『親友』の続き、というより『親友』より時間軸は前です。
読む順番はどちらでも構いません。
ではどうぞ
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風に吹かれて
アカデミーの北側に自然公園のような場所があることを知る人は少ない。
知っていたとしても来ないのだから結局は誰もいないのだ。
(いいところなのですが・・・)
一人の少女がその何を考えているのか分からない目で辺りを見渡す。
少女、ナマエ・ミョウジもたった今ここを知ったばかりだ。まず北側の方には練習棟がないので、滅多に来ることはない。来る奴と言えば、静かさを求めてやってきたガリ勉か、もしくは迷子か。
ちなみにナマエは後者である。
(それにしても・・・)
ふと後ろを振り返る。高音域を叩くピアノの音が聞こえた。これを弾いている人を、ナマエはそこそこ情報通なので知っていた。
(ニコル・アマルフィ、ですか・・・)
一見ひ弱そうな感じであるにも関わらず、爆弾処理を始め、ほとんどの科目が三位以上だと聞く。自分も筆記テストのお陰で何とか赤服を着る位にはいるが、ギリギリ十位。
(天才と凡人は違う、と言うことです)
するとピアノの音が止まった。
もう練習を止めたのか、と残念に思っていると後ろの方から足音が聞こえてきた。
「・・・ん?」
視力が悪いため眼鏡をしているが度が合っていないので意味を為さない。じーっと見ていると、緑色の髪の毛が見えてきた。
「あ、こんにちは!」
噂のニコル・アマルフィが明るく挨拶をしてくる。こんな風に声をかけられた事がないので、ナマエは戸惑ってしまった。しかし黙っているのもおかしいのでとりあえず返事をしてみる。
「・・・こ、こんにちは、です」
すると相手は嬉しそうに笑ったあと、自分の隣に腰を下ろす。その行動すらびっくりしてしまった。
彼が自分に何の用だ、と怪しんでいると、ニコルは苦笑し始めた。
「そんなに警戒しなくても、他意はありませんよ。ここを知っている人に会ってびっくりしただけですから」
「そう・・・」
ずれた眼鏡を直しながらナマエはニコルの話に相づちを打つ。
他愛もない話しを慣れないながらもこなしていった。
少しの沈黙が流れたあと、再び彼が口を開く。
それは自分からしてみればとんでもない内容だった。
「僕と友達になってくれませんか?」
「・・・・・・・・・・・・・・え・・・?」
いきなりの発言にナマエは本日二度目の驚いた顔を見せた。
それにしても、彼は自分をバカにしているのだろうか。
あのアスラン・ザラやイザーク・ジュールとつるんでいる彼が、自分と友達になる理由がない。勿論メリットも。
「・・・・・・」
じーっと不審そうに見つめていると相手はくすくすと笑い、笑顔で答えてくれた。
「理由なんてありませんよ」
(こ、心を読まれたっ!?)
「ナマエ、でしたっけ?あなたが音楽好きなのは知ってるんです」
アカデミーには音楽友達がいないので、と苦笑したので、『あぁ』とニコルの性格を把握してしまった。
要するに、彼は本当に仲良くするために自分に声をかけ、からかおうとかそんなのではないと言うことだ。
「・・・わかりました、よろしくお願いします」
「あ、あと一つ」
「はい・・・?」
「もし貴女に大切な人ができたら、絶交してください」
そしてもう一つ分かったことは、彼が本当に優しい人なのだと言うこと。
「わかりました。約束します」
「ありがとうございます、ナマエ」
お礼をいうのはこちらの方だというのに。
「ありがとう、ニコル」
ポツリと呟いた言葉は、風がタンポポの綿毛と一緒にさらっていった。