
「『氷剣の死神』でしょ?知ってるよ」

それだけじゃないんだってば!と話し込んでいる固まりの一人が目を輝かせて語り出す。その内容は一人の人間の噂にしては信じられないようなものであり、そこにいた0組全員は顔を見合わせると、走って0組の教室へと向かった。










今だかつてこのようなことがあっただろうか。
私が教室にはいればあのナインですらまともに席について、全員が一斉に私を振り返った。真面目になった、と思えば良いことだが、0組のことだ。良からぬことでも企んでいるのだろうと呆れるようにため息をついた。

「何か用か?」

シンクが発言したそうにしているので私から声をかけてやる。もし何かあるならさっさと問題を解消していつものように授業をしなくてはならない。このような状態はベストなのだが、正直に言おう、私一個人の意見だがこのような0組は不気味だ。

「さっきたいちょーの噂をね、聞いたんだけどぉ」
「『氷剣の死神』については諸君らも知っていることだろう」
「噂してる人も似たようなことを言っていましたね」
「死神の方じゃなくて、」

シンクの目が輝いた。

「たいちょーがたいちょー個人で軍神持ってるっていうのと、昔ルシの彼女がいたって話!」

個人持ちの軍神。
ルシの彼女。
どちらも心当たりはあるが、どうしてこの噂が流れ始めたのか。
一同を見渡せば食い入るように私を見てくる。

「知りたいのか?」

そう問いかければ全員が頷いた。知識欲があるのはいいことだ。だが個人情報を簡単に口外するのは躊躇われる。ならば、

「この後、全授業六時間を通しで行う。誰一人として一睡もすることなく授業に集中し、かつ最後に出す復習テストで全員五十点以上を獲得できれば、その質問、答えよう」

約三名顔を青ざめさせた者がいた。彼らの普段の点数を考えれば五十点は不可能に近い。しかし授業を集中して聞けばできる問題を用意するつもりなので私はこの子たちに甘いのかもしれない。

「では授業を開始する」

合図と共に全員の目に気合いが入った。










結果を言おう。
信じられないことにこの六時間私でさえ疲れを覚えたのに0組全員が授業を寝ずに受けたのだ。それだけでもすごいのに、眠りかかったエースをあのナインとシンクが起こしたのには執念を感じた。ジャックも場所さえ近ければすぐにエースを起こしにかかっただろう(刀を抜いたのが見えたから、本気だったはずだ)。最後の砦であるテストは、実は惜しくもナインが49点だったが、エースを起こした点数として5点追加することで許してやることにした。つくづく、自分はこの子たちに弱いのか。

「たいちょー約束約束〜」
「言っておくが授業時間を削るということはしない。あくまでも自由時間に、だ」
「んなことは分かってるよ。いいからさっさと話してくれ」

サイスも前の席につめてきた。それを合図に他のメンバーも集まってくるのだから、いよいよ後には引けなくなった。

「じゃあ、まず軍神の話から聞きたいねー」
「え、やっぱりここは彼女のことからじゃないかな?」

男子代表ジャックと女子代表レムが同時にそう言った。やはり男はそう言ったことに興味があり、女は色恋沙汰が好きだ。どちらの話を先に聞くか、で先程まで団結していたクラスがもめ出しそうだったので、私はため息をつくと二人に気休めを言うことにした。

「その二つは両方とも関連している。もともと同時に話すつもりだった」

私は一度目を閉じた。久しぶりに思い浮かべたのは一人の女子生徒の、後ろ姿。

「今から十年前、私が候補生だった時の話だ」



さぁ、思い出をどこから紡ごうか。




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