常盤台中学の一室にて、美琴はある人間と対していた。美琴が苦手とする人間で、それでも関わらずにはいられない。そんな矛盾を抱えていた。

「話さなくていいよ」

見透かしたように、心理掌握は言った。美琴の中の"苦手である"という感情を読み取ったのだ。

「………流石と言うべきなのかしら、心理掌握」

「旧とは言え実力が劣っているわけではないよ御坂美琴。私はその事実を相手が認識していないことがひどく腹立たしいな」

カチャリとカップをテーブルに置く。ゆっくりと広がっていく波紋は心の波のようで。美琴は心理掌握の顔を覗き込んだ。

「馬鹿らしいとは思ってる。でも私達は宣戦布告された。もうじき戦争が起こるっていうね」

「そんなに新レベル5とやらは騒ぎたいのか。以前の私達よりも血の気が多いんじゃないか?」

「心理掌握、これは真面目な話よ。貴女にも戦いに出てもらわなきゃいけない」

「………断る」

「ちょ……どうして!!」

「私は命令されるのが嫌いなんだ。動く時は私の意志で動く。御坂美琴、オマエ達に付き合うなんて御免だね」

「………、そうよね。アンタはそういう奴だったわ」

「話は以上だ御坂美琴。麦野沈利や垣根帝督、一方通行らを連れて来ても変わらないからな」

「分かってるわ。邪魔したわね」

あまり行儀良いとは言えない仕草で美琴は立ち上がり、心理掌握の部屋を出ていった。

「うーん御坂美琴、やっぱり感情面でオマエは不安定すぎる。この心理掌握相手に苛立ちを見せるなんて全ての感情を見せているようなものじゃないか」

心理掌握は含みのある笑いを浮かべ机の棚を開いた。そこには数えられない程の資料があり、それらは全て新レベル5についてのものだった。

「さぁて、誰から潰していこうかな」

心理掌握が笑った。



上条当麻は走った。とにかくとにかくとにかく、何かから逃げるように。

(上条さんは何もしてない筈……、そうかこれは………、不幸だぁぁぁぁ!!!)

右手の幻想殺しで何かしら反撃は出来るかもしれない。しかし相手の能力次第であるし、何より未知の相手に幻想殺しは使いづらい。

「上条当麻は無実だぁぁぁ!!!」

「うるせぇよ!いいから止まれクソ野郎!!」

「止まれと言われて止まる上条当麻ではない!!」

「チッ、面倒臭ぇ。そっちがそれならこちらもこちらなりにさせてもらうぜ」

突然の烈風が当麻を襲う。烈風が体を裂く前に当麻は右手を前へ突き出した。

(あれ、消えない。能力じゃないのか?)

「動くなよ」

背後から当麻のうなじに手を添えられた。流石の当麻でも理解している、首は人間の急所。そこを押さえられた以上当麻は嫌でも言うことを聞かざるを得ない。

「まず名前、上条当麻だよな?」

「あぁ。無能力者上条当麻さんですよ」

「会うのは初めてだが………、これまた平々凡々な顔だな。一方通行が気に入る理由が分からねぇ」

「へ?一方通行の知り合いなの?」

「そうか、自己紹介がまだだったな。俺は垣根帝督、学園都市元第二位だ」

「不幸だぁぁぁぁ!!」

本日何度目かの当麻の叫び声が辺りに響いた。




「で、人様の耳元で随分叫んでくれたじゃねぇか」

「いや……何と言いますか、防衛本能的なやつでして……」

一方通行よりも序列は下であるが正直一方通行よりも怖いと、当麻は感じていた。一方通行の場合は能力頼りなので、能力発動時以外は大したことはない。しかし垣根は年齢に比べて身長も高く体つきも良い。外見だけの判断だが喧嘩慣れしていそうである。仮に喧嘩慣れしていなくても能力で打ちのめさせる可能性もある。

(ホント公式通りホストと不良を足した感じだよなぁ)

…………メタ発言はこの辺にして。ビクビクしている当麻とは反対に垣根は椅子に優雅に座っていて。通り掛かった女の子への笑みも忘れず。なんというか……、見ていてムカつく。

「で、何の用で?」

「んー、ホントはさ、オマエを巻き込むかどうかは迷ったんだが、一応無関係っていうのも悪いと思ってな」

「学園都市で何か起きるのか?」

「簡単に言えば戦争」

「戦争って!?、どういう意味の…」

「安心しろよ、オマエんちのシスター関連じゃねぇから」

「インデックスを知ってるのか?」

「いや知らない。御坂美琴から聞いただけだ。戦争って言うと大袈裟かもしれないが、要は新レベル5達が旧レベル5達に喧嘩売ってきたんだよ」

「………、すみません。旧とか新レベル5って?」

当麻の抜けた声と同時に窓が一枚割れた。何事かと店内が騒ぎで包まれ、店員が急いで片付けに来る。幸い近くには他の客がいなかったので問題は無かったが。当麻はチラリと目の前の人物を見た。

「あぁ…昔からの悪い癖なんだよな。苛立つことがあるとつい物に当たっちまう」

「………そうでせうか」

「で、オマエさっき何て言ったんだっけ?」

「…………何でもありません」

当麻ははっきりと認識した。自分は垣根帝督が苦手だと。そして彼の前では機嫌を損ねないよう大人しく振る舞おうと誓ったのだ。


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