風水だとかそういったものを信じる習慣はもともと無かった。だって見えない力によって自分が良い思いをするっていうのは『他力本願』だし、それを良い言い方をしただけだと思う。だからといってそれを信じる人を馬鹿にする訳じゃなくて、それはそれでいい。ただ、私は自分の力で幸せを掴みたいと思っていたし、今でも思っている。
思っているのだけれど…。

「うーん………」

手には恋愛のパワーストーン、ローズクウォーツがハート型に削られたワンポイントのネックレス。普通に可愛いデザインで身につけていても全く違和感はない。ただ、気持ちの問題なのだ。あれだけ風水関係信じねーぞ!って言っておいて、おいお前つけてるじゃん、みたいな。

「まぁ、黙っとけば周りも分からないだろうし、ね」

事の発端は家に遊びに来たおばあちゃんがプレゼントしてくれたことから始まる。普通にプレゼントをもらって悪い気はしないし、それが可愛いネックレスなんだから当然嬉しい。おばあちゃんが私のために買ってきてくれた物なんだ!と思えば、先程までぐだぐだ言っていたのも嘘みたいに着けられてしまう。私って、単純。

「あー、見えちまうな」

髪をかき上げて、首元を見やすくする。すると分かったことが。夏は暑すぎるからカッターシャツも第二ボタンまで開けるのだけど、そうするとネックレスを着けているのが見えてしまう。学校でアクセサリーを着けてる奴なんていっぱい居るけど、一応校則で禁止されている。仕方ないか、と第一ボタンだけ開けることにし、髪はいつも通りポニーテールで、うん涼しい。
行ってきます、と母親特製お弁当を持ち学校へ向かった。










「あれ?それローズクウォーツじゃない?」
「へ、へぇ。何それ?」
「恋愛運上昇のパワーストーンよ。あれ、アンチ風水派じゃなかったっけ?」
「知らなかったらセーフでしょ。これ昨日おばあちゃんからプレゼントにもらったやつなんだ」
「ナマエっておばあちゃん大好きだよね」

くそ、どうしてばれたし。
目の前にいるのはミリアリアとフレイ。学校で仲良くご飯を食べているときに、めざとくネックレスを見つけられた。校則を破ったことに関しては何も言ってこない。そんなこと咎めていたら、まず自分の首を絞めることになるからだ。ミリアリアもフレイも彼氏持ちで指輪着けているから、これに関してはおあいこ。

「まぁ、それで早くナマエに春が来ると良いわねー」
「出会いがあったらすぐに報告ね!」
「これごときで出会いがあったら世の中婚活なくなるんじゃ!」

見つかったことが何となく悔しくて唇を尖らせながらも、今日のお弁当のおかずのハンバーグを一口サイズに切っていく。

「よーし、五限目は体育ーっ」
「ご飯食べた後に走り回るのは良くないわよ」
「ふっ、ナマエさんの実力をなめてはいけない」
「馬鹿さ加減については認めてるけど」
「…えーん、フレイがいじめるよーミリィー」
「あ、よ、よしよし!」

思いっきりフレイに溜息をつかれました。










恋愛運上昇のパワーストーンとか、嘘だ。
あれは、私に厄災を呼ぶ。
厄寄せだ。

楽しみにしていた体育だったけど、体育館に行くまでの階段で生徒会役員が運んでいた山のような資料が降ってきて、それを受け止めてやることも出来ずに階段から落下。床さんから腰に一撃をお見舞いされ、しかしめげずに腰をさすりながら移動していると先生から荷物を運ぶのを手伝うように言われ、済ませて体育館へ行くと開始ギリギリで、体操服に着替えて今日の授業のバスケをやっていれば男子の方から飛んできたボールが後頭部の辺りを直撃し、脳震盪でついにダウン。
私が何をしたっていうの。

「あー…うー…」

保健室のベッドの上で声を出してみればやはり頭に響く。すると保健室の先生が様子を伺いに来てくれた。

「あら、大丈夫?」
「まぁ、なんとか…今何時ですか?」
「もう夕方よ。五時半ね」
「げ、もうそんな時間」

外は夕暮れでいい加減に帰らないと、と先生に言い保健室を出た。ガラガラ、と扉を開けると窓の外に夕焼けが見える。そして、澄んだ青と目があった。

「ナマエ・ミョウジか」

壁にもたれ掛かり腕を組んでいたのは隣のクラスのイザークだ。不機嫌そうに眉を寄せてるし、そもそもその視線が鋭い。

「そうだけど、何?」
「その………謝りに来た。ボールを貴様に当ててしまったのは、俺だ」
「それでわざわざ?こんな時間まで待っててくれたの?逆にごめんね」
「いや。それは構わない。あと、これなんだが…」

差し出されたのは私の首にあったはずのネックレスのチェーン。おそらくボールにぶつかったときか倒れたときになったんだろう、チェーンが切れていた。

「すまなかった」

不機嫌そうに眉を寄せていたのは、私が保健室からなかなか出て来なかったからじゃなく、自分のやってしまったことに対していらついていたんだろう。真っ直ぐな人だ。

「いいよ、チェーンぐらいまた買えるしさ」
「その事なんだが」

これでいいか?と再び差し出されたのは、朝見たローズクウォーツの石がついた別のチェーンのネックレス。買ってきてくれたの?と聞けば、イザークは頷いた。

「石は体育館に落ちていたから回収できたんだが、チェーンは直すのが無理だったからな」

本当にいい人なんだ。野心家でやかましいやつと聞いていたから、余計にそう思えてしまう。
ネックレスに手を伸ばし受け取ると、その場で着けようとした。が、

「貸せ。俺が着けてやる」

渡してもらったばかりのネックレスを引ったくるとイザークは私の後ろに立った。イザークの手が私の髪をすくって前に流れさせる。首筋に、一瞬手が触れた。

(え、)

ネックレスをかけるために首に腕がまわされる。
イザークの吐息が首筋にかかった。

(ちょ、)

距離が、近い。
後ろを見なくても、それぐらい分かる。
ぐっとスカートを握った。

どきどき、と心臓が異常なぐらい鳴っている。

ちら、と胸元で揺れているピンク色の石を見た。





もしかして石の効果ですか?





この石がこの状況をもたらしてくれたなら、悪い物ではないな、と思えた。




(どうした?顔が赤いぞ)
(夕日のせいだよ!そ、それよりあのさ!)
(?)
(これからアイス食べに行かない?何かチェーン買ってきてもらって付け替えるとかいろいろしてくれたみたいだし、お礼に)
(壊してしまったのは俺だが…それで貴様の気が済むなら、いいだろう。付き合ってやる)
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