おひるごはん
暑苦しい風が頬を撫で、不快感に目を細めた。
「だる・・・・・・・」
鬱陶しそうに前髪を払うと、持ってきた煙草に火を付け、吸い始める。
ナマエ・ミョウジと言えばこの学校で不良として有名で、いつも先生に見つかっては生徒指導室に呼ばれるというのに、反省の色は毎度の事だが見えない。
「めんどくせ・・・・・・」
どうして、自分はこんな所にいるのだろう?
「知るかよ」
今シーズンは、去年の冷夏とは違い熱気を振るっている。
これほど熱かったなら、嫌でも訳の分からない質問が出てくるはずだ。
そう思う事にした。
「帰りてぇ・・・・・・・」
だるい。
何をしたらいいのか分からない。
そんな時、嫌な足音が聞こえた。
この足音は・・・・・・・・
「見つけたぞ」
「げ・・・・・・」
いっつも、いっっっっっっつも自分が授業を抜け出したとなると探しに来る、アスラン・ザラ。生徒会長だ。まぁ最初から逃げ切る気なんかこれっぽっちもなくて(当たり前だ、逃げ切るつもりなら毎日ここに居やしない)、鬼ごっこをしている感じもあったが、今日はそんな気分じゃなかった。
「なんっすかぁ、ザラ先輩」
「ナマエ、いい加減にエスケープは止めろ。進路に影響がでるぞ」
んなもんとっくの昔に出てるよ、と言い返したくなったが、止めた。それを言えばまたこいつから説教を喰らう羽目になる。それだけはお断りだ。相手に干渉しないのが、こういった奴を切り抜けるこつだ。
「ったく・・・」
アスランはぶつぶつと文句を言いながらも、ナマエの隣に座り、煙草を取り上げた。
「こんなものの何が良いんだ?」
「しらねぇよ」
そう、分からない。
こんなものをしている自分が、本物だとは思っていない。
でも普段はいつもこれで。
「・・・・・・・・・・・・・・・本当の君は何処に居るんだ?」
アスランが、まるで自分の心を読んだかのように問いかけてきた。
ナマエが目を細め、わかんね、と呟くように答えるとそうか・・・とアスランはそのまま黙り込んでしまう。
「本当の・・・自分、ね・・・」
その時、チャイムが鳴った。四時限目の終わりだ。下の方からざわざわと生徒達が話し始める声がし、机をくっつけてご飯を食べるようにしているのだろう。時々、ガガガガ、という机の足が床を擦る音がした。
「・・・・・・・・・・ナマエはご飯、食べないのか?」
「めんどくせぇよ。太るし」
「・・・一日何食だ?」
「2食」
「余計太るぞ」
「え゛・・・」
ナマエは唖然としてアスランを見つめる。
「し、知らなかった・・・」
だから太ったのか・・・・・・・とショックがやまない。
「だったら、ちゃんと食えよ」
そう言うとアスランは購買で買ってきたであろうパンを、ずいっと差し出した。キョトンとしてナマエはそれを見つめる。
「んだよ」
「だから、ちゃんと食べろって」
ちょっと顔を赤くし、ナマエはそれを受け取ると、背を向けてパンを貪りだした。
優しくして貰ったのが初めてで。
嬉しいと素直に思えなくて。
「礼はいわねぇからな」
「分かってるよ。ナマエはそう言う奴だから」
呆れたような溜息。
ナマエはむっとすると、アスランを睨み付けた。
「礼ぐらい言えるぞ!!」
「だから、言いたくないんだろ?だったら言わなくても・・・」
「言う!!」
どっちなんだ・・・とアスランは苦笑しつつ、ナマエの礼を待つ。すると、ぼそぼそとナマエが唇を動かした。
「あ・・・・・・ありがとう」
悔しそうにそう言うと、再び背を向けてパンを食べ出す。
チラッとアスランの様子を伺うと、嬉しそうにこちらを見ていて。
(やめろっつーの、その顔!!)
お世辞ではなく、アスランは普通に格好いい。さすが生徒会長をしているだけある(関係ないかも知れないが)。そしていくらナマエがそういった感情に鈍いと言っても、格好いい相手が自分の方を見て微笑んでいるのを見ると、悪い気はしない。
「じゃあ、これからお前、私の昼飯係な」
だったら煙草やめてやるよ。
そう言うと、アスランは昼ご飯代出してくれるなら良いぞ、と満足そうに言う。またその笑顔に心臓がドキドキし出して、はぁ、とナマエは溜息をつく。
「わ、分かった。お金は払う!!」
「本当に煙草止めるんだろうな?」
「ったりまえだろ?そこまでケチじゃねぇよ」
つかその顔見せんな、と言いそうになるのを必死にこらえ、何となく屋上から見える景色を眺めた。
「・・・まったく」
もう昼休み終わるぞ?と問いかけても、ナマエからの返事はない。普段からは想像も付かないぐらい穏やかな寝顔が、アスランのすぐ近くにあった。
彼女が不良になった理由。
そんな物は知らない。
でも、前はもっと温和しくてしっかりしている子だったと聞く。
しっかり、と言うところはある意味そのまま受け継がれているが、何らかの事件が有ったらしく、今こんな風になってしまった。
「君の過去は知らない。でも、俺は本当の君が見てみたい」
無理に強がって、
肩に力を入れて、
そうしてがんばっている君が、本当の君だとは思えない。
だから、ああして煙草を吸っている君が、本当の君じゃないと信じている。
多分そう言えば、優しい君は温和しい前みたいな君に戻るんだろう。
でも、それも君じゃない。
『本当』の君が見てみたい。
過去は知らないけど、『本当』の君が見てみたい。
それは贅沢な望みだろうか?
でもこのおひるごはんの時間だけは、本当に近い君と一緒にいられる。
それが、アスランには、どうしてか心を温める気がして、
優しく微笑んだアスランは、優しく頬に唇を寄せた。
そんな、『おひるごはんの奢り』という形で会う事になった、二人のお話。
あとがき
続編を書くつもりです。
がんばります。