帝光中学はバスケで名を残し続けている名門校であり、全国大会で優勝という結果を幾度となく達成している。当然練習も過酷、日々の練習についていけた者だけがバスケに携わることが出来た。しかし努力というもので埋まらないものもあり、それが一軍二軍という結果を生み出していた。
帝光中学に在籍しバスケをしている者は吟醸、つまりプライドが高い者が多い。あの帝光中学の一部であるということに誇りをもつのである。そしてそれが自身を動かす原動力となる。
しかしそんな枠組みに囚われない人間が五人いた。誇りをもつのではなく、帝光中学をあくまで自身の力を出す場でしかないと考える。大半の部員とは相容れない考えを彼等はもっていた。そしてそれは同時に周りから多少は反感を買い、周りとの距離を一層深めた。しかし彼等は部から浮かなかった。常に部では中心的な位置にいて、周りとは一線を画していたのだ。
理由は彼等の圧倒的な強さ。他とは明らかに違う技術力だった。彼等のもつものは彼等しかもっておらず、それが彼等を際立たせていた。それ故彼等は部で常に決まった立ち位置にいたのだ。
しかしそんな彼等を妬むものは大勢いる。二軍落ちした者や彼等の前に完膚なき程に負けた者、様々だ。だが妬みの矛先はその彼等にではなく、部員の中の一人に集中することがほとんどだった。何故か、それは………
「お前生意気なんだよ」
「ちっとも部に貢献なんざしてねぇくせにレギュラーぶってんじゃねぇぞ」
体育館裏での古典的なやり取り。もはや絶滅をも思わせる行為がなされていた。ただ内容がカツアゲではなくて個人への文句なだけ。そして受け手の人物は、まるでそれが日常的であるかのような顔をしていた。
「………、言いたいことはそれだけですか?」
「あぁ?」
「ですから、言いたいことはそれだけですかと聞いたんです。ただでさえ短い休み時間ですから水とか飲みたいんですけど」
ただ意見を言っただけなのだが返ってきたのは右頬への痛み。そしてそれは叩くというものよりも、むしろ殴るというものだった。ただでさえ細い体に不意打ちで殴られれば、当然体は倒れる。見事に倒れた体に追い打ちをかけるように、体に馬乗りになった。
「てめぇ、ふざけんじゃねぇぞ。自分の置かれた立場分かってんのか?」
「………この手のことは慣れてるので。別に今更何も思いませんよ。ただ、早く練習に戻ったほうが良いと思います。」
「別にいつも空気のお前なんざ居なくてもバレねぇよ。なんなら早退しましたって言っておこうか?」
「だからそうではなくて、多分君達が――――」
声が最後まで届く前に消える重み。そして一瞬の空白の後に人が地に倒れる音がした。
「………こういう時はお礼を言えばいいんでしょうか、青峰君」
「そうだな。テツが俺に『どうしよう、青峰君に惚れちゃいました』みたいなことを言っ「死んでください」
「黒ちん、峰ちん相手だと手厳しいね。でもここは素直にお礼じゃない?」
「そうですね。ありがとうございました、青峰君」
紫原の手を借りて立ち上がった黒子は青峰にペこりとお辞儀をした。その姿が(青峰曰く)小動物のようだったらしく、青峰はその場に座り込み悶えていた。
「にしても黒ちんホント絡まれるね。そういうの運悪いんじゃない?」
「いつも黄瀬君が傍にいてくれるんですが、今日はモデルの仕事とかで……」
「そっか、黄瀬の野郎テツと休憩時間同じだもんな」
青峰に殴られた相手は無視されたまま、三人の話は展開していく。黒子に絡んだ二人はこの隙を見て逃げようとしたが、突如現れた男を見て逃げられなくなった。
「赤司………」
「練習時間なんだけど」
「待て、お前はこの状況を見て何も思わんのか」
「だっていつもじゃん」
「黒子が絡まれるのは日常茶飯事だがもっと、こう、何か反応はないのか」
呆れ顔の緑間に赤司は少し笑った。いや、笑うというよりもニヤついた。
「まぁ彼等にはそれ相応の報いを受けてもらうとして、テツヤのその悪運は問題だね」
「いや、原因が分かっているので別段問題はないですけど」
「なぁ赤司、俺をテツと同じ休憩時間にしてくれれば問題なくね?」
「それを言ったらみな同じだろう、青峰」
「黒ちんと同じ休憩時間が良いの、峰ちんだけじゃないでしょ?」
「あの、早く練習しませんか?別に今回のこと気にしてませんし」
「黒子からその台詞を聞くのは五回目だが」
「みなさん僕に過保護すぎるんです。君達も早く練習に戻って下さい」
キセキの世代の口論をものともしない黒子に対し、軽い畏怖を抱いたのは言うまでもない。