この話は22巻を読んで蒼氷が「もし一方通行が完全に天使化して、魔術サイドや科学サイドと一悶着あったら、萌える展開になるだろうなぁ」と妄想した結果です。
細かいことを気にした瞬間に終わりです。
とりあえず一方通行と打ち止め、番外固体、御坂美琴、上条当麻、あと魔術サイドでステイル(口調が不明)、インデックスを出す予定。
インデックスはなんやかんやで助かりました(笑)
本当に妄想なので、ご注意を。
「どういうことだよ。」
当麻の目の前には白い羽と輝く光輪、まさに天使がいた。
しかしその人物は当麻が知る人間で、当麻が変えた人間で、当麻と同じように何かを守る為にロシアに来た人間で。
「どういうことだよ、一方通行!!」
フィアンマを倒し、学園都市に帰る筈だった。
インデックスだって無事とは言えないが、それでも二本足で立っている。
死人は出なくて世界を救えて、丸くとはいかなくとも収まった………のに。
どうして目の前の彼は、天使になっているのか。その場にいなかった当麻達は分からない、その場にいた打ち止め達も分からない。
ただ打ち止めは番外固体の腕の中で、一方通行を見つめていた。
ステイルは目の前の出来事が信じられなかった。
ステイルの中にはミーシャとヒューズカザキリという天使がインプットされている。
しかし彼は全く知らない、ステイルの管理外のものだ。
(上条が名前を知っているということは、科学の人間か)
ステイルはアレイスターがどんな人物か知っている。
そしてアレイスターはヒューズカザキリを作った人間だ。
その技術で天使を作るなど、アレイスターにとっては不可能では無いのだろう。
ステイルはルーンの数を数えた。
先程のインデックス戦で消耗しすぎたせいで、手持ちはほとんどないに等しい。
さらにステイルは、目の前にいる一方通行がどんな能力者か知らなかった。
「貴様Pjdmt達Jdpなん.dat」
一方通行が言語を発するが、聞き取れない。
「すまPmい、P.t様達にPat私の言Tp葉はJaじな.aj。私TjmたGa.が不覚Jmだ。こPwmdの知識Takg見XmdけるGaよう」
一方通行が一度黙る。
辺りは緊迫した空気に包まれた。
「これで話は通じるかな?」
一方通行の声なのに、一方通行の言葉ではない。
そのことに何故か虫酸が走る。
番外固体がぼそり、悪趣味と呟いた。
「なんなのよ、アンタ………」
美琴の周りに電磁波が飛ぶ。
「ふざけんのも大概にしなさいよっ!!!」
第三位の電撃が一方通行に向かう。
しかし一方通行には当たらない、反射もされなかった。
まさに文字通り、美琴の放った電撃は消えたのだ。
「いきなりの手荒な歓迎ありがとうと言うべきかな」
一方通行は平然と立っている。
美琴は驚いていた、しかしそれ以上に驚いているのはステイルとインデックスだ。
魔術サイドの人間には分かる、彼が使ったのは明らかに魔術だった。
(超能力者が魔術を使える!?)
超能力者は魔術が使えない、知識をもつ者なら誰でも知っていることだ。
例外は今のところ、一人だっていない。
脳の働きが違うのだから当たり前なのだ。
使ったら上位の術であるほど、自身への負担か大きくなる。
それなのに美琴が思い切り放った電撃を、魔法陣無しで消す……かなりの術だ。
そんな強大な術式の反動はとても大きいものになる、だから尋常じゃない怪我になる筈なのだ。
なのに彼は、平然と立っている。何も無かったかのように。
「困ったな、私には敵意は無いのだが。攻撃されたということは、反撃していいのだろうか?」
彼が言葉を放った瞬間、インデックスが強制詠唱の準備に入った。
天使といえど魔法は魔法、強制詠唱で狂わせることは出来るはず。
しかし非情な一言に希望は砕かれる。
「超能力は自由に使えて実に素晴らしいものだ」
辺りに雪が舞っている。
衝撃から意識が戻ってきた美琴が顔を上げた、五体満足のようだ。
隣には番外個体と打ち止めがいる。外傷は無く、気絶しているだけだった。
残りの二人もそのようだ。
ふと前を向くと、右手を出した当麻が美琴の正面に背を向けて立っていた。
「………大丈夫か、御坂」
「アンタ!?私達を庇ったの?」
「あれを防げるのは俺の右手だけだぜ」
当麻のもつ幻想殺し、その能力で一方通行の能力を消したのだ。
庇うようにして前に出たので、衝撃の余波だけで被害が済んだ。
「そうか、幻想殺しの存在を失念していたな。私としたことが」
一方通行はつまらないといった顔だ。
「にしても本気で撃ってくるとは、ちょっと驚くわ…」
二人が振り返ると、番外個体の意識が戻ったらしく起き上がろうとしている。
打ち止めは依然として、気絶したままだ。
