「どういうことだ、えぇ!?」
「ちょ、イザーク落ち付けって」
「そうですよ、焦ったってどうしようもないんですから」

今ガモフでもめ事を起こしている張本人はイザーク・ジュール。そしてそれを必死になだめているのがディアッカ・エルスマンとニコル・アマルフィだ。

「心配なのはお前だけじゃないんだしさ」
「イザークの気持ちはよく分かりますが、とりあえず落ち着いてください」
「うるさい腰抜け!!これが落ち着いていられる状況か!!」

イザークが机に叩き付けたのは、一枚の報告書。

ラクス・クラインとナマエ・ミョウジの行方不明が書かれた、一枚の紙だ。

「追悼慰霊団の事前調査か何か知らないが、『追悼慰霊団』の船を落としたんだぞ!!ナチュラルは!!」
「でも、ラクス嬢やナマエの死体が見つかった訳じゃないんだし」
「大丈夫ですよ、きっと」

ディアッカやニコルが言うことはもっともで、イザークも言うことを聞くしかない。

「ナマエは・・・本当に大丈夫なんだろうな?!」

キッと睨まれ、ディアッカは溜息をつくと、『あぁ』と頷いて見せた。

「大体、ナチュラルに人質として取られたとしても、それだけの価値はあるんだからさ。生かしておいてくれるって」
「ザフトレッドなんですから」

助けに行きたいのはやまやまなのだが、今出撃できるパイロットが少ないため、人員を割くことはできない。
もうすぐアスラン・ザラが帰ってくるが、それでも四人だ。

「ナマエの機体、やっとくるってぇのに」
「アスランが持って帰ってくるんでしたっけ?」
「えーと、確か俺達と同じ形式番号で作ったらしいぜ」
「と言うと、GATですか?」

だんだんと話が横にそれて行っているが、イザークの気を紛らわそうとした二人の努力だろう。

一足先にデータとして入ってきた、もう一枚の報告書を見る。

「GAT−X209と言うと、僕と同じですね」
「ちぇ、ナマエとお揃いってか」
「言ってしまえばそうです」
「何だとぉッ」
「っと、イザーク。いきなりなんだよ」

作戦は成功したようだ。こういう話題になると、直ぐにイザークは首を突っ込む。

X200番代というとニコルの機体のような特殊なタイプになってくる。アスランのイージスはX300番代。これは可変フレームを使用している場合だ。そしてイザークのデュエルとディアッカのバスター、そして・・・

「そう言えば、足つきのストライクも、X100番代だったな」

ラスティが乗るはずだった、ストライク。
3人に何となく沈黙が訪れる。
やっぱりナマエが居ないとどうにもならないことを悟り、ディアッカは愚痴をこぼした。

「あーぁ、ナマエ早く帰って来いよぉ」
「もしかしたら、足つきに居たりするかもしれませんね」
「縁起でもないこというなって」

ニコルとディアッカが珍しく仲良く笑っている中(イザークが怖いと思われる)、イザークはただ一人嫌な予感にとらわれていた。

(まさか、な・・・)

窓から眺められる宇宙の先の、足つきの中に、彼女が居るというのだろうか。










アークエンジェルの士官室の前には、大勢の、とまではいかないが人垣が出来ていた。みな扉に耳をくっつけて、中の音を聞こうとしている。CICの管制官トノムラや射撃指揮パルはどことなく楽しそうに様子を窺っているが、それ以外のメンバーは何も言わずにただじっとしていた。

あの時、銃を構えてこちらを見たのは、間違いなくナマエ・ミョウジ本人だ。いくら離れていたからと言って、数日で忘れるようなそんな間柄ではない。そんな彼女が、自分達に銃を向けて、優しい雰囲気の彼女には似合わない真っ赤な服を着ていた。

「なぁ、キラ」

カズイ・バスカークが、隣にいるキラ・ヤマトに声をかけた。脅かした訳でもないというのに、キラの方がびくっと震える。

「あれって、ナマエ・・・だよね?」
「・・・・・・・・・・・・・・」

空気を読めよ、と言うようにサイ・アーガイルがカズイを睨み付ける。

その時、士官室の扉が急に開き、この人垣が崩れていった。そして、そこに立っていたのは、

「お前達はまだ積み込み作業が残っているだろう! さっさと作業に戻れ!」

顔立ちは整っているのに眉間にしわを寄せている所為で、怖い印象を与えやすいナタル・バジルールだ。
蜘蛛の子を散らすように逃げていく中、やはりカトーゼミに通っていたメンバーだけは一度士官室の中をチラッと見る。そこには、ピンク色の長い髪の少女がキョトンとして振り返っているのと反対に、こちらを見ようともしない―――否、見ることを恐れているような銀髪の少女が居た。真紅の瞳は揺れていて、自己を懸命に押さえているようにも見える。

ナタルが去っていく少年達をもう一度睨み付けて再び士官室の中に入っていく。艦長、マリュー・ラミアスがわざとらしく咳払いをする。

「失礼しました。それで・・・」
「わたくしはラクス・クラインですわ。これは友達のハロです」
《ハロ・ハロ・ラクス》

ペットロボットまで紹介し始める、この天然な少女を見てムウ・ラ・フラガは頭を抱えた。

「で、君は?」

こっちならまともに答えてくれそうだと、ムウ変な期待をかけてみてもう一人の少女に問いかけてみる。すると真っ直ぐムウを睨むように見てきて、一言こう言った。

「ザフト軍所属、ナマエ・ミョウジ」

紅い軍服。
ザフトレッド。
それはザフトの中でもアカデミーでトップテンを取った者にしか与えられない、言わばエースの称号だ。

「詳しい所属とか、言える?」

一般兵ならそこそこ答えられる奴もいるかもしれないが、エースである彼女にそれが言えるかどうか。言えないのであれば相当重要機密を抱えていると言うことだろうが。

「・・・・・・・・その前に、一つ質問してもよろしいでしょうか?」

ナマエと名乗った少女は、真剣な顔つきでマリューを見た。

「貴様、自分の立場が分かっているのか!?」
「いいのよ、ナタル。それより、何かしら?」
「・・・・・・・・この艦の名前を教えていただけますか?」

何となく、嫌な予感がしていた。
何度か地球連合軍の戦艦を見たりもしていたが、この内装には全く見覚えがない。それは最新式かもしれないという感覚であり、地球連合軍の最新式の戦艦で思い当たるのが、あのヘリオポリスを脱出した『大天使』。もしそれならば、この船はクルーゼ隊に狙われているのだから、もし落とされたら自分達は死ぬのだ。

「名前、だけでいいの?」
「はい」
「この艦の名前は『アークエンジェル』よ」

やはりか、と溜息が出た。

「やはりっていうのは?」
「そんな気がしていた、という事です」
「この艦は先日発進したばかりで、内装などは公開されていないはずだが?」

ナタルの鋭い指摘にナマエはしまった、と内心舌打ちをした。

「まーまー、ヘリオポリス脱出で最新式の戦艦があるって事は、プラント本国にもばれてるさ。だろ?お嬢ちゃん」

で、さっきの質問の続き、とムウは話を元に戻した。

「君は何処の隊所属だ?」

「・・・・・・・・・・クルーゼ隊です」


「・・・マジか」


クルーゼ隊と言えば、もう何度もこの船を攻撃している、そして今でも必死に追いかけてきている部隊だ。

「クルーゼ隊のトップガン、ということは人質としての価値はある、ということです」
「ナタル!」
「もしもの時のためです」

二人が少しばかり口論をしているとき、ナマエは賭けに勝ったと一息ついていた。

(クルーゼ隊、って言って生きるか死ぬかのどっちかだったから・・・・・・・ん?)

誰かが手を握ってきた。誰か、といってもそんなことをしてくる人は、この場に一人しかいない。

そっと横を見てみると、『人質』という単語を聞いて心配そうにしているラクスと目があった。大丈夫だよ、という意味を込めて微笑むと、ラクスも何とか笑いかけてくれて、ホッとした。

「とりあえず、殺しはしないから安心してくれよ」

そう言うと、ムウは通信を入れ、誰かを連れて士官室に来るように頼んだ。
しばらくすると拘束具を持ってきた軍人が入ってきて、ナマエに手錠を付けると連れて行かれた。

「ナマエ・・・っ」
「大丈夫です、ラクス」

強気の笑顔でそう言うと、ナマエは大人しく軍人に引っ張られていった。










(はぁ・・・)

またあんな表情をさせてしまった。
ラクスに不安を与えないようにと、気を遣っていたはずなのに。すぐにそのことを忘れてついつい無茶をしてしまう。

捕虜のための部屋についてから、ちゃんと手錠は外して貰ったが、やることが無いためとりあえず思考にふける。

すると、誰かの気配がした。
こちらの様子を窺っているようだ。

「誰だ?!」

ベッドから上体を起こし正面を睨み付けると、しばらくして懐かしい顔ぶれが見えた。

「っ・・・・・・・・・・」

舌打ちしたくなる気持ちを何とかこらえ、変わらず強気に振る舞ってみせる。それしか自分が出来ることは無かった。

「・・・あ、ナマエ・・・だよな?」
「久しぶり、サイ。ミリアリアも。後ろ居るのはカズイとトール? キラは居ないの?」

最後に別れたときと同じ、優しい口調で話しかけてみるが、相手は完全に怯えているようだった。

「ねぇ・・・どうしてナマエはザフトの服を着てるの?」

どうして。
そんな質問、されたって困る。

「どうして、って・・・それは、勿論兄が地球軍に殺されて、憎いからでしょう?」
「っ・・・じゃあ、いつからザフトに・・・みんなと一緒にカトーゼミに居たときは?」

ミリアリア・ハウの、否定して欲しそうな瞳が、ナマエを痛めつけた。

そんな目、しないでくれ。
自分に、君達を救う言葉なんて掛けることは出来ないんだ。

「ずーっと前。カトーゼミに居たときよりも前に、私はザフトの人間だったよ」
「じゃあさ、もしかしてヘリオポリスにあの機体の情報漏らしたのって・・・」

今度はサイだ。
ミリアリアと同じような目で、自分を見てくる。

「私よ。正確には違うけど。私の部隊の隊長がもうとっくの前に目星を付けてて、私はそれの確認に行っただけ」

気は済んだ?
もう私は疲れたんだけど。

でもそんなことは言わない。

「・・・・・・・・・・・・・もう、君達との関係は敵でしかあり得ない」

自分がこうしてザフトの軍服を着ている以上。
君達がこうして地球軍の軍服を着ている以上。

それは敵である証だから。

「戦いたい訳じゃないけど、その服を着ているって事は、覚悟はあるはず。だから・・・」

私は、全力で潰す。

そうナマエが言うと、みんなの肩が震えた。

「・・・・・・・・・・・・ごめんね、ミリアリア」

そっとミリアリアに手を伸ばす。拒絶されるかと思えば、そうでもなかった。

「・・・・・・・・・・・っぱり・・・」
「?」

「やっぱり、ナマエはナマエだったね」

笑顔で、そう言われ。
ナマエは不覚にも泣きそうになった。

「何を馬鹿なことを言って・・・っ。私は、ヘリオポリスの崩壊を招いた張本人なんだよ!?」

どうかしている。
そう思ったけど、みんなは全然そんな顔してなかった。

「ナマエは俺等のお姉さんみたいな存在ってポジションには変わりないから!」
「そーそー、また注意してくれないと、エアコン壊すよ?」

トール・ケーニッヒとカズイが、茶化すようにそう言って、

「ほら、みんなこういってるしさ」

サイも、

「私達はナマエの見方だよ。今はキラ、居ないけどね」

ミリアリアまで、そう言って。

ナマエは、涙を流しながら、呟いた。

「ばか・・・」

そして、次の瞬間には、キッとトールとカズイを睨み付ける。

「でも、エアコン壊すのは許さないから」
「「ひ〜ッ、ごめんなさーい!!」」


こうやって馬鹿やってるのが、この仲間で、

でも戦場に立てば、私の周りには紅い服を着た仲間がいて、

馬鹿をやってる仲間は、敵陣にいるけど、


今だけはいいか。

って、そう思えた。










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