「鳴上くんお帰り〜、牛乳あった?」
「売り切れる直前のギリギリだった」
「………わざわざ済まないな」
「鳴上くんに行かせたお兄ちゃんが言う台詞じゃないよね、それ」
悠が帰ってくる時間をまるで見計らっていたかのように料理が出されていく。今日は奏が料理担当の日なので、出てくるものがみんな洋食である。悠は和洋中何でも好きなので良いのだが、和食好きの湊は少しだけ悲しそうな顔をした。奏はそれに気付いているが奏の好物が基本洋食なので黙殺である。お互い自分の担当日に好きなものしか作らないので、悠が密かにバランスを調節していたりする。
「鳴上くん大学慣れた?」
「授業とかには割と。陽介とか知り合いいるから友人には困らない」
「コミュ障のお兄ちゃんに分けて欲しいね」
「……うるさいよ奏」
鳴上悠は大学に進学する際一人暮らしをしたいと思っていた。というのも、親元を離れて暮らしてみたかったのである。基本的な家庭スキルは一通り持ち合わせているので、そこまで苦労することはない筈だ。そのことを計画している時に、悠はさらに良い情報を手に入れた、陽介らが進学のために東京に来るというものだ。陽介の父親が東京にあるジュネスを任されることになったため、家族揃って転勤してくるのである。さらに千枝と雪子も進学のために上京してくるらしい。大学に受かればの話なので未確定ではあるが、二人の学力ならばほとんど問題はないようだ。
「なぁ、悠。これちょっと見てみろよ」
何処に住もうか悠が決めていた時、陽介がとあるサイトを紹介してきた。SNS、所謂出会いの場として利用されるものだ。そこでとある双子がブログを公開しており、陽介が見せてきたのはその内容だった。
「俺さ、ちょっと思ったんだ。ペルソナを知っているのは俺たちだけなのかなって。もしかしたら俺らの他にも使い手はいるんじゃないかって」
「それが……このサイト主?」
「俺ネットゲームやってて、このサイトの管理者の一人の鬼太郎とネット仲間なんだ。で、ある時一緒にプレイしてたら鬼太郎が『火力がジオダインくらいあればいいのに』って言ってさ。普通の奴なら他のゲームの用語か?って思うだろうけど、俺たちは違うだろ。ジオダインとかそういう言葉聞き覚えがありすぎる」
みんな普段の生活で時々ペルソナ用語を使ってしまう時がある。運悪く物に衝突したとき「スクカジャあれば避けられたのに」と言ってしまったり、千枝の機嫌が悪いとき「ゴッドハンド落としたい!」と苛立ちを表現したり。鬼太郎もそんな感覚でジオダインという言葉を使ってしまったのではないか。そう思うと鬼太郎がペルソナ関係者という線が濃くなってくる。偶然の産物すぎるかもしれないが、ペルソナ能力に出会えたことが非現実すぎて、それ以上の偶然がないような気がしていた。
陽介が見せたブログにはなんてことはない日常のことが述べられている。リンク・お気にいりされているのは親しい友人や先輩達のようだ。ブログの中にその存在がちらほら出て来ている。
「この人たちのブログで友達の名前とか言う時、みんなハンドルネームの由来が神の名前なんだ。ほら、見てみてくれ」
確かにすべての名前が神の名前になっている。もしかしたらこの神の名前はそれぞれのペルソナ名なのかもしれない。
「ってことで頼む悠!この人たちに連絡してみてくれ!」
「陽介はしないのか?」
「……いや、ちょっと気が引けてさ。言った癖にアレだけど、やっぱり外れの確立が大きい訳だろ。里中とか進んでやってくれそうだけど」
「……分かった、じゃあ今ここでやろう」
思い立ったら即実行、これが番長のスタイルだ。悠は慌てる陽介を無視してその鬼太郎にメールを送った。非公開コメントとして送れば他者にバレルことはないだろう。陽介と鬼太郎の仲に亀裂が走るかもしれないが、それよりも成功すれば大きな利益が生まれる。
「返信来た」
「早すぎだろ!!……で、何て」
「………好きな技は何ですかって」
「悠の好きな技って何だよ。魔術系?」
「これ」
悠が書いた返信文には、一言だけ「死んでくれる?」と書いてあった。