「アンタ何しようとしたか分かってんの?アンタの神経を疑いたいんだけど。」
一息つくと、番外個体は声を張り上げた。
「アンタは今、命賭けて護ろうとした、打ち止めを殺すところだったんだよ!!!アンタが必死で天使と戦って、ヒューズカザキリから情報得て、皮羊紙を知識フル回転させて、拒絶反応に耐えながら魔術使ってさ、やっと救えた打ち止めをアンタは殺そうとした!!!護ってくれってミサカに頼んだアンタが、なんで打ち止めを殺そうとしてんのよっ!!」
番外個体はその場に全て立ち会った。一方通行が打ち止めの為に、どれだけ働いたか知っている。
だからこそ、打ち止めに手を出した一方通行を決して赦すことは出来ない。
当麻と美琴はその場に立ち会っていない。
だから番外個体が話していることを、アバウトにしか理解出来ない。
しかし立ち会わなくとも分かることはある。
一方通行が本当に打ち止めを助けたかったこと、それが番外個体から伝わってきた。
当麻もロシアへ、インデックスを助ける為に来た。
それが結果的に、世界を救うことになったのだが。
美琴だって、当麻を助ける為にロシアに来たのだから。
大切なものを救う為という点では、3人共通している。
だからこそ解せない。何故打ち止めまでを狙うのか。
あれほど執着した打ち止めに何故手を出せるのか。
一方通行が出した答えは、1番聞きたくない答えだった。
「……何故と?私にはそもそも彼女に対する感情など無いし、器の考えていることと、私の考えていることはリンクなどしていない」
淡々と滞りなく話す声には、人間らしさなど微塵も含まれていなかった。
ただ事実を述べているだけだ。
一方通行の形をした異形に、当麻は憤りを感じていた。
「てめぇは一方通行と記憶や考えを共有してない、つまりは別物って訳だな」
当麻の中では既に一方通行と目の前の天使は区分されていた。
あれを一方通行と見做しては、彼に対する冒涜になってしまう。
長年闘い続けた彼を、当麻は踏みにじれない。
右の拳を握り、開く。
彼の唯一で最大の武器、幻想殺し。
「だったら、遠慮なんていらないな」
当麻は右手を、天使へ向けた。
「まずはその巫山戯た幻想をぶち壊してやる」
インデックスは肩を揺さぶられ起こされた。どうやらステイルが起こしてくれたらしい。
「頼む、君にしか出来ないことがある」
インデックスはステイルの顔を見る。
ステイルの表情には、焦りと苛立ちが含まれていた。
「君に、強制詠唱をして欲しいんだ。じゃないと……」
次に告げられた言葉に、インデックスは衝撃を与えられた。
「じゃないと、上条当麻が死んでしまう」
天使といえども異能は異能。
異能ならば上条当麻は幻想殺しが使える。
しかし当麻の力はあくまで異能に対してであって、それ以外には文字通り無能だ。
例えば……爆風によって飛ばされた雪。
雪は見た通り軽く、当たっても大したダメージにはならない。
だが……もし、音速で飛んできた雪玉なら?
音速なんて見切れる速さではないし、意図して避けられるものでもない。
「くそっ、イタイとこ突いてきやがって」
当麻は全身に神経を張り巡らせ、風の流れなどを見てかろうじて保っていた。
いや保っていたというよりも、とにかく死を避けていた。
つまりは……反撃する余裕なんてまるで無かった。
ただ向こうは当麻の体力が切れるのを待っている。
一歩も動かず能力だけを行使して。
そして当麻にガタがきた。
膝の力が一瞬抜け、体勢が崩れる。
その瞬間を天使が見逃す筈は無く、容赦無い一撃をしかけた。
爆風の残骸ではなく、爆風そのものを。
ただ能力を当麻に当てつけた。
ここで右手が使えれば少しはマシだったかもしれないが、当麻の右手は体勢を崩した際に支えとして使ってしまっていた。
――しかし天使の攻撃は当麻の2m程前で逸れる。
まるで何かに捩曲げられたかのように、何かがその能力に干渉したかのように。
「魔術なら私の専門分野だよ。とうまなんかより、ずっと詳しいんだから」
インデックスは立っていた。
もう守られるのでは無い、助けられるのでは無い。
彼女は守るため、助けるために戦場に立っている。
「ちょっと、私の出番無くなるじゃない。私だって目的があんのよ」
美琴は当麻の前に、天使との間に立ち、天使を睨みつけている。
臨戦体勢は整っているのか、周囲に電磁波が飛んでいる。
「全く、学園都市はホント意味分かんない。正直天使だの魔術だの知らないけどさ、アイツをどうにかしなきゃいけないっていうのは理解できたわ」
「私と貴女は目的が同じ、一緒に戦える筈だよ」
「ったく、アンタには恨みあるし、全力でいかせてもらうわよ」
「おい、インデックス達大丈夫なのか?」
「信じるしかない。天使相手に準備してきた訳じゃないんだ」
「じゃあさっきなんで強制詠唱出来たんだ?アイツ超能力使ってたんじゃないのか」
「それについてはミサカが答えるよってミサカはミサカは疑問に答えようとしてみる」
番外個体に抱かれた打ち止めが、ゆっくりと話し出す。
まだ意識は完全覚醒していないようだ。
「一方通行の演算能力はミサカの代理演算で補ってる。だから一方通行の考えや動きは大体予想出来るの。そしてミサカは今、一方通行への代理演算をシャットダウンしてる。だから一方通行は、本来なら動けない筈って、ミサカはミサカは長い説明をしてみる」
「えっでも、アイツ立って………」
「そこで僕らの出番だ」
話に入ってきたのは、ステイルだ。
この場にいる人間で魔術に精通しているのは、ステイルとインデックスしかいない。
「つまり彼は今、別の原動力で動いてる」
「それが魔術ってことなのか?」
「彼は一度、僕らの前で魔術を使っている。天使が自らで演算能力を補助し、魔術を行使しているっていう仮説を裏付けるのには十分だ」
「ホントめんどくさいって溜め息つきたくなる」
「魔術に関してなら、こちらにはインデックスがいる。知識量なら互角だ。その分火力は劣るが、第三位がいる。それに………」
一瞬口ごもるが、ステイルは続けた。
「あの天使は元が人間だ。人体に天使を降ろし、演算補助と魔術を使うとなると、体には尋常ではないほど負担がかかる。そうなれば後は大丈夫だろう。」
「負担って?ってミサカはミサカは疑問を問い掛けてみる。」
一瞬、番外個体が目を伏せたのを当麻は見逃さなかった。
番外個体は、一方通行が魔術を使った場面に立ち会っている。
そして魔術を使用した際の負担を見た。
真っ白の雪と対称に、赤く広がっていく血。
死んだのではないか、一瞬そう思った。
それほどまでに赤が鮮やかで、番外個体は初めて死を恐れた。
あれを打ち止めの目の前で?
番外個体は一方通行と取り引きをしたわけであって、打ち止めとは何の繋がりもない。
ただの上位個体というだけだ。
だから打ち止めのことを気にする必要はない。
ただ………。
打ち止めがあの一方通行の姿を見ると思うと、恐ろしさが込み上げて来る。
打ち止めは……打ち止めは光の中にいなければならないのだから。
「ねぇ、他には無いわけ?」
「天使の力は神裂でも御せなかった。第三位といえど、時間稼ぎにしかならない」
「じゃあ一方通行が死ぬのを待てっていうわけ?」
死という単語に打ち止めは反応したのか、番外個体の腕にしがみつく。
不安で不安でたまらないのだろう。
番外個体は打ち止めを見遣ると、ステイルの方に視線を戻す。
「ミサカは魔術に関して詳しい訳じゃない。でもね、あんたより一方通行のことは知ってるつもりだよ。だから……」
番外個体は息を一度吐き、息を吸い込む。
「アイツの精神に対して云々言われる筋合い無いんだけど」
言いたいことだけ言うと、番外個体は立ち上がった。
それに続くように打ち止めも立ち上がる。
「ミサカはとりあえず策を考えないとね。アッチいったって戦力にならないし」
「じゃあミサカも番外個体に協力する、ってミサカはミサカはあの人に何が出来るか考える」
「ふーん、じゃあやりますか」
「あと番外個体に言いたいことがある、ってミサカはミサカは服を引っ張ってみる」
「……何?」
「番外個体はさっき一方通行を知ってるって言った。でもね……ミサカの方が一方通行のこと知ってるよってミサカはミサカは隠れた闘争心を表にしてみる」
打ち止めはキッパリと言うと、ミサカネットワークに思考を繋ぐ。
ありとあらゆる情報を、それこそ必要不必要関係なく取り込んでいった。
大切なモノを失う恐怖を、打ち止めは味わいたくない。
「だが君達が考えている間に、向こうが劣勢になっていくんだ。時間は全く無いんだぞ」
ステイルの言葉に打ち止めは答えない。
全ての能力を情報処理に回しているため、外部に反応するだけの余裕が無いのだ。
「そうかな?」
問いに答えを返したのは当麻だ。
「今さらだから思うのかもしれないけど、一方通行は完全に天使化してない気がする」
「あれを見てか?馬鹿馬鹿しい。」
「はっきり言ってさ、アイツが本気出したら俺達死んでる。確かに最初の方は本気っぽかったけどさ。今のアイツは恐らく一方通行が制御してんじゃないかな?」
現に二人生きてるし、そう当麻は付け足した。
「確かにオリジナルはレベル5だけど実力差がある、天と地程の差がね。あの女の子が魔術出来てもオリジナルは出来ない。そうすると手加減されてるって見方も出来る訳か」
番外個体は当麻の考えを理解したらしく、その情報をミサカネットワークへ流す。
打ち止めはそれを拾い、策を張り巡らせるだろうと考え。
「やっぱ最後は精神論だね。」
番外個体は一方通行のことを紛いなりにも信頼している。
としたら賭けるしか無いだろう、彼の想いの強さに。
(打ち止めや仲間を想う気持ちで、暴走を止める。打ち止めが出した答えと同じか)
番外個体も妹達の一員、そのため情報を共有できる。
打ち止めの思考を読み取ることも出来る。
(さて、打ち止めの期待に応えてもらわないとね)
番外個体は天使に、一方通行に意識を向けた。
(ここ……は…)
白く混濁した思考の中、ふと意識が戻る。
といっても靄があるような感じだ。
とりあえず自己という存在は感じられる、つまりは自分が流れていないことを示す。
(なンかでけェ力に取り込まれたのは思いだせンだかな)
途切れる前の記憶を辿る。
打ち止めや番外個体、それに無能力者にシスター、赤髮の長身の男、そして因縁深い第三位。
彼等が記憶に写るのに、そこから再生されない。
それ以降は、強制的に絶たれたように、綺麗に消えていた。
(状況もつかめねェ、最悪だな)
しかし一方通行自身、大きな力には見覚えがあった。
大切なものを守りたい、そう想って生まれた力。
前から片鱗のようなものはあった。
大切なものを傷つけられた時、脅かされた時、それは見境なく発動された。
制御されていない、感情を露にした発散。
それがこのロシアで確立された。
打ち止めを助けられた、満たされた。
しかし世界は滅んでしまう、一人の意志の元に。
あの時、打ち止めは傷つけられても、脅かされてもいない。
でも打ち止めを守りたい、その気持ちに呼応したのだろうか。
白い巨大な翼、天使の光輪、まさしく天使。
大切なものを守る力……なのだろう。
思考が上手くまとまらない。意識が遠のいていく。
大きな力に意識が押し潰されていく。
声がするのに、呼んでいるのに、フィルターがあるようにくぐもって聞こえる。
誰が呼んでいるのかは分からない。
ただ音の波長、波を感じた。
「コイツ、なんなわけ?」
「天使に関して、完全に分かるわけじゃないんだよ」
「でも全然攻撃が効かないんだけど」
「特殊な術式で無効化してるんじゃないかな、いや相殺かも」
「どうすんのよ。専門外なんだけど」
「天使相手に戦闘が成り立ってるだけでも凄いんだけどね。でもあの天使、様子が変だね」
「やけに外してるわね。舐めてんのかしら」
「違うよ。恐らく術者の精神が関係してる」
「一方通行の精神?」
「天使が正しく狙った軌道を、彼自身が捩曲げてるのかも」
「制御出来てるってこと?」
「完全ではないけど」
禁書目録は知識を洗い出す。
かつて一人の天使と聖人が戦ったことがあった。
聖人といえども相手は天使、苦戦なんていうレベルではない。
しかしあの時の天使と今回の天使は異なる。
性質からして180°違うのだ。
インデックスには詳しいことは分からない。
しかし今回の天使降臨は偶発的であり意図的ではない。
術者本人に力を行使しようという意識がないのだ。
意識がないならば、術者本人の意志でコントロール出来る。
天使の力に抗うだけの気力があればだが。
「おかしいな。軌道がズレている」
天使自身も異変に気付いたらしい、躯を確認している。
「やはり急な出現に器がついていけないのか…。私としたことが急ぎすぎた。……いや違うな、まだ器の精神が消えてない」
その言葉に一同は確かな希望を感じた。
まだ一方通行の意識はある、あとは引き出すだけだと。
「一方通行はアンタなんかに負けないんだからってミサカはミサカはあの人の凄さを語ってみる!」
「おぉ上等だね打ち止め、カッコイイじゃん」
「ミサカも番外個体もお姉様も上条もインデックスもステイルも、みんなで一方通行を助けるんだからってミサカはミサカは貴方に意志を表明する」
「世界を守った一方通行に借りを返さなきゃね」
全員が臨戦体制に入る。
天使に対しての決定打はない、しかし勝てないと定義されたわけでもない。
個々の力を集めることで、巨大な力に対抗出来るかもしれないのだから。
「とりあえず君は天使に右手をぶち込め。それがなければ話にならん」
「当たり前だ。天使だって異能なんだから、右手が使えなきゃ可笑しいじゃないか」
「あぁ、もう。とにかくアンタに合わせて援護するわよ。当たらないように電撃ぶっ放すから」
「魔術なら私とステイルにまかせて」
「打ち止め、アンタは残りなよ。安全地帯に居な」
「なんで!ってミサカはミサカは疑問を示してみたり」
「打ち止めは戦力外でしょうが。それにね、アンタは最後の切り札、いわばジョーカーなの。アンタに怪我されちゃダメなの」
「むー分かったってミサカはミサカは聞き分けよくする」
「偉い偉い」
「最後の会話は終わったか?器の状況からして、急がねばならないからな」
そして最後の戦いは幕を開けた。
神の使いとして人に道を示す。
貧しい人に救いを与え、世界を平和にする。
では何故ここに君臨する天使は人を救わないのだろう。
どうして創られた天使は破滅しか呼ばないのだろう。
救いたい人がいる、護りたいものがある。
自身の全てを捧げても、この世に留めたいもの。
それが人の中にはある。
それを失った瞬間、人は生きる意味をなくす。
だから残さなければ、自身が生きた証を、留めた軌跡を。
それさえも出来ぬなら、護れたと誇る資格はない。
炎が焼き尽くすのなら、それを覆うほどの雪を散らそう。
電撃が身を貫くなら、その光を自身に届くまでに打ち消そう。
ではこの身を内側から打ち破る覇気には、なにをもって対処すればいい。
精神を押し潰しても、内側から来る光は消えない。
大きな声でその存在を吹き跳ばそうにも、決して揺らぐことはない。
100の力をもつ集合体が、1の力をもつ欠片に勝てない。
(矛盾だな、些細だが見落とせない。器の精神がここまでとは。人間ごときと侮っていたな。だがやはり人間ごときに天使は負ける筈もない)
天使は来る攻撃に反撃もせず、ただ受け流していた。
思考する時間が欲しかったためだ。
その気になれば瞬殺出来るが、それではつまらない。
天使に、神に抗う奴は生きている価値もない。
それが天使の持論だ。
「流して流してって、アンタホントにムカつくわ。少しは反応しろっての!」
「反撃……いいのか?」
「えっ?」
「御坂、上だ!!」
美琴の上には、氷柱のようなものが浮いている。
まるで美琴を串刺しにするかのように。
「つっ……!」
その場から離れれば直撃は避けられただろう。
しかし改めてみる魔術に、美琴の体は硬直していた。
容赦無く降り注ぐ氷柱に、美琴は自身の終わりを感じた。
………しかし体を貫かれた感触はない。
それとは違う、寒いロシアに不釣り合いな暖かみが美琴を包む。
美琴が目を開けると、緋炎に包まれた光景が広がっていた。
「周りが雪だからね、当然氷の魔術を使うと思ったよ。僕の炎は水に弱いが氷には強いんでね。それに所詮は魔術の氷、魔術の炎で全く溶けないなんて可笑しいだろう?」
ステイルは少ないルーンを持ち直す。
手札は明らかに少ない、しかし地の利がステイルにはあった。
自然には法則と呼ばれるものがある。
火は草木を燃やし尽くす、水は火を消し沈める、雷光は水を通電させる、全ては相性。
力が勝っていても相反するものならば、力は当然軽減される。
力に頼るのでは無い、流れと相手との組み合わせ。
これが自身の及ばぬ存在と対峙した際の唯の方法。
「相性だけで勝てるものではない」
ステイルの数少ないルーンで出来た炎柱は天使の一撃に薙ぎ倒された。
相性…なんてものが通用しないレベル。
それが天使とステイルとにある距離だ。
雪を溶かしながら炎柱は沈んでゆく。
ステイルの頼みの綱のルーンは雪にまみれて消えた。
「残念だったな。地の利があろうと人はこの程度。分かったなら早く散れ」
「…………ふっ」
「?」
天使が見渡すと居るべき人間が足りない。
銀髪の少女と黒髪の少年、気がつけば二人が消えていた。
ステイルはルーンの残骸を見つめながら成功を祈る。
狙うは天使の破壊。
「とうま!」
「ああっ!」
当麻は天使に向かって走り出す。
ステイルが戦闘をしている間、当麻はインデックスと共に隠れていた。
天使の死角且つ天使に近い場所へ。
当麻の右手が天使に触れれば勝敗は決まる。
しかし天使は生半可な相手ではない。
どうしても当麻の援護をする人間がいなければならない。
それに最も適役なのはインデックスだ。
当麻はとにかく走る。
天使を破壊するために、一方通行を救うために。
天使までの距離は分からない。
それでも、たとえ雪の上を走り辛くても、天使から攻撃を受けても、当麻は走った。
しかし天使は馬鹿ではない。当麻の考えの何歩も先へ行っていた。
「死角からの攻撃は必然。警戒しない訳がなかろう」
天使は力の余波を使う。
当麻の幻想殺しもインデックスの魔術も効かない、物理的攻撃が当麻を襲う。
…………筈なのに。
天使は動かない、否、何かに縛られたようだった。
皆この状況に頭がついていかなかった。
ただ当麻は一瞬止めた足をもう一度動かす。
天使が攻撃してこない、この機会を逃せばもう近付けない。
天使までの距離を詰めていく。
当麻が近づいているのに天使はただ僅かに震えながら動かない。
