花宮真と花宮テツナは似ていないけれどれっきとした兄妹である。しかし周りはあまり納得してくれない。それもその筈、なにせ二人の性格が真逆なのだ。兄の真は下種道まっしぐらで人生に敵が多い。それに対して妹のテツナは人当たりが良く不特定多数から好意をもたれていた。それでもテツナが変わらずにいたのは周りからの感情に疎いからであろう。またそういった類いのことを真が邪魔していたからとも言える。本人は否定するが、真は重度のシスコンなのだ。だからテツナに付き纏う虫は容赦無く潰す。

「真兄さん、僕宛てに電話が来ませんでしたか?」

「あぁ?んなの知るか」

「おかしいですね……」

電話というのは部内の連絡だ。携帯を所持しない黒子の所には家の電話に来ることになっていた。しかし来ないのならばきっと相手が忘れてしまったのかもしれない。まさか目の前にいる真が一枚噛んでいるとも知らずに、黒子は呑気にキャプテンへ掛けようと連絡網を取り出していた。

(つーか電話の相手、絶対にテツナに気があったな。名前呼ぶのに一々下の名前使いやがって。俺に何か言われて引き下がるような奴にテツナをやるかよバァカ)

相手の男の子にはご愁傷様としか言いようがない。けれど真の中に反省の念は無かった。悪いことをしているという自覚はあるが止める理由が無いのだ。何故なら真にとって妹であるテツナの身辺チェックをするのは当たり前なのだから。



ある日、真は部活が無かったため早めに家に帰っていた。テツナはマネージャーとして最後までいなければいけないためいつも遅めに帰って来る。迎える側になるのは久しぶりだったので、どこか不思議な気分だった。

バタンと荒々しく玄関のドアが開く。ばたばたとリビングに入ってきたのはテツナだ。何故こんな早くに?という疑問が浮かんだが、テツナの表情を見て思考が真っ白になった。

「………どうし」

「お兄ちゃん!!」

目に涙を浮かべたテツナは、荷物を投げ捨てて真に抱き着く。ぎゅうっと離さんばかりに締めてくるテツナを落ち着けようと、真はテツナの背中をゆっくり撫でた。品行方正なテツナが荷物を投げ捨ててまで抱き着いてくるのだ、何かあったのだろう。中学に上がってから呼ばれなくなった『お兄ちゃん』という響きに少しだけ懐かしくなった。

「どうしたテツナ、何かあったのか?」

「ふぇっ……、」

「落ち着け、お兄ちゃんが聞いてやるから」

あくまで刺激しないように聞けば、テツナは真の胸からゆっくりと顔を上げた。服が涙で濡れてしまったが気にしない。真は潔癖な体質であるがテツナ相手なら気にならなかった。

「………、これ」

テツナが出したのは一枚の手紙。宛名には花宮テツナ様とだけ書いてあり、送り主の名前などは書いていなかった。その手紙に住所が書いていないことから、直接投函されたことが分かる。それだけで真の機嫌は急降下していった。

「中、見ていいか?」

こくんと頷いたのを見てから真はそれを開けて中身を見た。中身は普通の便箋だが書かれていることは異常だ。ほとんどがテツナに対する慕情で、隠すことなく敷き詰められている。真は冷たい目でそれを見て、無造作にポケットに突っ込んだ。

「テツナ、とりあえず一度寝ろ」

「寝れない…です」

「寝るまで側にいてやるから」

所謂お姫様抱っこの状態でテツナを部屋に連れていく真。落ちないようになのか不安だからか、テツナは力を緩めなかった。制服に皺がついてしまうが今の状態では着替えは無理だろう。そう察した真はなるべく跡にならないようにそっとテツナを寝かせた。

「……側…いてください」

「いるって言ってる。とにかく寝ちまえ」

精神的に張り詰めていたのだろう。寝かせてから5分くらいですやすやと寝息をたて始めた。その様子を見て起きないのを確認してから、真は静かにテツナの部屋を後にした。



「あれ……真兄さん?」

「あぁ?やっと起きたのかよ」

時刻はもう6時を回っていて、テツナは何故家にいるのか思い出そうとして身を強張らせた。寝る前の記憶が戻ってきたからだ。そんなテツナを真が優しく包み込む。ありえない兄の行動にテツナの目が見開かれた。

「終わったから安心しろ。もう大丈夫だ」

「え?」

「さっき手紙の奴が家に来て謝罪していった。お前は寝てたから起こさなかったけどな」

もうあんなことは無いから安心しろと言えばテツナの表情に安堵が浮かぶ。中学生は多感で不安定な時期だ。だからそんな奇行に及んだのだと、テツナはまさか真が嘘を言っているとは思わずにそう解釈した。しかしテツナは知らない、その相手が今頃転校しようとしていることを。そして真という篭の中で守られていることを。



2012/11/01 by蒼氷

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