番外個体は御坂美琴をオリジナルとしたクローン体である。しかし本来出るべき出力はオリジナルの足元にも及ばない。量産化システムとして生み出された妹達よりは出力は勝るが所詮レベル4である。
しかし言い換えれば、それでも彼女はレベル4なのだ。多くの下位能力者が憧れる大能力者。戦闘で十分なだけの攻撃を放つこともできる。
なのに、結果として攻撃効かなかった。いや、正確には当たらなかったのだ。電撃は人間が見て避けられるような速さじゃない筈なのに。焼け跡に青年はいなかった。
(当たった感触はなかった……。一体どこに?)
「ここだよ、番外個体」
番外個体が振り返る前に番外個体の体が大きく吹き飛んだ。青年に回し蹴りをされたと気づくまでに二秒。番外個体の苛立ちは最高潮に達した。
「ミサカを蹴り飛ばすなんて死にたいわけオマエ」
「簡単に吹き飛ばされた奴が言うな」
「きゃはっ、ミサカ軽いからじゃない?」
番外個体は電撃の槍を生み出して青年に投げた。しかし手から離れる直前に青年は消えてしまい、槍は行き場を失ってしまった。
「ったく、一々消えるなんて根暗だねぇ」
「じゃあお前はその根暗に負けるんだな」
青年は番外個体の後ろにいた。番外個体はそれに気づいたが何もしない。すると青年はパチンと指を鳴らした。青年は指を鳴らす以外何もしていない。なのに番外個体に激痛が走った。
「………っ」
「声を出さないのか?」
「ミサ…カ……あんたの変…態趣…味に付き合って…られないの」
「と言いながら死にかけか?」
番外個体の言葉は途切れ途切れで、いつもの生意気な雰囲気は全くなかった。
(こりゃヤバいかも……。考えたくないけど力量を見誤ったかな……)
青年は番外個体に近づき懐から銃を取り出した。それを番外個体の頭に照準を合わせる。確実に死ぬと、番外個体は痛感した。
(ったく、ミサカも馬鹿だな。放っておけば、関わらなければ)
あの時見つけなければ番外個体は今頃夕食を食べていただろう。黄泉川の炊飯器スキルに悪態をつきながら、美味しく、番外個体が嫌いな温かな家庭にいる……その筈なのに。
(ダメなんだよ、アイツが根絶やしにしようとしてた裏を黙認したら)
最期の最後に番外個体の頭に浮かんだのは、世界で一番強い感情を向ける人間。その人の馬鹿で愚かな夢を叶える為に番外個体は散った。
「ねぇ、最後なんだし教えてよ。アンタ達は何なのさ」
「………俺達はレベル5だ」
「レベル5のレベル制なら壊れた筈だけど。全員抜けるって意思表示があったんだっけ」
「あんな屑達と同類にするな。俺達は新しいレベル5、学園都市のトップだ」
「そんな付け焼き刃な奴に倒せるかよ」
「質問には答えた。喋れる程回復してるなら死んでもらわないとな」
番外個体は体の調子を確かめる。しかし喋れても戦闘までの余力はなかった。それに相手の能力が分からない以上、番外個体は反撃も出来ないだろう。
「神なんていつも信じないけど、今なら少し信じるかも」
「じゃあその偶像に身の助けでも求めていろ」
「無理無理、ミサカ悪い子だから」
青年の銃から放たれた弾は番外個体へ寸分狂いもなく向かってくる。避けきれないと悟った番外個体は全てを諦めた………だがその前に。
(ミサカを助けてよ)
信じてもいない神に一瞬だけ願った。科学の世界の人間には、神様なんてある意味オカルトである。所詮都合の良い時だけ頼る便利なものだ。そんな神に一瞬だけ……。
結果として番外個体の願いは神に聞き届けられなかった。神は非情にも番外個体に救いの手を差し延べなかった。
――しかし、番外個体の願いは天使に聞き届けられた。