「てめぇが築き上げてきた壮大で馬鹿らしい幻想を俺が壊してやるよっ!!!」
当麻の固く握られた拳が天使に触れた。
声が聞こえる。
なんだか聞き慣れた様な声が、遠くから。
何を言っているのか、彼の耳には届かない。
でも、それでも、なんとなくだけれど、彼には名前を呼んでいるように感じた。
とても大切で、愛しい名を。
ピシッ。
中学生位の少女が目の前にいる。
ゴーグルみたいなのをを付けて異様な雰囲気を醸し出していて。
ピシッ。
血の海の中に自分はいる。
少女はいない。
ふと視線を下に、少女は地に臥せていた。
ピシッ。
少女がいる。
あの少女よりも幼く、ゴーグルではない毛布に包まれている。
少女は笑顔をこちらに向けている。
やっぱりあの少女と似ている。
あの少女の笑顔は見たことがなかったけど。
ピシッ。
どうやら自分に関わる人間は不幸になるらしい。
あんな笑顔だった少女が目の前で死にそうになっている。
救わなければ、救わなければいけない。
ただ手を乗せた。
どうすればいいのか、この手と頭が知っている筈だ。
ピシッ。
白い天井、白い壁。
今まで暗かった世界が白く澄んでいて。
今まで感じなかった温かさが身を包む。
窓から差し込む光が、視界に入った。
初めて感じたような気持ちだ。
ピシッ。
肩が重い。
詳しく言えば少女が乗っている肩が。
スポーツバックは果たしてこのような使い方だっただろうか?
そんな筈はないと断言出来る。
ピシッ。
常に光に触れられるなんて思っていない。
いつかは罪を償うべき日が訪れる。
ただ最後に、少女を守れてよかった。
苦しみから一時的でも解放出来てよかった。
また煮込みハンバーグを一緒に食べよう。
ピシッ。
たとえ深みに嵌まろうと、自分の道を後悔しない。
光の世界を守るためならば、悪党になろうじゃないか。
それが一方通行の道だ。
ピシッ。
少女が苦しそうに息を途切らせてうなされている。
学園都市では少女を救えない。
新たな地へ向かわなければ。ロシアへ………。
ピシッ。
分かっていた…。
全ての妹達を守るなんて、そんなの無理だと。
道を阻むなら敵対しなければ。
打ち止めは切り捨てられない。
守るべき大切なものに、全てを注ぐ。
「だから人は弱い。」
当麻の拳は一瞬天使に触れた。
だがそれも一瞬。
天使は動きを取り戻したのか、雪が天使の周りを舞う。
後ろに跳んだ当麻の読みは正しかった。
天使の傍にいれば今頃八つ裂きだろう。
しかしインデックスの「とうま!!」という声が聞こえるのに、当麻は前線から動かなかった。
「おい!人は弱いってどういうことだ」
「そのままの意味だが」
「じゃあその言葉、誰に向かって言ったんだよ」
「此処にいるのはお前達だけ「一方通行じゃないのか」
"一方通行"という言葉に天使の表情が一瞬強張る。
当麻はその隙を見逃さなかった。
一方通行という存在が天使の中でどう作用しているかなんて関係ない。
ただ今を逃してはいけない、その一心で当麻は語る。
天使にとって意味を成していなくても、一方通行には成すようにと願って。
当麻の言葉が一方通行に響くように言葉を紡ぐ。
実際一方通行に響いたのかも分からず、当麻は延々と話しつづける。
天使は何もせず当麻の話を聞いていた。
何も感じていないのか、反応を一切示さない。
それがどういうことなのか、当麻達には分からなかった。
ただ素直に当麻の説得に感化されるようなものではない。
しかし実力では勝らない相手に、当麻は武力ではなく言力で対抗するしかないのだ。
効果を示すか示さないかは別にして。
最早これは当然のことだが、当麻達はインデックスを救う目的でロシアに来て偶然、いわばたまたま一方通行達に出会った。
出会いなんて生優しいものではないが、出会った以外に表現する方法がない。
つまり本来の一方通行の事情と、当麻達魔術陣は全く関係がない。
因果はあるが、二人がお互いの為に行動したわけではないのだ。
当麻達にインデックスがいるように一方通行には彼女がいる。
そして彼女を元として生まれた悲劇の被害者もいる。
だから一方通行にとってインデックスが理解の範疇外であるように、当麻にとって彼女達…打ち止め達の置かれてきた状況は理解出来る訳がない。
お互い受けた痛みを共有し理解など出来ないのだから。
当麻はそれをよく理解していなかったのかもしれない。
普段の日常で、魔術という世界で、科学という空間で、彼は多くの人を救ってきた。
数多の問題を通して、常に彼はキーポイントにいた。
だからこそ、線引き出来ない。
自分が干渉していい一線が見えていない。
故に踏み込んではいけない、その領域を読めていないのだ。
そんな当麻だからこそ、天使は優位に立つことが出来ている。
一方通行は、言うなればただの人間。
生まれもった能力の為に全てを一度失った、ある意味悲劇的な人間だ。
学園都市という檻の中、一つの目的の為育成された。
アレイスターにすれば、力故の運命だ。
そこに彼の意識は今までなかった。
ただ連続する日々を形式的に繰り返していただけ。
つまり……彼には端から天使になるという目的はなかったのだ。
天使化は彼にとって偶然で、この状況も予期せぬもの。
本来ならば天使の力で対象の精神を拘束出来る。
天使化は対象が望んで行おうとするため、この形式は容易い。
そうすることで、全力を出すことが出来るのだ。
しかし一方通行はあくまで不慮…、天使といえど望まない、むしろ抵う精神を完全に拘束することは容易ではない。
ましてやこの地には不安要素がいる。
天使にとっては、当麻など微々たるものだ。
彼には一方通行を動かす力はない。
狙うは一人だが、どうにも気分が悪かった。
躊躇い、それは天使自身から出ているものだ。
いや、天使自身ではなく一方通行自身から。
「ごちゃごちゃと五月蝿い奴らだな。全くもってイライラする」
天使の手の平に光が収束し、一本の剣を象る。
その剣を構え直すと切っ先を当麻に向けた。
「誰から殺して欲しい?今なら意向を汲んでやる」
「誰も殺させねぇよ。俺が、そんなことはさせない!」
「私も疲れてきた。不毛な争いを続ける理由もない」
「お前を生かしてはおけない、天使を見逃すわけにはいかねぇよ」
「そうか、そう言うなら…」
天使は剣を握り直すと……自身へ切っ先を向けた。
切っ先が当麻から天使へ変わったことにいち早く反応出来たのは、不思議なことに打ち止めだった。
切っ先が天使の、一方通行の喉元に突き刺さる直前に打ち止めの悲鳴がロシア一帯に響き渡った。
「クソったれが。人の体勝手に使ってンじゃねェよ」
切っ先は喉元に少し食い込んでいるが貫いてはいなかった。
直前で何かの力が働いたのかのように。
久方ぶりに聞いた彼の声に、打ち止めは反応するかの如く走り出した。
あの時は去っていく姿を見送るだけだったが今は違う。
今度は、今度は打ち止めが一方通行を迎えに行く。
小さな体で彼が背負ってきたものを受け入れる為に。
しかしあと少しという時に不意に首元に重さが掛かる。
そしてその重さに引っ張られた為、打ち止めはその場に尻餅をついてしまった。
「ちょっと落ち着きなよ」
「放して番外個体。あの人をミサカが迎えに行かないと」
「罠かもしれないでしょ」
「違う!あれはあの人の声で言葉だった」
「完全に天使が抜けたわけじゃ無いのかも」
インデックスがふと言葉を漏らす。
「多分天使の力を制御出来かけてる。でもまだ完全じゃない。何かが、あと一歩なんだよ」
一方通行は切っ先を自身に向けたまま静止している。
あと一歩、その言葉に反応したのか、打ち止めが立ち上がった。
番外個体の制止の声にも耳を貸さない。
「ミサカは…ミサカは何も覚えてないけどあなたがミサカを助けるために頑張ってくれたのは分かるよ。意識が戻ってあなたが抱きしめてくれて『よかった』って言ってくれてミサカはミサカは嬉しくて嬉しくて嬉しかった。でもあなたはミサカ達を、世界を守る為に空へ消えてしまった、今までミサカが寂しい思いをあなたにさせてた分、ミサカはあの時寂しかったってミサカはミサカは心境を思い出してみたり。あなたとやっと話せるようになったのに、もう……もう離れちゃうのはやだよってミサカはミサカはあの時叶わなかったお願いをもう一度してみる」
一方通行は動かない。
「黄泉川達の所に戻ろ?またあの二人とミサカと番外個体とあなたと、みんなで暮らそうよってミサカはミサカは一番叶えたい願い事を言ってみたり」
一方通行は動かない。
「……一方通行ぁぁぁ!!!」
「うっせェンだよ、クソガキが!聞こえてンだから少しは黙りやがれ」
剣を構えていた腕を下ろす。
そして剣は徐々に砕け霧のように霧散していった。
そして異形の象徴である光輪と羽が消えていく。
一方通行の意志の篭った赤い目が打ち止めへ向けられ、ただ一言。
「オマエの叶わなかった願いは今俺がここで叶えてやる」
打ち止めは駆け出していた。
(ここらが潮時か……)
白と黒が混濁している意識の中、『天使』は思った。
今は器である一方通行の意識が支配しているため、『天使』はただ意識の中に溶け込んでいるだけ。
今から強制的に力を使い一方通行の意識を奪うことも出来なくはないが、それはしなかった。
(それにしてもボロボロだな)
『天使』は酷使した一方通行の体を診る。
