「……麦野?」
浜面の言葉に麦野は浜面の方を向く。そのまま麦野は浜面の元へ行き浜面を……蹴った。
「ぐほっ……」
「ナニ伸びてんだよ。勝手にくたばるなクソが。で、この醜態は何だ?」
「情けないが毒を盛られた。麦野、解毒剤なんかは……」
「常時持ってる奴がいるなら見てみたいね。滝壺、大丈夫か?」
「ありがとう、むぎの。私は平気だけどみんなが……」
「……垣根帝督と御坂美琴以外は知らない顔だね、誰?」
「意識飛ばしてるわよ、この二人」
美琴は立ち上がりスカートを叩いた。寝ていて筋肉が固まったのか、伸びをして解している。
「あたしは体内電流操って解毒したわ」
「未元物質に不可能はねぇ。解毒くらい朝飯前だ」
凄いといえばいいのか、レベル5陳は何ともなかった。その光景を見ながら浜面と滝壺は意識を失った。
「で、コイツどうする?」
麦野が先程潰した少女は"佐天"に成りきれていなかった。金髪のショートカットでフリルの人形チックな服を着た、ただの少女だった。
「おそらく意識が消えて能力が消えたのね」
「殺しても構わないが、今は不殺主義なんだっけ?」
「そりゃ一般人にだ。裏の人間には躊躇しねぇぜ。」
「………」
「そっか。御坂美琴は裏の人間じゃないから、こういうの初めてだっけ」
美琴は少女から目を逸らした。確かに美琴はレベル5の中で裏に属していない。知ったとしても風紀委員が立ち入る程度の深みだ。だから美琴が裏の人間と直接対峙し、手を下すのは初めてだった。
「まぁコイツから先に情報聞き出すのが先だな。俺に毒を盛る奴は死刑確定だがコイツにとって運が良かったってことだ」
「簡単に毒盛られた奴の台詞かよ。第一私は何一つ説明さえされてないんだが」
麦野は少女を床に寝かせ椅子に座った。そして垣根に無言でお茶を出すように(ある意味)脅した。
「この状況で飲むのかよ。あと俺は第二位でオマエは第四位、当然オマエが汲め」
「おいおい、今更序列なんざ関係ないだろう。第四位だからって関係ないね」
「えっと、私が煎れましょうか?」
無駄な喧嘩になりそうなので、事態の収拾を図るため美琴が動いた。美琴が敬語なのは年上ということと、あまり接点が無いからである。(垣根は年上だろうが接点が無かろうが関係ないが)
その間に垣根は今までの状況と持っている情報を麦野に話した。麦野は当然ながら頭が良い、垣根が言いたいことを綺麗に察した。
「私は単に馬鹿づら追ってきた訳だけど……。まさかこんな状況に遭遇するとは」
「最近オマエの周りに負傷した奴はいないか?おそらくこの傷害事件は旧レベル5(俺達)への挑発だ」
「ちょっと待ちなさいよ、挑発って……」
「あぁ、まだ話してなかったか。オマエにも関係あるしな」
美琴は急いで煎れたお茶を出して座った。味は何とも言えないがこの際気にすることでもなかった。
「多分っていうか確実、最近の事件は俺達が目的だ」
「何で分かるのよ」
「被害者がみんな俺達の関係者なんだよ。常盤台は"表"の機関だから大きく報道してるが実際にはもっと被害者が出ている。」
「そんな……」
「………絹旗も襲われた。銃で右肩を、ね」
「絹旗?」
「私の仲間だ。一緒に浜面達と活動をしている。レベルは4で窒素を操る自己強化タイプ」
「そういう奴には範囲外からの銃撃が最も相性が悪いな。向こうもこちらの情報を把握しているってことか」
「じゃあ今まで常盤台生徒が狙われたのは私への当てつけってこと?」
「それしかないだろ。オマエの場合は多数を傷つけられれば怒るって感じだし」
垣根は淡々とした口調で話す。まるで感情が無いようだった。
「とにかくこれは俺達への宣戦布告だ。お望み通り返り討ちにしてやる」
「当然だ、舐められたまま終われるかクソ野郎」
「私も戦うわ。日常を侵すなら容赦はしない」
そう言いながら美琴の言葉には覚悟がなかった。今の美琴の中では今も善と悪がせめぎ合っていたのだ。人を下手をしたら殺してしまうかもしれない状況に慣れろと言われて慣れられるわけがない。確かに美琴にとって"敵"ではあるがあくまで"美琴にとって"である。自分の主観で全てを決めていいのか、美琴はそれに悩んでいた。
「御坂美琴、一つ言っておく」
麦野が美琴に対して放った言葉は衝撃的だった。
「私は嘗て仲間を殺した。理由は私達を売ったから。それだけで彼女を殺して、私は滝壺や浜面までをも何回も殺そうとした。でも殺せなかった、私が弱かったんだ。だから私は死んででも二人を殺そうとした。でもさ、浜面はそんな私に"もう一度アイテムを作らないか"って言ってくれた。こんな私に生きる希望とチャンスをくれたんだ。だから私は日常を壊す奴に躊躇しない。浜面や滝壺、絹旗がくれた日常を守るためなら何でもやる。」
麦野は椅子から立ち上がり美琴に向き直った。
「平和が、日常が誰でももてる権利だと思うなよ」