※影山が少し病弱チックなお話
(またやってしまった………)
馴染みのある感覚が足首を襲う。影山はその感覚に溜息をついて、面倒臭そうににシューズを脱いだ。スポーツバッグの中に湿布は常に常備してあるので、それを出して足首に貼っていく。湿布ならではの冷たさに少し眉をひそめて、影山はその上からテーピングをしていった。その一連の動きはとても手際が良く慣れているかのようだ。事実影山は応急処置に関してかなりの経験をもっていた。
「あれ、何で影山テーピングしてんの?」
「………日向か。足首を少し捻っただけだ」
「え!?それってマズいんじゃないの?」
「別に、よく捻るから問題無ぇ」
余計な心配をさせないようにはぐらかしたつもりだったのだが、思った以上に日向は影山の怪我に食いついてくる。そうこうしているうちに菅原などの先輩達もやってきて、必要以上の心配をさせる羽目になってしまった。
「ホントに大丈夫なのか?もしどっか悪くしてたら大変だし……」
「大丈夫っス。元々あんまり体の作りが丈夫じゃないんで、怪我とかよくあるんですよ」
「えっ、ちょっとそれ初耳なんだけど」
「丈夫じゃないっていっても病気とかじゃなくて、元から骨の作りが少し弱いだけなので。普通に過ごしてる中で人より怪我が少し多い程度というか……」
病弱という訳ではないのだろう。けれども健康的なイメージが強くあったため、影山が丈夫ではないということは衝撃的な事実だった。これが菅原を指していたら納得してしまいそうなのだが。綺麗にテーピングをした後の影山は普段と特に変わりはなく、影山から申告が無ければ気づかなかっただろうなと、烏野メンバーは一同そう思った。
しかしこのことは隠しておくことではない。むしろ部活を始める最初に言うべきことだ。なんらかの持病があるなら、それに対する対処方法を部として考えなければいけない。影山にとって大したことじゃなくても、他のメンバーにとってはとても大きなことなのだから。
「今回は大事に至らなかったが次はどうなるか分からない。これからはきちんと言うように、分かったか」
澤村の言う通り今回は足首を捻った程度で済んだが、次に何が起きるか誰にも分からない。澤村はそれを危惧して影山を軽くたしなめた。影山自身反省もしているようなので、恐らく今後は大丈夫だろう。今はいない武田や清水、烏養にも言っておく必要がある。
「にしても王様が病弱とか……想像つかないんだけど」
「………別に病弱じゃないし」
「けどよく怪我するんでしょ?病弱決定じゃない」
「ほらほら二人共喧嘩しない。月島は早く練習に入って、影山はとりあえず見学な」
「「…はい」」
二人の喧嘩は日常茶飯事なので今さら慌てたりはしない。ただ月島が影山を心配しているのは目から分かる。普段ならからかうような目つきだが、今日は言葉の中に案じているような色があるのだ。
「なぁ影山、それ中学の奴らも知ってんの?」
「………及川さんと金田一は多分」
及川はともかく金田一もというのが気に入らない。あんなに険悪だったのに、同じコートでプレーをしていたからだろうか。及川は人を見る目が鍛えられている感じがするので、隠していても見抜かれそうである。事実及川はテーピングをして部活をしている影山を正確に見抜いた。もちろんテーピングをしている場面は見ていないのにだ。始めは言い触らす気満々だったらしいが、二人の秘密が楽しい云々と言いはじめ、結局漏らすことはなかった。金田一に関しては影山の不注意でテーピングをしている姿を見られたのだ。言い逃れようとしたのだが、結局負けて白状する羽目になった。
「んー、なんていうかさ、悔しいね」
菅原の言葉にみんなが頷き同意する。一人状況を理解していない影山だけが首を傾げていた。