天使として動いていた頃は、電極の力を介さずに動いていた。
つまりは魔術的な意味合いで動かしていた為、体への反動が大きいのだ。
一方通行は学園都市第一位、生粋の超能力者であるために、その反動は大きくなる。
じきに彼を襲うであろう代償を思いつつ、『天使』は意識を閉じた。
打ち止めが抱き着いてきた反動で、一方通行はその場に座り込む。
元から体に限界がきていたらしく、立ってはいられない状態である。
一方通行は打ち止めを見つめてから、頭を撫でた。
それはまるで感謝をするようで。
生きていてくれてありがとう、声を聞かせてくれてありがとう、自身を呼び止めてくれてありがとう、と。ただただ、一方通行は頭を撫でた。
「役目は果たしたってことで良いのかな?」
「あァ、礼を言う」
「虫酸しか走らないね、……冗談。ここまで大変だったんだからさ、報酬はたんまり貰うからね」
「約束は守る」
控えていた魔術陳も出てきた。当麻が一方通行ときちんと話すのは初めてかもしれない。
「列車戦以来だな」
「あァ、あの時は済まなかった」
「気にするなよ。あのおかげで俺も道が固まった。インデックスを救うことに全力を懸けられた」
「インデックス……銀髪シスターか。そいつには俺も助けられた」
「そっか」
話に一段落つくと、コートをくいっと引かれる。
涙の跡があちこちにある顔で一方通行を見た後、また打ち止めは泣きだした。
一方通行は感じた、これが幸せなのかと。
その時彼の体の中の何かが弾けた。
(この感じ、前にもどこかで……)
一方通行は思考を巡らせる前に、咄嗟に打ち止めを引き剥がした。
そして動かない体を叱咤し、打ち止め達から距離をとる。
次の瞬間、一方通行は臓器が吐き出されるような感覚を感じた。
それ程までの強い嘔吐感、血液が逆流するような感覚。
視界がぼやけて、打ち止め達の顔に焦点が合わず、一方通行はその場に崩れ落ちた。
「あくせら…れーた…?」
崩れ落ちた一方通行に打ち止めは声をかける。
しかし彼は何も返さない。
打ち止めの声が震えてくる。
「ねぇ…一方通行、何で……どうしたの?」
打ち止めが一方通行に近づこうとするが手で制される。
次の瞬間、一方通行が赤に染まるのとインデックスが打ち止めの視界を塞ぐのは同時だった。
「とうま、体に反動がきてる!」
インデックスは叫び、当麻は一方通行に駆け寄る。
美琴もそれに続く。
インデックスは打ち止めを抱きしめるようにしてその場にしゃがんだ。
この光景を彼女に見せてはいけないと、そう悟ったのだ。
「俺は医学的な知識は皆無だぞ」
「私だってそんなの……、待って、能力を使えば…」
美琴は一方通行の体に手を当てる。
しかし美琴はすぐに手を離した。
「私の能力じゃダメだわ。電流を流せても医学的な使い方は出来ない。出来たとしても操作までは超電磁砲じゃ出来ない」
「神裂の魔術には頼れない。くそっ、どうしたら……」
一方通行の体から血の気がどんどん引いていき、白い肌から色が失われていく。
ここまできて助けられないのか……、当麻は絶望感に襲われていた。
体への反動は魔術的なものでもなく科学的なものでもない。
当麻の幻想殺しではどうすることも出来なかった。
「これは貸しだ」
ふと、一方通行が漏らした言葉。
しかし一方通行ではないと、直感的に思う。
では誰が?
「アンタ、天使か?」
「無駄なことを話す気はない。これは貸しで、金輪際このようなことは無しだ」
一方通行の体から完全に気が抜け、雪の中に倒れる。
先程まで広がっていた赤は止まっており、顔色も僅かながら戻っていた。
何が起こったか分からない、それが第一声だ。
一方通行の意識が戻るのは学園都市に戻ってからだった。
(私らしくもない)
『天使』は思った。
助ける気は無かった、始めは。
ただの気まぐれ、『天使』にとってはその程度。
それでもその気まぐれで一方通行を、器を結果的に救った。
『天使』は一方通行に主導権を譲った訳では無かった。
首元に切っ先を向け、怯んだところを攻撃しようと考えていたのだ。
幻想殺しを警戒しての行動……の筈だった。
一瞬……一瞬だったのだ。
打ち止めの悲鳴を聞いて、次の瞬間には意識が交代していた。
気がつけば意識を奪われていたのだ。
思えば予兆はあったかもしれない、時々意識が強くなることはあった。
しかし気にしていたようで気にしていなかった。
それがあの一声で、確実なモノになった。
一方通行の意識の中で、『天使』は一方通行に問いかける。
返ってきた答えに『天使』は驚くが、『天使』は笑って受け入れた。
その笑いが微笑みなのか嘲笑なのかは『天使』だけが知ることである。