「悪かったな」

ふと垣根が言葉を漏らした。"誰に"の部分が無いのでその言葉は空気中に漂う。

「どなたに言っているんですの?」

「そこの二人と花つけてる奴に」

垣根は以前一方通行と戦う時、打ち止めを捕獲するべく初春を奇襲した。もちろん初春自身に非はない。狙われている小さな子供を庇うことは風紀委員としておかしくない行動である。

浜面と滝壺には暗部の戦闘で傷を負わせた。敵であるのだから当然の行動なのだが、本来非戦闘員の二人に仕掛けた攻撃は凄まじく。一歩間違えれば確実に死んでいた。

「正直謝るべきかは分からないが一応……な」

「いいえ、生きてますから」

「昔のことだから別にいい。……かきねは変わったね」

「まぁ面倒臭い序列とやらから外れたからな。今さら力の誇示とかどうでもいいさ」

「……旧レベル5は一度に全員辞めたとか。そもそも上はそれを許したんですの?」

「まさか、大揉めだよ。あの時は……」

「堅苦しい話するならお茶どうぞ」

佐天が煎れてくれたお茶を皆が飲む。家事など上手いのか、煎れ加減が絶妙である。体に染みるように心地良さが浸透する。第二位と第三位を中心とした緊迫な状況の筈なのにゆったりとした空気に包まれた。

「お粗末様でした」

佐天の言葉と共に全員の体が崩れ落ちる。佐天の手には透明の液体が入っている容器があった。

「佐天……さん?」

「悪いね〜。そういうことなんだわ」

「どういうことよ!!」

「しばらくあんた達に動かれると困るのよ。とりあえず……」


「元第四位と元第一位を殺すまでそこで寝ててくれる?」


佐天は部屋から立ち去ろうと入口へ向かう。すると初春の手が佐天のスカートの端を掴んだ。

「あなた…誰ですか?どうして佐天さんの振りを?」

薬の影響で意識が飛んできたのか、言葉が覚束なくなってくる。それでも最後に聞こうと初春は意識を保ち続けた。

「……佐天涙子ってさ、あんたら風紀委員達と元第三位と仲良いんでしょ?その上信頼もあるときた。利用しない訳ないじゃない」

その言葉を最後に皆の意識が途切れた。

――その時。

「はまづらぁぁぁ!てめぇ勝手にデートなんざしてんじゃねぇよ!!」

扉を蹴り破ってきたのは元第四位こと……麦野沈利だった。



"佐天"は一瞬迷ってしまった。元第四位である麦野沈利に対して防戦に回るか交戦するか。

幸いこの場所には無抵抗の人質になれる人間が多数いる。かつて残虐非道と呼ばれた麦野と言えど今なら無抵抗の人間を殺す筈はない。

仮に交戦したとしても麦野は本気を出せる筈もない。比較的狭い部屋、尚且つ体晶の影響でボロボロの体。麦野にとっては最悪の環境だからだ。むしろ交戦して今気絶させるのもいいかもしれない。

"佐天"は思考を交戦に切り替えて麦野に向かった。

――次の瞬間、"佐天"の視線は天井を見据えていた。

「遅いんだよ、オマエ。今思考に3秒かけただろ。誰を相手にノロノロ考えてんだ、あぁ!?」

「なんで…、あんた…」

「どうせ狭い部屋で能力を十分に使えない私に負ける筈ないとか馬鹿げた妄想してんだろ。生憎こっちは足りない箇所補うためにイロイロやってんだよ」

腹にきた衝撃と共に"佐天"は意識を失っていく。最後に――

「レベル5を舐めんじゃねぇよ、ガキが」

そんな声が聞こえた。

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