美琴達による脅し事情聴取が行われている同時刻に、風紀委員支部前に青年が立っていた。スーツをきっちりと着込み見ていて正直暑苦しい印象だ。しかし青年は暑さなんて気にならないような涼しい顔をしている。
青年は携帯を取り出し短縮一番を押した。コール音の後に機械的な声が応答した。
「乱灰が捕まった。支部内に麦野と御坂と垣根がいて、当分彼等は動かなそうだ」
『そうですか、分かりました。ではその間に第一位へ向かわせましょう。』
「俺はどうすればいい?また常盤台生徒を襲ったほうがいいか?」
『いいえ結構ですよ。彼女は私達の意図に気づいたみたいですから』
「じゃあ一度任務から外れるとしよう」
通話を切り青年は携帯をごみ箱に捨てた。そしてポケットから新しい携帯を取り出してメールを打つ。しばらくすると返信が来て青年はそれを読んだ。そして顔を綻ばせるとまた携帯を捨てて青年は歩き出した。
「ねぇ……なんでミサカも行かなきゃいけないわけ。ミサカ家で連ドラの続き観たいんだけど」
「文句なら黄泉川に言え。ったくトイレットペーパー如きで一々行くなンざ面倒臭ェ」
「一方通行は打ち止めと来たかったんだよね〜。だからそんなに不機嫌なんでしょ?」
「あのガキじゃ物を持てねェだろ。お一人様二個とかだからな、あのガキは戦力にならねェ」
「ミサカもか弱い女の子なんだけど」
「か弱いだァ?俺の周りにそンな奴いた記憶ねェが」
「ほほぅ、ミサカを怒らせたね。こうなったらミサカネットワークを使って陰湿な嫌がらせでもしてあげようか」
番外個体は手を"うごうご"とさせ、変な構えをとっている。大方テレビで観た拳法なのだろうが、全く威圧がなかった。むしろ馬鹿の舞いみたいで恥ずかしい。
しかしそんなのお構いなしに番外個体は一人別世界の住人のように楽しそうに(?)舞っている。そんな番外個体を視界に入れず一方通行は帰路についた。
「ちょっとちょっと、ミサカのことは無視?」
「関わりたくねェよ、そンな奇怪な奴とは」
「ミサカのどこが奇怪なのさ。あっ、もしかしてミサカ系列とは違う胸の話かい?」
「そこに結び付く思考が分からねェな」
お互い罵声を浴びせつつ、結局一方通行は番外個体に若干歩調を合わせている。それが意識的なのか無意識的なのかは分からないが、少なからず一方通行の中には番外個体への気遣いがあった。
(杖ついてる奴に歩調を合わせられるとか屈辱臭いんだけどな)
そう思いつつも口にはださなかった。出してしまったら彼は合わせてくれなくなるだろうから。一方通行はそういう奴だ。
ふと、番外個体が止まった。視線の先には何もない。一方通行は不審に思い名を呼ぶが、番外個体は何も言わずに立っていた。
「番外個体?」
「ねぇ、先に帰っててよ。ミサカ買い忘れちゃった」
「俺も行こうか?」
「女の子のモノ買いに行くんだけど。付いて来たいならいいけど、ミサカついでに下着とか見るよ」
「……金渡しとくから早めに帰れよ」
一方通行は財布を番外個体に渡して、番外個体と別れた。番外個体は一方通行の後ろ姿が消えるのを待ちながら、同時に視線を先程の位置に戻した。何もない、でも何かある。
「かくれんぼ?ミサカは好きだけど」
「………」
「何なら今から電源ぶち込んで八つ裂きにしようか?」
「驚いたな、番外個体。俺の姿が見えるのか」
「見えるんじゃない、裏の気配ってやつかな。あとミサカの名前、軽々しく呼ばないでよ」
何もない場所から現れた人物は、番外個体に愛想笑いを浮かべた。その笑顔に番外個体は虫酸が走る思いを感じた。
「笑顔が気持ち悪いってアイツみたい」
「アイツ……第一位か」
青年は一人納得したような顔をすると、番外個体を見つめた。番外個体には熱烈な視線さえ地獄の業火にさえ感じてしまう。
「何々?ミサカを誘ってんの?ミサカは高いよ」
「用はない。裏とやらの勘も危惧する話でもないしな」
「じゃあ帰ってよ。ミサカ不機嫌なの」
「そんなに第一位と接触されることが嫌か?」
青年の声を最後まで聞く前に番外個体は電撃を放っていた。