「ちょっと緑間くん聞いてください!!」

普段からは考えられないような声量で緑間に詰め寄る黒子。緑間は呆れた顔をして前の席を勧めた。本来の持ち主である男子生徒は昼休みギリギリまでサッカーをしに校庭にいるので問題ないだろう。

「耳元で騒ぐな。……で、『今回』は何だ」

「赤司くんが酷いんです!!僕の顔を見て溜め息なんかついたんです!呆れられるようなことした覚えないのに……というか失礼すぎます!」

「お前は赤司を気にしすぎなのだよ。視界に入れなければいいだろう」

「赤司くんが視界に入ってくるんです」

「じゃあ目を逸らせばいいだろう」

「そんなことしたらまたマネージャー業を僕だけ増やされるんですよ」

ぷりぷりと頬を膨らませて怒る黒子に緑間の方が溜め息をつきたい。けれどただでさえ不機嫌な黒子をこれ以上落とす理由もないだろう。

「緑間くんどう思いますか?もう文句言いたいくらいなんです」

「とは言いつつどうせ赤司に文句など言えないのだろう。その八つ当たりを黄瀬にするのは良くないのだよ」

「むう……」

紙パックのヨーグルトを掴む手が少し震えている。緑間の言うことが図星だからだ。黒子は赤司に対して不満や文句こそあるものの、彼のもつ力の前ではそれを主張出来なかった。赤司相手なのだから仕方ないといえば仕方ないのだが、当然黒子は面白くない。だから黒子は愚痴を緑間に、八つ当たりを黄瀬に行っているのだ。

「赤司くんが普通の男の子だったら今頃僕のイグナイトが火を噴いているのに………」

「あれは殺人兵器だから止めてくれ」

黒子が他者に対してここまで敵意を剥き出しにするのはとても珍しいことだ。そして緑間が誰かの愚痴に付き合うことも珍しい。緑間は基本的に他者との過度な接触を避ける傾向にあるからだ。けれど黒子と赤司の問題ならば一肌脱がないわけにはいかなかった。副部長としてやらなければいけない時というのがあるのだ。

「とにかく黒子、赤司は他人に対してあまり感情を見せん。だからこそ、お前はあいつにとって特別なんじゃないか?」

「特別嫌われてるってことですか?だとしたらものすごくショックです」

こんな感じで黒子に進展の兆しは全くない。緑間はまた駄目だったかと心の中で深く息を吐いた。



「聞いてくれないか真太郎。テツナが僕に対して酷い態度をとる」

時は放課後、場所は部室。赤司はメニューが書かれたバインダー片手に緑間の前にある椅子に座った。書きかけの部活日誌を閉じて緑間は赤司と向かい合う。今は個人メニューの時間なので二人席を外していても問題ないのだ。

「どうした赤司」

「テツナの視線が痛い。さっきなんてイグナイトされそうになった」

「黒子の機嫌が悪いのは黒子の問題だ。俺の関与するところではないのだよ」

「その不機嫌の原因が僕らしいんだ」

「………ほう。じゃあ赤司は黒子に何かしたんじゃないか?無意識とはいえ人を傷つける時もあるのだよ」

赤司に自覚があるのなら緑間の誘導尋問に乗ってくれる筈。黒子と赤司の問題は赤司から解決するのが第一歩なので、赤司の自覚というのは大きな前進なのだ。しかし赤司は斜め上の回答で緑間を撃沈させた。

「そういえばテツナのつけてたピンがテツナに似合っていたから思わず息を漏らしてしまったよ」

「お前達はどこまで行っても一方通行なのだよ!!」

ガタンと椅子を倒して立ち上がって何も考えずにランニングをしたい。とにかく頭の中から面倒臭い二人の存在を消してしまいたい。でもそれが出来ないのが緑間である。だって彼は帝光バスケ部副部長だから!どうしようもない赤司と黒子を支えてあげなければならない立場だから!

「なんだいきなり、疲れているのか?」

「お前達の不器用さが俺を苦しめているのに気づいてくれ」

お察しの通りこういう出来事は初めてではない。赤司と黒子はお互いに擦れ違っていて、その皺寄せはいつも緑間の元へきていた。二人が互いに気づけばいい話なのだが、如何せん二人は鈍い中の鈍ちんである。しかも他人が何か言ったところで耳を貸さない。最悪といっても過言ではないだろう。

「とりあえず赤司は黒子にバニラシェイクを奢ってやれ。それでひとまず話は収まる」

「あぁ分かった。ありがとう真太郎」

お礼を言うくらいなら学習して欲しいとは言えなかった。



「テツナ、シェイク飲むかい?」

「えっ、赤司くんが買ってくれるんですか?」

「あぁ、それくらいなら構わないよ。それに膨れたテツナも見たいし(注:赤司が見たいのはシェイクで頬が膨れた可愛いテツナである)」

「………太れってことですか。結構です、赤司くんからのシェイクなんて飲みたくありません」

「頼むから学習というか成長してくれ………」

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