手紙
また、みんなでここに集まろうね。
そう約束したのは随分前の事で、ナマエ・ミョウジは懐かしいなぁ・・・と空を眺めた。
カレッジの研究室でここ二週間籠もって研究中では有るが、たまには羽を伸ばしたい。そして羽を伸ばさないかと、幼年学校からの友達ディアッカ・エルスマンからお誘いを受けている。少しぐらいならいいだろうと、教授から休みを貰い、今日の午後から少し付き合うつもりだ。
「ん」
ピーピーと電子音が鳴り、ナマエはバンッとその音を叩いて止めた。午前はこれで終わりだ。教授に一言声を掛け研究室を後にすると、約束の時間までに集合場所へと向かった。
懐かしいメンバーがぞろぞろと『噴水公園』と呼ばれる待ち合わせによく使われる場所に集まっている。オレンジ色でぼさぼさ髪のラスティ・マッケンジーや、鋭利な印象のイザーク・ジュール。一番先に言い出したディアッカは相変わらずまだ来ていない。遅い遅いと叫びながら文句を言うイザークを余所に、アスラン・ザラとニコル・アマルフィはナマエはまだかと心配していた。
「ナマエって、今は研究室に所属してるんですよね?」
「この前一度そこの通りで会ったんだが、少しやつれ気味だったな」
「そうなんですか?!」
「というより、ナマエはまだなのかッ」
イザークが話に割って入るなりそう大声で怒鳴るので、ラスティは落ち着けよーとイザークを宥める。普段はこの役はディアッカの筈なので、少し慣れていない様子だ。
「って、来たみたいだぜ」
「ん?」
ラスティの言葉にイザークがサッと振り返る。その表情はどこかしら嬉しそうだ。
「連れてきたぜー」
「「ナマエ!!」」
「みんな久しぶりー」
ディアッカがナマエをエスコートして来る。アスランとニコルが彼女に声を掛けると、にっこりと笑いかけてくれた。
「イザークもラスティも、久しぶり」
「あぁ」
「もーナマエーっ!!可愛くなっちゃってー!!どう?ラスティさんと付き合わない?」
ラスティがそう茶化すとイザークとアスランに同時に叩かれる。こういうときだけ彼らは相性が良い。ナマエもくすくすと笑うと『考えておくわ』と適当にラスティを交わした。
「で、タイムカプセル。開けるんだよね?」
「そうそう!!そっちがメイン!!」
ふられたことを弄られまいとラスティは必死に話をそらす。
「んじゃ、アカデミーに行きますか」
ディアッカの声掛けに、みんなは頷いた。
アカデミーに着くと、懐かしい教官などと話をして、カプセル保存場所に案内された。
「にしても、平和になった途端ナマエは軍人を止めたか・・・ナイフの腕は素晴らしかったのになぁ」
と呟くのはフレッド教官だ。ナマエはすみません、と頭を下げた。
「まぁ、平和になったからいいんじゃね?」
「そうですよ。僕もピアニストをしている訳ですし・・・」
当然平和が一番だ、と笑う教官はそのまま廊下を真っ直ぐ歩き『保管庫』の前まで来た。
「実は、一年ぐらい前に他の奴等も取りに来ているんだがな。お前達は忙しいとかで、別に保存しておいた」
「すみません・・・」
イザークが律儀に謝ると、教官は苦笑した。
「お前は相変わらずだな、イザーク」
「そーそー相変わらずのおかっぱ・・・」
「殺されたいようだな、ラスティ」
ギロリと睨まれ、ラスティは黙り込む。ディアッカとナマエは率先してカプセルと引っ張ってきた。
少し埃臭く、実際カプセルの上には薄く埃が積もっている。咳き込みながらもゆっくりとカプセルと開けた。すると、
「あぁ、こんなモンも入れたよねー」
「懐かしいね。特にディアッカのエロ本」
「ちょ、ナマエ!! そんなの懐かしい産物にしないでくれよーっ」
「当然だな。実際、貴様授業をさぼって屋上でずっと読んでいただろうが」
「あれ? イザークも一緒に居て読んでなかったっけ?」
「俺が読むはずないだろう!! 馬鹿か貴様は!!」
「イザーク変態ー」
「ナマエ!! それは嘘だぞ!! というより分かるだろ!!」
「いや、どーだか?」
「あ、これ。ニコルのだろ?」
「ピアノの楽譜? 流石ニコルだね」
いろいろな掘り出し物(?)が見つかり、皆キャーキャーとはしゃいでいる。その中に古びた缶を見つけ、騒ぎ声がピタリと止まった。
「確かこれって・・・手紙入ってたよね?」
その手紙の内容は確か俗に言う『恋話』というものだったはずだ。
当然『好きな相手を書く』というコーナーがあって皆それを書いた記憶がある。この場にいる男達は全員同じ相手を書いたが。
「・・・・・・・・ナマエってさ、誰、書いたの?」
ラスティが恐る恐る聞いてみる。
「そう言えばあの時貴様、はぐらかしただろう」
起こっているように見せかけて実は気になりまくっているイザークが追求し始めた。
「そういや聞いたこと無いよなー、ナマエの好きな奴」
幼馴染みのプライドを賭けて是非書かれていたいと望むディアッカ。
「ナマエ、無理しなくてもいいですよ。それより今が大事ですから」
そう言いつつ目は爛々と輝いているニコル。
「これから毎朝俺に味噌汁を作ってくれても全然構わないんだが・・・」
アスランは一人抜け駆けを試みようとしている。
言ったこと無かったっけ?とナマエはとぼけているが、その顔は真っ赤だ。きっとこの中に居るんだ、と確信し、男達はナマエをじっと見つめる。
「私が書いた人は、ね・・・」
そこに居たのは、照れたようにはにかむナマエと、
このメンバーの目の前で告白された青年の真っ赤な顔だった。