北の地での任務が終わって、アレンは息をつく。結局イノセンスは無く、イノセンスに関する情報すらも無かった。おまけにAKUMAの大量出現のせいで、アレンと同行の神田は疲労困憊。まさに踏んだり蹴ったりだ。神田は次の任務の為、一晩泊まった後、探索部隊と任務地へ向かった。幸いアレンに次の任務は入っておらず、残った探索部隊と共に教団へ帰る。一週間ぶりのジェリーの食事を想うと、いてもたってもいられないアレンだった。

任務の報告を終えたアレンは、すぐさま食堂へ向かう。途中すれ違った人への挨拶が疎かになるほどの全力疾走。ティムキャンピーもパタパタではなくバタバタと飛んでいる。アレンが待ち望んでいた食堂には、いつもの美味しい食事の香りが充満している。その香りに胸を踊らせながら、ジェリーの元へ向かった。

「ジェリーさん!ご飯、ご飯です!!」

「分かってるわよ、アレンちゃん♪」

「アレン、いつも思いますけど栄養が偏りすぎです」

アレンの隣にはいつのまにか神ノ道化が立っていた。アレンはいつものことなのか、驚いた様子がまるでない。

「あら、神ノ道化ちゃん。いつもながら神出鬼没ね。発動しなくても出てこれるの?」

「お世話になってます。イノセンスの力の30%くらいで実体化出来るので。それよりアレン、もっと野菜を採らないと。肉や魚や甘いものばかりでは体に良くないです」

「別に平気だよ。ジェリーさんの作る料理は美味しいし」

「味の問題ではなく別の問題です」

「うるさいなぁ。好きなもの食べたいんです」

「うるさいとはなんですか!イノセンスが適合者を気にかけるのは当然でしょう」

「はいは〜い、口論もいいけど食事出来たわよ」

「ありがとうございます、ジェリーさん」

「ちょ、アレン!やはり食べ過ぎです。ジェリーさん、野菜サラダ10人前追加でお願いします」

「僕食べないよ」

「食べさせます、意地でも」

アレンと神ノ道化は仲が悪い訳ではない、決して。ただ……神ノ道化はアレンに過保護すぎた。例えるならパートナーではなくお母さん。神ノ道化に全てを受け止めるような母性はない、代わりに気になって仕方ない母性が身についている。アレンを想う気持ちを全面に出す。それが神ノ道化の行動原理のほとんどだった。アレンはというと、それを邪険に扱うでも無く受け流す。完全に扱い方を心得ているような振る舞いだ。そんな二人のやりとりには距離は無く、お互いがどう思っているかがよく分かる。社交的なアレンだが、神ノ道化に対する距離は他とは比べものにならないと、改めて見せつけられるようだった。

「神ノ道化ちゃんは食べられないのよね〜」

助け舟なのか、ジェリーが言い合いを切る。

「えぇ、流石に私でも食べるというのは…。あくまで実体化で人間と同じ機能を持ち合わせてるわけでは……ってアレン!」

気がつくとアレンは着席していて、食べ始めていた。神ノ道化が話している間に移動…否逃げたのだ。そんなアレンに怒る気も失せたのか、アレンの隣に座る。これをジェリーは狙っていたのかもしれない。

「今日だけですから」

そう呟き、神ノ道化は黙った。食べながら話すのはマナー違反、それくらいの知識は神ノ道化にもあった。

すると食堂がざわっとどよめく。かつては神ノ道化が人前に出ると、空気が変わるというか人々の視線が変わることもあった、しかしそれは以前の話である。それにこのタイミングはおかしい。どよめくならば、神ノ道化達が食堂に入ってきた時だ、だから神ノ道化達のことではない。アレンは食事に夢中らしく、どよめきにすら気づいていない。神ノ道化が入口の方を向くと、黒のロングコートに日本刀を携え、仏頂面の髪を結った男が立っていた。

「神田ユウですか…」

彼ならどよめきが生まれるのもある意味納得だ。その冷酷な性格のせいか、教団内で評判は良くない。表立ってはないが、裏では陰口など立てられている。その神田は受付で蕎麦を受け取ると、席を探しているのかキョロキョロとしている。食事時なのか、食堂は満席状態。ちらほら一席空いているが彼のことだ、隣に人がいるのは好きではないだろう。となると…神ノ道化は隣を見る。神ノ道化の隣は二席空いている。ここで神ノ道化が退けば三席空き、彼の好きな両隣いない席が作れる。もし相手がリナリー等であれば退いていただろう。しかし相手は神田ユウ、神ノ道化のある意味天敵。素直に退く筈もなく、そこに座り続ける。

「おい、退け」

神ノ道化が顔をあげると、相変わらず仏頂面な神田がいた。

「何故私が退くんですか?空いている席なら他にもありますよ」

「チッ、てめぇが退けば両隣空くだろうが」

「横暴ですね、自分の為に他人の自由を侵害するのですか」

「何も食ってねぇだろうが。用の無い奴は消えろ」

「アレンがまだ食べてますから」

「てめぇは関係ねぇだろ」

「イノセンスと適合者が無関係?貴方エクソシストですか?」

正直神ノ道化が言ってることはある意味無茶苦茶だ。しかし神田相手にそんな誤など些細なこと。それに神ノ道化は神田をいらつかせることを目的としている、会話の内容や濃さなどはどうでもいいのだ。

「その辺にしなよ、神ノ道化」

気がつくとアレンは食事をし終えて、デザートに着手している。杏仁豆腐をスプーンで掬いながら、神田に申し訳なさそうに微笑んだ。

「僕が食べるのに夢中だったから、退屈しちゃったんだと思います。神ノ道化を認識できる人ですから、羽目外したかな。もう僕行きますからどうぞ」

アレンは食べ終わった皿をジェリーさんの所へ持っていく。かなりの枚数だからか、足元がふらついていて危ない。

「私も持ちます」

と神ノ道化は申し出るが、手で制されてしまった。神田は席に座って蕎麦を食べ始めている。

「……私は貴方が好きではありません。でも任務ならば私情は捨てます。ですから、貴方が私情でアレンを切り捨てたら、私は貴方を殺します」

神ノ道化は片手を擬似発動させ、神田の首へ突き付ける。

「貴方が信頼を仇で返すのなら、その身が滅ぶまで貴方を壊します」

神ノ道化の最後の台詞に驚いたのか、神田は思わず振り向く。神ノ道化は既にアレンの元にいて、仲良く話していた。

「アイツ…何か知ってやがるのか…」

呟くがそれは喧騒の中に消えた。



※神田が教団にいるのは、任務が船の都合で中止になったからです。

書き忘れたとか……そんなんじゃないんだからねっ
(゜Д゜;Ξ;゜Д゜)

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