日がちょうど真上に上がった時、阿幾はふと匡平が何処にいるのか気になった。年中サボり癖のある阿幾と違って、匡平はきちんと学校に通っている。したがって今は学校で大人しく勉強している筈ではあるのだが、なんとなく匡平は学校にいない気がした。もちろんサボっているという意味では無いのだが………。

気になったら動く性分であるからか、阿幾は立ち上がり暗密刃を呼ぶ。常に従い護るかのように暗密刃は地から召喚される。暗密刃の刃の部分を軽く撫でると、阿幾は暗密刃に乗って飛び立った。

(相変わらず何も無い村だな)

空から見た村はひどく廃れていて、集落に近いものを感じさせた。実際学校に教師が一人でみなが同じ教室という現状は、果たして世間は村と呼べるのか。村で一際大きい建物は阿幾が属する枸雅と勾司郎達の日向のもの。それだって東京などに行けば霞むのだろう。全ての小ささに阿幾は嘲笑すると、空から匡平を探し始めた。匡平ならば、たとえ空からとはいえ探し出すことが出来る。

ふと、目の端に何かが写った。間違える筈も無い、玖吼理である。本来隣にいるべきである匡平の姿は見えない。それに理由無く案山子を使うことは禁じられているのだ。

(そりゃ二人で遊ぶ時は案山子なんざいつも出してるが……。何も無いのに無断でなんて、匡平はやらないだろ)

とりあえず玖吼理の元まで暗密刃を操作する。すると音か波長か何かで感じ取ったのか、玖吼理がこちらを向いてきた。

「―――」(ブンブン)

腕を大きく振りながら、玖吼理はこちらを見ている。そんな自己主張しなくても分かるだろ、と阿幾は心の中でツッコミを入れてから地に降りた。

阿幾が降りると玖吼理はゆっくり阿幾に近づいて来る。その姿はさながら迷子が知り合いに会ったようで。デジャブだなぁ、と阿幾はまたツッコミを入れた。

「で、匡平は?」

案山子に話し掛けている自分を不思議だと思いながら、阿幾は聞きたいことだけ聞いた。玖吼理が何故此処に一体でいるのか、恐らくその問いは匡平の居場所と関係があると阿幾は思ったのだ。

「―――」

玖吼理は動かない。ちらりと暗密刃を見ると、暗密刃も動いていなかった。

「何処にいるのか知らないのか?」

「―――」(ブン)

頭を大きく縦に振ったということは、是という意味なのだろう。(とある国では縦に振ることが否であるという無駄知識は此処では披露しないことにした。)玖吼理に分からないとなると、もしかして面倒ごとに巻き込まれているのかもしれない。

(不幸体質過ぎるだろ……)

日常的に面倒ごとに巻き込まれる匡平の特性は、もう誰かに自慢していいレベルである。そんなことを思いながら、阿幾の頭に何かが浮かんできた。

(………もしかして、)

阿幾は暗密刃に飛び乗ると、玖吼理に着いて来るよう言い残して暗密刃をある場所まで飛ばした。阿幾の言葉をきちんと理解した玖吼理は、暗密刃の少し後を同じスピードで飛んでいる。

目的地に着いた阿幾はそこの庭へ暗密刃を残してから、ずかずかと部屋の中へ入って行く。それを咎める人間は誰もいない、いるはずがない。

「匡平!!」

阿幾は大きな声を上げて襖を開けた。




「うん、ごめんね玖吼理」

玖吼理の手を匡平が撫でる。安堵の態度なのか、玖吼理の力が少し抜けた気がした。

「にしても、大丈夫なのかよ匡平」

「ちょっと熱出ただけだよ」

「39°は世間ではちょっととは呼ばない。覚えておけよ」

「ははっ、そうだな」

くすりと笑う姿も弱々しい。それだけ体力が奪われているのだろう。

昨日、阿幾と匡平が遊んでいた時匡平が誤って川に落ちてしまった。その時は不幸だ何だ言っていただけだったからか、その後の処置を大雑把にやってしまった……筈だ。ろくに温めもせず着替えてまた遊んでいた気がする。

匡平はそれが原因で学校を早退したらしい。行ったは良いものの、学校で辛くなってしまった。冒頭の阿幾の予感は当たっていたということだ。しかし何故玖吼理が出しっぱなしなのか、それが阿幾の疑問であった。

「それは………、多分なんだけど玖吼理呼び出した気がするんだよね」

「覚えてないのか?」

「記憶が正直曖昧で……。多分玖吼理を呼び出して、それで……あぁそうだ、確か友達に借りてたもの返しに行って………、玖吼理はいると畏縮させるから置いて行った……のかも。で返した後は……そのまま帰っちゃった気がする」

「案山子を呼び出しておいて放置かよ。玖吼理の肩を持つ訳じゃないが、酷くないかお前」

「玖吼理を呼び出したことを多分忘れてた……のかな?」

「玖吼理はお前にとってそんな存在なのかよ」

「そうじゃなくて、玖吼理が傍にいるのが普通だから、出してても仕舞ってても感覚的には同じなんだよね。だから………、かな?」

弱々しく笑う匡平の顔を見て、何故か阿幾の口から溜息が漏れた。幼なじみは感覚すらも共有出来なくなってしまったらしい。阿幾はなんとなく疎外感を覚えた。匡平の言う当たり前を出来ない自分に対して嫌気がさしたのだ。

(匡平に出来るなら、俺にも出来そうな気がするんだよな……)

ちょっとした対抗心に火がついたのか、阿幾は立ち上がって暗密刃を出した。いきなりの行動に匡平の肩がすくむ。

「じゃあな匡平、また後で」

「―――何する気?」

「ちょっと暗密刃と仲良くなろうかな、なんてな」

冗談混じりに聞こえる台詞に隠された意味を、匡平は理解していたのだろうか?しかしその問いに答える間もなく、匡平は笑顔でいってらっしゃいと言った。
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