「ハロー一方通行、レディを待たせるなんて紳士じゃなくてよ」

「なンだその喋り方は」

「いいじゃんたまには。二人でデートなんてなかなかないよ」

いつも一緒にいる幼女は黄泉川や芳川と共にいるので、今日は正真正銘二人きり。さらに番外個体が一方通行をお出かけに誘ったところ、予想外に了承が貰えてデートをすることになった。―――まぁ一方通行は日常用品を買いに出かける程度にしか考えてないのだが。

「ミサカ洋服とか見たいんだよね。主に胸とかのサイズが合わなくなってきちゃったし」

「………胸を強調する理由があンのか」

「ミサカの誇れるところっていったら胸じゃん。オリジナルをも超越した、レベル5に勝る胸!」

「中学生相手にムキになるンじゃねェよ…」

レベルでは美琴に勝つことは出来ないため胸で勝てることが嬉しいらしい。番外個体は事あるごとに胸の話を話題にする。芳川にも勝る番外個体の胸は黄泉川の前では霞むがなかなかの威力をもっていた。しかし一方通行はそういった色事に興味はない。ある日突然打ち止めの体がミラクルボディに変わっていたら慌てふためくだろうが、それは科学的にありえないから慌て驚くのであって、決して艶やかになった体つきに驚いているのではない。そういったわけで一方通行は番外個体の胸になど興味はないのだが、ことあるごとに番外個体は一方通行にアピールしている。悪意の塊とだけあって一方通行と打ち止めの嫌がる顔が見たいという欲望に基づいた行動なのだが、果たしてどうなのやら。

「面倒臭いからとっとと終わらせるぞ。何が見たいンだオマエは」

「まぁ服が見たいっていうのは嘘じゃないんだよね。芳川に貰った服しか無いから実際本当に困ってるし」

「オマエあれ以外に持ってねェのかよ」

あれというのは番外個体が着ているアオザイのことである。福引きで芳川が当てたのだがサイズが合わなかったため、番外個体に譲られることになったのだ。番外個体の体型にはぴったりだったので良かったが、まさかあれ以来服を買っていなかったとは。一方通行は服に対する執着心はないがこだわりはあるほうだ。気に入れば同じ服を着ることなど全然厭わない。けれど女性の場合はお気に入りだとしても厳しいものがあるだろう。番外個体の場合アオザイを気に入って着ているわけではないので、余計辛いものがある。

「まぁ黄泉川の服で無理なわけじゃないから騙し騙し着てはいたけど、やっぱり自分の服は欲しい」

「そォいうのは芳川や黄泉川に言え」

「でもさー、アンタとミサカと打ち止めは居候だよ?あんまり強く言えないし」

「服を買ってくれっていうのは可笑しいことじゃねェだろ」

「むむ、正論」

なんだかんだ文句を言う一方通行であったが、向かっている先はスーパーではなくデパートである。つまりは―――言う必要は無いだろうが。番外個体の表情はどことなくワクワクしているかのようである。やはりどういう育ち方をしていようと女の子、そういうことには興味津々だ。打ち止めも大きくなったらお洒落などに凝るようになるのだろう。一方通行にはよく分からない感覚だが、受け止めなければいけない事実ではある。

「もしかしてアンタが服を選んでくれるの?」

「ンなの自分でやれ、金は出してやる」

「そっけないねー、そんなんじゃモテないよ」

「余計な世話だ」

テレビや雑誌などで取り上げられるようなお店が所狭しと立ち並んでいる。学園都市は学生がほとんどを占めているため、特に売れ行きが良くなると踏んでいるからだろう。一見学生は服などを買わなそうに見えるかもしれないが、周りの人がお洒落だったりすると対抗心から上を目指そうとする。結果あれこれと手を出すことになり、店としては嬉しい結果になるわけだ。本来止めてくれる筈である親は外にいるため、自制心で自制するしかない。

「あっ、これ良いかも。新作だけに可愛いねぇ」

番外個体が手にしたワンピースは花柄でフリルが女の子らしさを醸している季節の新作だ。新作というのはその分値が張るもので敬遠されがちだが、強力なお財布が一緒にいるため問題はない。番外個体は値札など見ていない勢いでどんどん服を選んでは試着していき、並べては吟味していった。それでも結局買うことはせずに店を立ち去る。今までの行動は何だったのかと問い詰めたくもなるが、これも仕方ないことなのだろう。

「新作だけあって可愛かったけど、イマイチ何か欠けてたね。やっぱり買い物は自分が気に入ったものを買わないと」

「あンだけ服があって気に入ったのが無いのかよ」

「女の子の着眼点は凄いんだから」

そのあとも店店に入って物色していくが、中々気に入ったものに巡り会えず、ただただ時間だけが流れていく。途中で美味しいコーヒーの店に入ったため緩和はされたが、一方通行の機嫌は底辺すれすれ状態である。ただでさえ興味のない買い物に付き合わされているのに、ここまで時間をかけてしまった。これで何も買わずに帰ったらしばらくは店にすら行けないかもしれない。それは嫌だったので、とにかく必死に店を見て回る番外個体だった。

「……あ、」

目に入ったのは服屋ではなく、アクセサリー店。今まで服に絞っていたため、その他の店には焦点を当てていなかった。たまたま目に入ったアクセサリー店のとある商品に、番外個体の目は釘付けになる。一方通行もその様子に気づいたのか、そのアクセサリー店に目を向けた。

「おい、どうし――」

「ミサカあれ欲しい」

今までのように迷った目ではない。きちんと定まった目で番外個体はその商品を見ていた。どうしてその商品に惹かれたのか、言葉では表し辛い。けれどその商品は紛れもなく番外個体に誘いをかけていた。欲しい、それだけが番外個体の中を占めていく。物欲は負の感情を司る番外個体と無縁のものではなかったが、ここまで主張してきたのは初めてである。

「一方通行、ミサカ――」

「約束だったからな。それだけ買ったら帰るぞ」

その言葉に素直に頷く。一方通行が会計を済ませその商品が番外個体の手元に来たとき、無性に喜びを感じた。きっとずっと大切にしていける、そう確信なく思うほどには。

「珍しいな、オマエがひとつのものに執着すンの」

「なんでだろうねぇ、ミサカにも分かんないよ」

この気持ちはなんなのだろう。けれど番外個体にとって、買ってもらえたことも嬉しかったが、一方通行が買ってくれたということも大きかった。いつも番外個体からの感情の片道通行だったのだが、なんだか応答が返ってきた様な、そんな感じがしたのだ。番外個体は大切そうにぎゅっとそれを抱きしめると、心がぽぉっと暖かくなったような気がした。



後日たまたまテレビで見たその商品の値段を番外個体は知り、衝撃を受けたとか受けなかったとか。

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