ビッグブリッジ近辺。
クラサメはその鋭い眼光で生け贄となる候補生を見つめていた。氷剣の死神、と恐れられた自分がこんなふうに死ぬなんて、若い頃は想像したことなどなかった。それなりの努力をしてきたから(才能もあったと思うが)そう呼ばれていたのだと思っているし、戦死などない、とあり得ないことを心のどこかで思っていた。だからこそ当時の自分の愚かな思考回路に情けない笑みを浮かべそうになる。それをこらえるために、自分と同じ道を選んだ候補生を背に、セツナ卿に向き合った。
背後に立つ全ての生徒が、自分より若い。
まだ二十歳を越えることはなく、これからまだ可能性があるというのに。だがそんなことは言わない。彼らに自分が出来ることは、ただその強い意思を守ることだけなのだ。
一つ心残りは、最後に見た彼女の寂しそうな顔。死なないでね、と言った彼女にできもしない約束をし、その体を抱き締めたことが遠い過去のようだ。
セツナ卿の視線が、自分を射抜く。嘘をついたことを、見抜かれたのだろうか。だが、

「了とした。では、粛々と初めるとしよう」

ふわり、と振り返り、セツナ卿が、朱雀一の召喚師がこの戦況を覆すために、詠唱を始める。
声だけが響いた。










私に与えられていた使命はこうだ。
0組を砲撃援護が開始されるまで援護し、それが終わり次第引き返すというものだ。
戦地から引き返す先にいるのは死神だというのだから、自分の笑えないジョークも冴えてきたと思う。

「はっ……はっ……」

走れ。走れ。
明日の戦局での自分の体力を考える必要はない。魔力以外の全てを今このとき使用すればいい。
砂だらけの地面を蹴りながらたどり着けば、もう詠唱は始まっていた。私が一人抜けていたせいで、魔力吸収スピードが早かったのだろう、すでに2、3人倒れている。その候補生の塊の前に、一人の死神がいた。

(ふらふらじゃないの)

彼の魔力を差し出すために出された腕が、下がってくる。しかしなおその腕を支えようとする姿に、彼が軍人で有り続けるという信念が見えた。

(だから私はあなたを望み通り殺してあげるわ)

彼の腕を支える。後ろから抱き締めるように、そっと。それは、彼に死を催促するものでしかない。すると死神は驚いたように振り返った。

「何故、ここに」
「貴方だけだと思った?軍令部長から声かかってるの」

鋭いようで案外抜けてるのね、なんて笑い飛ばしながら急ピッチで魔力をセツナ卿へ送る。援護のせいである程度減っていたが、それはちゃんと計算に入っているだろう。

「や、めろ」
「何も教えてくれなかった仕返しよ。貴方の言うことなんか、聞いてやら、ない」

大量の魔力放出に彼を支えていたはずの体が、沈んでいく。脆い。大量放出とはいえ、大切な魔力をもっと大切な0組のためにずいぶん使っていたようだ。

「ナマエ……っ」

彼が名前を読んでくれたから、実はもう満足なんだけど。

もうひとつだけ、わがままをきいてもらおう。

「ク、ラサメ」
「…………?」



死ぬときぐらい、一緒にいたいよ。



(付き合っていてもろくに一緒にいられなかったから)

彼の腕が強引に私を前へと引き寄せると、震える手でマスクをはずし、また強引に唇を寄せた。

最後まで彼のことを覚えていれたから、どうやら先に死ねたみたい。




(願いは全て叶えられました。)
×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -