番外個体を狙った銃弾は正確に番外個体の頭に向かい、壁に当たった。逸らされたわけでも、貫通したわけでもない。
単に対象がその位置から消えただけのこと。
目では確認出来ないスピードで、番外個体は移動した。いや番外個体が移動したわけではない。何者かによって、番外個体は移動"させられた"。
「あっ……」
「怪我無ェか?」
「う、うん……」
一方通行の腕の中に収まっている番外個体は状況がよく理解出来ていなかった。先程まで自分はまさに絶体絶命だったわけなのに。
「ったく、ガキ臭ェ遊びしてンじゃねェよ」
「……一方通行」
青年は睨むが一方通行は全く気にしない。普段から一方通行は睨む側なのでされたところで何とも感じないのだ。青年は身を震わせながらそんな一方通行をじっと見ていた。その目の中には様々な感情が読み取れる。憤怒、苛立ち、嫌悪……。
だが何より顕著だったのは憎悪だった。八割を占めていると言ってもいい程に。
一方通行は青年の顔を記憶から探した。しかし記憶にはない。単に一方通行が思い出せないだけなのか。それとも一方通行から被害を受けた人物の関係者なのか。
だが一方通行にはそんなこと"どうでもよかった"。青年が一方通行に嫌悪を抱こうが憎悪を抱こうが。むしろ面と向かって現れ罵声を浴びせたなら一方通行は受け入れたであろう。
だが青年は番外個体に手を出した。無関係の一方通行の関係者に手を出したのだ。いや、一方通行の関係者なのが問題ではなく、無関係というところが問題だった。
裏の人間が何も知らない表の人間に手を出す、それは一方通行が憎むべきことなのだから。
一方通行は番外個体を抱いたまま足を踏み鳴らそうとした。しかし一方通行の足が地につく前に青年は消えた。見渡すが青年は何処にもいない。
「ミサカの時もいきなり消えた。そういう能力なのかね」
「……確か視覚阻害だっけか」
「でもミサカ何もされて無いのにお腹ヤられたよ。視覚阻害じゃ出来ないよね」
「……出てこないな」
一方通行は番外個体を抱いている為反射をしていない。実質無防備なのだが、青年は何もしてこなかった。
「逃げたか?」
「みたいだね。ミサカがさっきから感じてた嫌な感じ無くなってるし」
一方通行は番外個体を冥土帰しの元へ連れていくために、病院へ向かった。
「一方通行一方通行一方通行……。」
路地でブツブツと呟きながら青年は歩く。一方通行の言う通り、青年は一方通行から逃げた。何も準備せずに挑むような相手ではないし、一方通行をもっと痛め付ける別プランがあったのだ。そのために青年は不本意ながら戦線から離脱した。
「宵見さ〜ん、随分苛ついてますね。甘い物食べます〜?」
路地の奥から小学生くらいの女の子が青年に呼び掛けた。ツインテールを子供らしく振っている。
「……編月か」
「はぁい、みんなのアイドル編月星伽ちゃんですよぉ〜」
「いつもの性格とは違うな。五月蝿い黙れ餓鬼」
「ひどぉ〜い、星伽ちゃん宵見さん慰めにきたのに」
「………お前仕事は?」
「バリバリこなしてますよぉ」
編月はランドセルからファイルを取り出してプリントを宵見に渡した。まるで学校から配られたプリントを家族に渡すような図である。
「常盤台中学文化祭見取り図……か」
「宵見さん襲撃止めたので文化祭やるみたいですよ〜」
「そこを狙うのか?」
「はぁい、御坂美琴を皆の前で潰しちゃいます☆あっ、でも御坂美琴の目の前で皆を潰すのも楽しそう」
「能力を過信するなよ。お前の能力は多人数には向かないだろう」
宵見は編月に注意を呼びかけた。ただそれだけなのに。
「うるさいなぁ!!」
編月は叫んで背負っていたランドセルを地に投げ捨てた。ランドセルの口が開いていた為、中に入っている物が散らばる。それを編月は容赦無く踏み付けた。
「うるさいうるさいうるさい!!黙れ私の前から消えろ!!」
そんな彼女の豹変ぶりを見ても宵見は普通だった。むしろ当たり前のような目つきだ。まるで今までの彼女が偽りだったような。今の彼女が普通のような。
「任務は失敗なんかしない!私は自分の存在価値をママに認めてもらうんだから。ママは私をまだ分かってない。私がどれだけ役に立つか、利口な子か。そうだよ、ママがいれば私は生きていられるんだ。だから……」
彼女の妄想など聞いていられないと言うように宵見は編月を無視して路地から出た。編月は未だにママ、ママと呟いていた。