実況を撮ると幅広い時間帯に及ぶことが多い。朝から撮ることは体力的にも予定的にも厳しい。早くても昼過ぎに集まって、夜通しプレイで実況を一作品撮り終えてしまうのがパターンになっていた。
まぁ当然といえば当然なのだが、動いていなくても成人男性が一日活動していれば空腹は感じる。普通の遊びなら、遊んでいる途中にでも食べに行ったり買いに行ったりすればいい。
しかし実況中のテンションだと、撮り終わるまで一気にやらないと気が続かないのだ。だから実況を中断して出掛けるということはしない。声を撮るため菓子などを途中で頬張ることも出来ない。
つまり、まぁつまり撮り終えた後の空腹感は想像を絶するものだということである。






「腹減った、マジで腹減った」

ぐっと背を伸ばして背筋を伸ばす。長い間プレイしていると筋肉が固まったかのような感覚が起きる。ボキボキと体に悪いが気持ちの良い音が響いた。

「うわー、すごいプレイしてたね。僕もお腹空いた」
「食べに行こうぜー!」

P-Pの腕をとり玄関まで引きずろうとする。でもつわはすくんの冷静なツッコミで、とりあえずシャワーと着替えだけすることになった。確かにこの状態で外に出るのは、正直どこのDQNだよと言いたくなるものだろう。
俺が最初、次にP-P、その次につわはすくん、最後にレトさんの順番でシャワーを借りていく。とりあえず外に出られる状態にして、鞄に入れていた財布とスマホをズボンのポケットに突っ込んだ。男の所持品なんてこんなもんで十分である。

全員が出掛けられる格好になって、最後に鍵を掛ける。待っている間に近くにあるファミレスの場所を検索しておいた。近くに朝からやっているチェーンの店があるから、そこにでも行けばいいだろう。
さすがスマホ、10分くらい歩いたところにそのファミレスがあった。光がささやかながら灯っているから、閉まっているということはないだろう。窓からちらほら人が入っていることが見えた。

こんな朝から男四人(しかも全員部屋着に近い)なんて、どんな集団だと思われているだろうか。顔をきちんと出していないし向こうが重度のニコユーザーではない限り、特別邪推されることは無い筈。以前歩いていたら女子高生が自分のことを話していたことが若干トラウマになっていることはオフレコにしておこう。
勧められた窓際の席に腰掛けて、メニューを開いた。腹は減っている、でも朝から重いものを食べることには抵抗がある。
とりあえず朝のモーニングセットから選べばいいかと適当に、色鮮やかに彩られたヘルシーそうなものを指差した。他の三人もモーニングメニューからそれぞれ違うものを注文していく。

「レトさん和食なんだ、意外」

店員が立ち去ってからP-Pが言葉を零す。人の頼んだものまで気を配っていなかったから、その時初めてレトさんが和食を頼んでいたことに気づいた。つわはすくんも朝でぼーっとしているのか、P-Pの言葉に続かずに唸っている。

「和食好きだからなー。朝魚とか落ち着く」
「魚好きはキヨくんの方が似合いそう」
「北海道だもんなー。ってかP-Pテンション高くない?キヨくんとつわはすくん死んでるよ」
「僕徹夜とかすると冴えるタイプなんだよね。レトさんも意識強いね」
「寝溜めとか出来るタイプなんよ」

朝からテンション高い二人だなと黙りながら考える。オールでゲームをすれば眠くなる、俺とつわはすくんが当然なんだ。それなのに俺達二人の方が弱いみたいな見方をされそうで腹が立つ。
つわはすくんも負けず嫌いが祟ったのか、むくりと起き出して水を一気に呷る。強制的に目を覚まさせて、つわはすくんは覚醒()した。さすが負けず嫌い、俺もそうだけど。
寝てしまいそうになるのが嫌で、とりあえず口を回す。さっきまでゲームをしていたのだから、言いたいことや思ったことはいっぱいある。プレイの話になればつわはすくんも起きてきて、運ばれてくるまでの時間はあっという間だった。

「いただきます」

レトさんの声に釣られるように俺とP-Pとつわはすくんも声をそろえる。こういうのは一人が言うと釣られて言ってしまうよなと内心考えながら、箸を皿へ伸ばす。空腹だった腹には全てが美味しく感じてしまう。いつもより箸のペースが速くなる自覚があった。
ふと、三人の食事に目が行く。三人で食べに行くことは少なくないけど、こうやってちゃんと食べている風景を見ることは無かった。こうして見ると不思議なものだ。

「レトさん、めっちゃ食べ方綺麗だね」
「ん、そう?」
「ホントだー。魚の食べ方超綺麗」

刺身は好きだけど焼き魚はあんまり好きじゃない。味は好きだけど、開くのが面倒だし苦手なのだ。箸使いとか見られるし、それで下手とか思われたら凹む。
ファミレスで出るような焼き魚なんて高が知れている。上手く焼かれた魚なら剥くのも楽かもしれないが、此処に出てる魚は多分そうではないだろう。つまりレトさんの箸捌きが上手いということ。

「まぁ京都だと焼き魚とか扱い難い料理が結構出るからなー。そういうの小さい頃から食べてるから慣れとるのかも」
「うわ、京都万能説」
「レトさんが京都出身だっていうことを身に染みて分かるエピソードだね」

身近な人の隠れた才能というか得意なことを見つけると不思議な気分になる。つわはすくんやP-Pにも俺の知らない得意なことを持っているのだろうか。俺の得意なことってなんだろう、箸を進めながら雑念が過ぎった。

朝メニューだけあって量はそんなに多くなかった。だからそう時間も掛からずに食べ終わってしまった。
水を飲みながら、もう話は次の実況どんなものを撮ろうかに移ろうとしている。四人の予定が合う日はなかなかないから、次の四人実況は少し先の話になるかもしれない。それまで単発か組み合わせでコラボ実況だろうか。四人だとそれぞれポジションが決まっていて楽に過ごせるから、撮っていてとても楽になれるのだが。
朝で少しのんびりしているのか、店員が食べ終わった食器を慌てて下げにくる。結構食べ終わってから経っているから職務怠慢とか思われてしまうのか。そういうの気にしないから別になんとも思わない。
なんとなく、レトさんの皿を下げる時の店員の表情が驚きに見えた。都会住みの若い子は焼き魚の綺麗な食べ方を知らないのだろうか、なんて思ってしまった。




「#学園」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -