「さて、今日は何の日か分かるよな」

「当然〜、花宮の誕生日だろ?それ祝うために俺ら集まってんじゃん」

1月12日といえば霧崎第一の誇る天才、花宮の誕生日である。他の四人にようやく追いつき花宮も17歳の仲間入りだ。これで年下なのをネタにからかわれることもなくなる。

その花宮の誕生日を祝うために四人はファミレスに集まっていた。花宮はファミレスをあまり好まないので鉢合わせの可能性はない。一応念のために霧崎第一から離れた位置のを選んではいるが。

「古橋はプレゼント何にした?」

「俺は普通に本にしたけど。結構手に入れるの難しかった」

花宮の趣味を大きく占めるのは読書だ。以前花宮の読書時間を邪魔した山崎が本気で締められているのを見たことがある。それほどまでに邪魔されたのが嫌だったのだろう。大勢でわいわいと騒ぐよりも客のいない喫茶店に一人でいる方が好きなのだとか、昔言っていた気がする。

「俺はパスケース買った。被ってねぇよな?」

山崎はパスケースを買ったようだ。前に使っていたパスケースがどうやら壊れてしまったらしい。たまたま山崎はそれを見ていたので、その時に直感でプレゼントとしてあげようと考えたのだ。黒くHのイニシャルが入ったそれは花宮に合っている。

「瀬戸と原は?」

「俺達たまたま売り場で会ったんだよ」

「だから二人からってことでちょっと高額にした」

二人が袋から取り出したのは大きめの箱。それを見て古橋と山崎は目を見開いた。

「ちょ、これバッシュじゃねぇか!」

「誕生日プレゼントにバッシュって……。よくそんだけお金出したね」

霧崎第一といえばお坊ちゃん校として知られていたりする。この四人も例外ではなく、わりと家が裕福な四人だった。ちなみに花宮の父親は財務省勤務だったりする。私立のためバイトはできないがそれなりにお小遣いを貰っていて、そこいらの高校生とは財布の中身がもう違うのである。だからプレゼントに割り勘とはいえバッシュを買ったりできるのだ。

「よし、全員ちゃんと買ってあるな」

「じゃあそろそろ本題入ろうぜ」

そう、この集まりというのは花宮へのプレゼントを決める集まりではない。プレゼントなど個々で用意して好きな時にあげればいいのだから。四人がわざわざファミレスに集まって緊急集会を開く理由は、四人による誕生日サプライズを行うためだった。このサプライズは去年もやっていて花宮に馬鹿にされた歴史をもつのだが、如何せんする側がとても楽しいのだ。それに花宮もまんざらではない表情だったので今年もやっても問題ないだろう。ちなみに去年は花宮のバッシュにミルクチョコを満タンに詰めるというサプライズをしていた。花宮から言わせれば嫌がらせなのだが高校生の遊びと思えばご愛嬌だ。

「まぁ今年は色々あったから事前準備できなかったしなー。ザキの女装でいいんじゃない?」

「ふざけんなよ!誰が女装なんかやるか!」

「俺はザキのより花宮のが見たいけどな」

「諦めろ瀬戸、死んでも花宮は女装しない」

当日なので大したことはできないが、あっと驚かせたいのは事実。その時、原の視界が見覚えある水色を捉えた。伊月や高尾のような目をもたないのではっきりと認識した訳ではないが、目を凝らして意識を集中させればおぼろげながら見えてくる。

「あれイイコちゃんじゃね?」

「イイコちゃん?」

「ほら、誠凛にいる元幻の六人目。花宮が嫌いなタイプの奴」

「えっマジで?そいつ今いんの?」

元幻の六人目―――黒子テツヤを捕まえるべく原が急いでファミレスを出る。黒子は本を読みながら歩いているようでスピードは遅かった。後ろから迫っている原の気配に気づかない黒子。――もしかしたら気づいているかもしれないが、相手が自分だとは思っていないようだ。原は追いついた黒子の肩をがしっと掴むと向き合うように力を入れた。

「捕まえた!」

「え?………あの、何ですかいきなり」

「花宮の嫌いなイイコちゃんゲットー!」

「花宮?……あ、もしかして霧崎第一の」

「覚えててくれた?なら話は早いな。んじゃあそこのファミレス行こっか。今なら一品奢ってやるよ」

「いえ、遠慮するので離してもらえますか」

「その選択肢はない!じゃあ行くぜー」

なんとか抵抗しようとする黒子だが、体格差からか振り切ることが出来ない。原は特に怪力なわけではないが立派な高校生二年生である。同年代よりひ弱な黒子に勝てるはずがなかった(イグナイトは除く)



「で、花宮さんの誕生日に嫌がらせをするために僕を使いたいと」

「バニラシェイク一週間分で手を打たない?」

「………仕方ないですね。けれど言葉はきちんと選んで下さいね」

テーブルには花宮が嫌いそうな言葉を書き詰めた紙がある。その中の言葉をなるべく使いながら黒子がいきなり電話を掛けるのだ。タイムリミットは花宮が電話を切るまで。開始早々花宮が電話を切れば、黒子は何もしない同然でバニラシェイクが手に入るのだ。

「よし、こんなもんで良いだろ。んじゃ黒子クンよろしく」

「はぁ……」

瀬戸の携帯を借りて花宮に電話をかける。瀬戸のを使った理由は一番確実に繋がるからだ。原や山崎の場合、出ることすらされずに切られる場合がある。その点瀬戸と古橋は信用(?)されていると言えよう。

『………もしもし、何の用だよ』

開口一番その口の悪さは何だと言いたいが、黒子の仕事はそれじゃない。まずは瀬戸だと勘違いしている花宮の認識を正すことにした。

「こんにちは花宮さん、誠凛の黒子です」

『……は?』

「どういうことか理解出来ないでしょうけど我慢して下さい。まぁ詳しいことは霧崎第一のメンバーに後で。とりあえず僕は仕事を果たしますので」

メモに目を通せば言いたくもない言葉が並んでいる。舌打ちしたい気持ちを抑えて、黒子はメモを手に取った。とりあえず書いてある言葉をひたすら言っていけばいいのだが、文学少年としてただ言葉を羅列していくのは少し気が引ける。大変面倒臭くはあるが何か文にしたほうがいいだろう。

「(まずは眉毛ですか)花宮さんってどうしてそんな眉してるんですか?昔の人みたいで特殊というかオタマロというか。まぁ可愛いらしい(笑)とも思いますけどね。(次は性格って…アバウトだなぁ)あと花宮さんの下種っぷりは誰譲りなんですかね。今吉さんも原因だとは思いますが、やっぱりお友達は選んだほうが良いと思いますよ」

お友達を選ぶという言葉に外野が騒ぐが、間違ってはいないので放っておく。今はバニラシェイクで釣られているが本来なら話したくもないような人達なのだ。特に花宮は主将であり核となる人間で、おまけに木吉のこともある。イグナイトの一つでもかましてやりたいが、生憎と相手は電話越しなので出来ないのが残念だ。

「あと花宮さん頭良いですけど、なんでそんな残念な活用しか出来ないんです?模試で勉強しなくても上位とか滅べこの野郎」

ちなみに最後の「滅べこの野郎」は山崎から頼まれた言葉である。敬語を外したのは直々のお願いだからである。霧崎第一は有名な進学校であるが上から下まで様々な生徒が通っている。バスケ部は見事に二極化しており、成績が良いのは花宮・瀬戸・古橋で悪いのは原・山崎なのである。ただ瀬戸も古橋もある程度はやはり勉強していてある意味で努力の賜物とも言えるのだが、花宮に関しては弁解の余地はなかった。

さて、ここまできて黒子は少しおかしいと感じ始める。あの花宮が、まったく言い返してこないのである。ふざけるなとか罵倒されると思っていたのだが、黒子が通話を開始してから何も応答がない。一方的に切られることも予想していたのだがそれもない。外野の四人も少し不思議なようで、お互いが顔を見合わせていた。

(え、もしかして怒りすぎて返答なし?)

(いやいや、切らないってのもおかしいだろ)

(つぅか黒子も何か困惑してんだけど)

(とりあえず黒子は通話続けとけ)

アイコンタクトで黒子に指示をして、四人は秘密作戦会議を開始した。黒子に渡したリストにはまだ言葉がたくさん載っている。早口で言ったとしても五分弱は掛かる筈だ。しかし花宮が切らない理由なんて思いつかなくて、瀬戸の思考が詰まった瞬間に沈黙に落ちた。

「もしかしてさ、黒子からの電話が嬉しかったとか」

山崎がぼそっと言った言葉に瀬戸の目がぎょっと見開かれる。一方他の二人は山崎の考えがありえないと言わんばかりに腹を抱えて笑いだした。

「ちょ、おま。それはねぇっしょ」

「冗談なら笑えるけど」

「いや、案外冗談じゃないかも」

ぶつぶつと何かを呟きながら瀬戸がぐるぐると思案している。思い出すのは誠凛に負けてからの部活や日常だ。瀬戸の中で何か引っかかるものを感じたのだ。

「そういや花宮、予選終わってからやたら黒子の話してたな。ムカつくだのどうのって話だったが素直になれない花宮のことだ、もしかしたらっていうこともある」

「え、マジで言ってんの?」

「あぁ、他にも確か―――」

「あの………」

おずおずと話に入ってくる黒子。ふと気づけば五分なんてとっくに過ぎていた。恐らく言う言葉が尽きたのだろうと、瀬戸は黒子から携帯を回収した。

「あ、それまだ通話中です」

「あ?」

「なんか今から行くからって。それまで押さえとけよって伝言です」

その押さえつけられる対象が自分だとは思っていないのだろう。多分「こんなことを計画した奴ら逃げんなよ」の意味だと黒子は思っている。こっちから巻き込んで申し訳ない現状なのではあるがやはり下種は下種、四人は報酬で飲み物を奢るという理由で黒子をその場に縛り付けた。


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -