始めは黄瀬のちょっとした挑発だった。黒子が光として選んだ火神に対する嫉妬のようなものだ。それを火神も分かっていたからあんまり気にしてはいなかったのだが、黄瀬の挑発対象がだんだん火神から誠凛に変わっていき、さしもの火神も黙ってはいられなくなる。見ていた誠凛としては練習に戻りたいので黄瀬にお帰り願いたいものなのだが、二人の状況が悪化していくのを見て流石にと止めに入った。

「そんなにキセキがすげぇならかかってこいよ!」

「言ったっスね!じゃあ俺らキセキとそっちで勝負っス!!」

「ちょ、その流れは――」

「上等じゃねぇか!!やってやるよ!!」

売り言葉に買い言葉、二人の争いはいつのまにか誠凛とキセキを巻き込んでいき何故か双方で戦う流れになっている。ふざけているだけなら任せるがここまで大きくなると手を出すしかなくなっていた。けれど心の中では少し甘えがあった、キセキも黄瀬の言ったことを相手にしないだろうと。黄瀬が衝動で何か言うことはよくあったようだから、流してくれると勝手に思っていた。

「いいね、面白そうだ。やってやろうじゃないか」

後日誠凛宛てに届いた赤司からの連絡で、ことの重大性をようやく理解した誠凛だった。



「話の流れは聞きました。で、どうして赤司くん達がいるんですか?君と紫原くんは簡単に来れる距離じゃありませんよね」

「そんなこと今更じゃないか」

「……そうですね、今更でした」

誠凛VSキセキの世代という形でやるのは本当らしい。その場にはいなかった黒子には経緯が分からないが、火神が何かやらかしたのは理解できた。しかしこの試合がどうなるのかということについて言えば、申し訳ないが予想がついてしまう。今まで誠凛が勝ちをぎ取ったのはキセキが一人しかいなかったからだ。キセキだけでチームを組みそのうえチームプレイをし始めたら、誠凛では到底手に負えなくなってしまう。それをリコも分かっている筈である。火神も余計なことをしたものだと、黒子には珍しい少し後ろ向けな思考をしていた。

「テツヤ、早く入れ。待っているだろう」

「………は?」

「今回はキセキと誠凛の戦いだろう?だったらキセキの世代幻の六人目は当然こちら側だろう」

「……僕誠凛の部員なんですけど」

「恨むなら軽い気持ちで挑発を受けた火神を恨め」

「そういうことではなくてですね……」

赤司は笑っているのに目が笑っていない。今までの経験からして引き受けるしかなさそうである、ここでぐずると後々面倒なことになるのだ。誠凛と戦うのはとても気が引けるのだが、黒子は仕方ないとため息を吐いた。



「てめぇらチートなんだよ!!」

「そんなの今更なのだよ」

全てのポジションが一級品なキセキ相手だと当然試合がとんでもなく厳しいものになっていく。青峰を押さえつけるのに火神一人付きっ切りなので、他の四人に対しての対応が手薄になってしまうのだ。おまけに活路を切り開いてきた黒子のパスが今回は敵側のカード、黄瀬と黒子と青峰で行われる速攻は最早無敵といってもいいレベルである。その三人による接近戦に注意していると見事な緑間のシュートが何処からともなく放たれる。赤司の天帝の眼が発動していないのにも関わらず、誠凛側はジリ貧状態の一方的な試合だった。

誠凛が弱いわけでは決してない。ただ相対しているキセキの実力がとてつもないのだ。中学時代ならまだしも高校生になって体も完成していき、その上それぞれの持つ技が強化されている。体力も当然ついているから、もう五人纏めて来られたら手に負えないレベルなのである。それを誠凛側も理解している故に、この試合はあまり良い状況ではなかった。

「思い知ったっスか!」

「こんな無理試合を挑んでいる時点で負けていると気づかないんですかね」

黒子の嫌味は黄瀬に聞こえなかったようで火神と試合中なのに言い争っている。そこに青峰が参戦すればもっと分からない方向に話が反れていき、もう早く終わらないかなと黒子は汗を拭いながらそう思った。

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