スタズはリズが嫌いではない。たった一人の大切な妹だ。兄のブラッズをひどく敬愛してスタズの扱いは酷いが。ブラッズの性格がもう少し良ければスタズもまぁ好きになったであろう。しかし常に自分中心に生きている彼は、他人から好かれようという意思が無い。
しかしどうやらブラッズはスタズが好きらしい。外部から見ればブラコンの域であり、ちょっと気持ち悪い(Byベル様)何かと能力開発と言って構っていたし、スタズが家出をした後も水晶でストーカー紛いのことをしていた。ドアの隙間からその姿をみるリズの目は寂しそうだ。
つまりこの三人、気にかけるベクトルがズレているのだ。スタズ→リズ→ブラッズ→スタズと。恋愛ならば(一部複雑だが)女子が楽しくなる関係図だが、これは兄弟であり身内だ。
「スタズ、どうして帰ってきたの?」
「馬鹿兄貴に脅されたんだよ。面倒なことしやがって」
殿堂魔界は一般の者は入れない。スタズは殿堂魔界の者だが家出をしている。面倒臭い手続きをしなければならないのだ。
「兄様に何されたの?」
「来なかったら俺の秘蔵コレクションを燃やすってさ」
スタズのコレクションは幅が広い(もちろん魔界では)長年集めてきただけあって数も豊富だ。その総価値はかなりのものだろう。
そんなコレクションの部屋に、今朝小さな装置が付いていた。小さな紙が貼り付けてあり、そこには………
『親愛なるスタズへ。しばらく会っていないから顔を見せなさい。もちろん手続きは済ませてある。では殿堂魔界で待っている。ブラッズより。 追伸…来なかったらここを爆破させてもらう』
「兄様はこんなこと………するかも」
「あのクソ兄貴………。あっ、リズに土産だ」
スタズは持っていた袋から少し大きめの物を取り出した。
「これ………」
「この前気に入ってた人形シリーズだ」
「うっ嬉しくなんか……」
「そうかい。でも持って帰るの面倒だから貰ってくれるか?」
「そういうことなら仕方ないけど」
そう言いながら大切そうに受け取るリズ。スタズはリズの頭を撫でて笑った。
「帰ったぞ」
「やぁスタズ、おかえり。リズもご苦労だったね」
ブラッズの迎えにスタズは嫌そうな顔をし、リズは少し嬉しそうな顔をした。(ちなみにリズはマスクを外している)まさにお互いの気持ちが表れた瞬間だった。
「おい、アレはちゃんと止めたよな。いくら兄貴でも俺のコレクション燃やしたら殺す」
「安心しろ。既に起動しないようにしてある」
「そうかよ」
スタズの隣でリズは少し寂しそうな顔をする。マスクが無い彼女は年相応の少女にしか見えない。
「リズ?」
「何でもないです、兄様」
小さく呟く言葉は二人にやっと届く程の僅かなもの。リズの様子にブラッズは少し首を傾げるが、何事も無かったかのように戻った。そんな姿にスタズは嫌気がさし、リズの手を取って部屋を出た。ブラッズが何か話しているがスタズは振り返らなかった。
「スタズは兄様が嫌い?」
リズはスタズに問う。スタズがブラッズに対して取る態度が、リズにはそう見えるのだろう。心配そうな顔をするリズの頭を少し撫でると、スタズは笑った。
「なんだかんだで兄貴だからな。リズが心配するようにはならないさ」
「でもスタズは兄様のこと好きじゃないみたいだし」
「俺は兄貴の態度が好きじゃない。全部自分の思い通りにするっていう考えがな」
「………兄様はスタズのこと、好きだよ」
「あれは実験対象としてだろ。あれが好意なら願い下げだ」
ブラッズがしてきたことは兄としてではない、研究者としてだ。そう思うと例え血の繋がりがあろうと兄とは見えなくなる。リズはブラッズをやけに崇拝しているが、それはブラッズの"そういう一面"を見てこなかったからだろう。スタズはそれらを身に染みて体感している。
「なんかなぁ、ホント通じ合わない」
「?」
「俺らが分かり合える日が来るといいな」
スタズは分かっている。そんな日が来ることは奇跡に等しいと。しかし、願わずにはいられない。リズは少しだけ俯いた後、力強く頷いた。