紅と翠の境界線



《これで君は何度目になるんだい?》

呆れたような、いや、実際呆れられている声が、通信機から聞こえた。画面に映るのはザフトの『お偉いさん』。ただ上から命令するだけの、戦場で戦いもしない人だ。しかし、今回の非は自分にある。今回に限った事ではないが。

「申し訳ありません」
《いや、毎度そう謝られるがね・・・それでも君はフェイスかい?》

――― フェイス。
それは特務隊の証ではあるが、ハイネ・ヴェステンフルスにしてみればフェイスだろうが只のザフトレッドだろうが、関係ない。だが、戦場に送り出すだけ送り出して、自分だけ余裕面かまして生きている『お偉いさん』は気に入らなかった。そんな人達に文句を言われるのだから、少し文句を言い返したいところではあるが、これでも20歳を越えているので我慢する。

「いや、まぁ・・・自分でもこの散らかり癖は直したい所なんですが・・・」

通信機を通してでは見えないだろうが、ハイネの自室であり隊長室であるこの部屋は、足の踏み場がないほど散らかっている。今回もそれが原因で大切な書類を一枚なくしたのだ。
癖を直せばいい話なのだが、自分の部屋だと思うとどうしても散らかってしまう。かつてミネルバに所属していたときはそうではなかったが、今こうして自らの部隊を率いていると何故かこうなる。

『お偉いさん』は深々と溜息をつき、口を開いた。

《今回は複製が可能な書類だったから良かったが・・・次からどうするつもりだ?》

その一言に何も言い返せず、ハイネは押し黙った。すると相手は仕方ない、と首を振る。

《最近、なかなか能力の高い新人が卒業試験に合格したんだが・・・》
「?」
《『超記憶能力』というか・・・まぁそんなものを持っていてな。君の所に配属させようか?》

超記憶能力。
イメージは掴みにくかったが、おそらく見たものを全て覚えていられるのだろう。それなら書類の場所なども覚えておいて貰えるし、第一書類の内容を全て記憶させておけば、なくしても心配は要らない。

「ぜひ」
《では、彼女の教育などは頼んだよ》

どこかホッとしたような表情を見せて、相手は通信を切った。

(彼女・・・?)

と言うことは女か。
それならこの男ばかりの(オペレーター以外)艦にも花が咲くというものだ。少し楽しみにしつつも、あの『お偉いさん』の言葉に何かある・・・と疑いながら、とりあえず部屋の整理を始めた。










「ナマエー?」

ボーッとしていたので(というより寝かけていた)、声を掛けられていることにしばらく気付かなかった。が、肩を揺さぶられ、さすがに気付く。

「ほえっ・・・みたらしだんごが・・・むぅ・・・・・・」
「ちょ、起きなさいよ。いつまで寝ぼけてんの。っていうか、『みたらしだんご』って何よ」
「み、たら・・・は、お餅を焼いて・・・」
「いや、知ってるから。もう、しっかりしなさいよ」

寝ぼけている彼女ナマエ・ミョウジは十九歳ではあるが、実際アカデミーに入ったのは十七歳でとある問題行動の所為でここまで卒業が送れたのだ。

「ほらっ、寝ないの!」
「っやぁ・・・」
「嫌じゃない!!」

卒業は出来ると確定したが、この様子じゃ配属先も不安で仕方ない。『あんた配属先どうするの?』と聞いてみると、寝ぼけ半分で『クルーゼ隊』と帰ってきた。

「いや、クルーゼ隊はもう既につぶれてるし、あったとしてもあんたじゃ無理だから」
「そんなことないも・・・・・・・・・・・・」

そこまでいってナマエの意識は途切れた。
これからどうなるのやら、と溜息が出た。










「はぁ?」

また何かの冗談かと思われているのだろうか。目の前にいる友人は何いってんの?みたいな目で見てきた。勿論冗談でも何でもないし、実際自分の卒業証書と配属先の書類にはそう書いてある。

「クルーゼ隊って言ったときは嘘かと思ったけど・・・それでもヴェステンフルス隊はすごいわよ。もう本気で。うん」
「えへへー」

にこにこ笑ってみせると、溜息をつかれた。また呆れさせているようだ。

「まぁ、頑張りなさいよ」
「うん!」

肩をぽん、と叩かれてそれぞれの隊の先輩が居る所へ分かれた。先輩は自分と同じ緑色の服を着ていて、でもその堂々とした姿は有名だった。

「・・・黄昏の魔弾?」
「おーぅ。お前がミョウジか!」

彼の実績は、そこらへんの赤服より噂に聞く。最近の撃墜数は赤服に匹敵するほどだ。ラウ・ル・クルーゼが戦死してからヴェステンフルス隊に移動したと聞いたが、まさか本当だったとは。

「はいっ、ナマエ・ミョウジです!よろしくお願いします、ミゲル先輩!」
「先輩なんて堅苦しいのナシナシ。ミゲルでいいよ」

ミゲル・アイマンはさっと手を差し出してくる。ナマエはそれに応じて握手をすると、顔を見合わせて笑った。










二人でスタスタとヴェステンフルス隊のローラシア級戦艦『アシュラ』に向かう。本来ならば個人で後日訪れるものだが、アカデミーの教官直々に『本日共に行くように』言われた。特殊能力持ち、だと言うが、これはすこし過保護ではないだろうか?とミゲルは首を傾げる。

「あ、すみません・・・手間を取らせてしまって・・・」
「いや、良いんだけどよ。あ、そういや、隊長と俺の声、そっくりだから間違うなよー」

ナマエの気分が落ち込んでいるのを見て、とっさにいつものネタをやっておいた。クルーゼ隊の時なら『仮面の話』などが出来たのだが、今ではそれができない。少し寂しさを感じつつも、あいつら出世してるんだろうなーとうらやましがったりしてみる。

「ご兄弟だったりされるんですか?」
「いや、血縁関係はないんだけど・・・なんでか、口調とかも似てるし。声だけ聞いたら誰かわかんねーって」

あの前髪には負けるけどな、と付け足すとナマエがくすくすと笑い出した。

「お前等おせーぞ!!」

艦に入った瞬間、上から声がかかる。
見上げるとそこには派手なオレンジ色の髪に真紅の服。そして印象的なフェイスバッジ。

(声、そっくり・・・)

確かにミゲルと似ているその声に、ナマエはぼーっとハイネを見つめた。相手はじっと見られていることに気付き、ん?と首を傾げる。

「お前がナマエかーっ?」
「あっ、はいーそうですーっ!」
「じゃあぐるっと見学してから隊長室に来いよーっ」

お互いに声を張り上げて会話をする様子を見て、ミゲルはふと思う。

(いくら上にいるとはいえ、床蹴ったら直ぐ側にいけるのに・・・)

もしかしてこいつら似た者同士か?とこれから先に起こるであろう未来に溜息をついた。










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