あてんしょん

→黒子ちゃん♀が誠凛にいません。
→キセキ黒且つの赤黒になります。
→WCで誠凛が洛山に勝ってハッピーエンドにはなりません。
→それでも良い方はどうぞ!!





ウィンターカップ決勝戦、決勝常連組である洛山と無名の新設校の誠凛が相対するとは誰が思っただろうか。恐らくバスケに携わる人間の誰もが想定していなかったであろう。キセキの世代にも匹敵する才能の持ち主である火神大我、彼を筆頭に全国まで勝ち上がってきた誠凛。最早彼らを無名の弱小校だと言う人間はいまい。彼らは立派に全国クラスの選手にまで成り上がった。

決勝戦第3Q終盤、点差は一桁で洛山が上回っている。しかしリードを掴んでいるのは確かに洛山の筈なのに、試合の流れは明らかに誠凛に掴んでいた。決勝戦にかける熱意が洛山に欠けていたわけではない。それでも誠凛のもつ勝利への渇望の方が洛山よりも勝っていたのだ。チーム一丸で洛山に食らいついてくる様は洛山すらをも圧倒した。

「信じられないっスよ………」

この流れで行けば第3Qの内に同点まで並ぶかもしれない。第4Qに入れば火神はきっとゾーンに入ってくる。仮に赤司もゾーンに入るとしても、赤司をも上回る力を火神が出すかもしれない。火神の成長は未知数で、何か起こすのではないかという期待が止まらないのだ。

「赤司が負ける、そんなことが起きるとは我ながら驚きなのだよ」

直接対決をした緑間は赤司を下すことが出来なかった。それは同時に赤司を救えなかったことを意味している。緑間を含めた四人は誠凛と戦って救われたのだ。完全なる勝利という呪縛から四人は解き放たれた。

「火神の奴……俺に勝ったんだから赤司なんかに負けるなよ」

四人がいるのは観客席の上の方だ。だから四人の声がコートに届くことはない。けれども声援を贈らずにはいられなかった。目の前で走り回る彼らに何か少しでも伝えたかったのだ。

点差は縮まっていき、とうとう日向のシュートで同点になった。会場はこれ以上無いくらいに興奮の渦が渦巻いていた。第3Q終了まで残り10秒、最後に伊月からのパスで日向がシュートを打つ。ブザーが鳴る一瞬前にゴールをくぐったボールは、ブザーの音と共にコートに落ちた。

「同点どころかリードしやがった」

「最後のシュートは完璧だったのだよ」

「………紫っち?」

三人が見たことも無い展開に興奮している中、紫原だけは苦々しい表情で携帯を見つめていた。青峰と緑間も紫原の態度に怪訝な表情をする。

「紫原どうした?」

「………俺ね、誠凛のこと別に嫌いじゃないよ。…まぁ木吉の奴はウザいけどさ。だから今回赤ちんに勝って赤ちんが変われば良いなって思ってた―――だけど駄目だった、赤ちんは負けない。たとえ火神がゾーンに入って赤ちんより凄くなっても赤ちんは絶対に負けない」

「何言ってんスか紫っち。確かに試合はまだ終わってないけど、流れはどう見ても誠凛っスよ?赤司っちが絶対勝つだなんて………」

「………今ね、黒ちんからメール来た。今会場に着きましたって」

「おいおい……テツが来てんのか?」

「あいつは今京都だろう?あいつの親がバスケ如きで東京に来るなど許さないと思うのだよ」

「黒ちんは親と来たんじゃない。自分一人で行くって言ってた」

「一人って……黒子っちまだ八歳っスよ?一人で来れる筈無―――」

「黄瀬くん?」

駆けて来たのだろう、息はぜぇぜぇと荒くなっていた。腰まである髪は普段結ってあるだけに、下ろした姿はとても新鮮だ。浅葱色の髪に合うように配色された着物は、着ている人間の気品の高さを示すかのようで。

「……黒子っち」

「お久しぶりです皆さん。征十郎様の試合はまだ行われていますか?」

「何故お前が此処に……」

「お母様達には内緒で来てしまいました。バスケの試合が見たいだなんて言ったら怒られてしまいますから」

「誰か付き人はいないのかよ」

「正真正銘一人で来ました。切符ちゃんと買えましたよ?」

黒子テツナは京都を代表する御家の一角を担う黒子家の長女である。所謂生粋のお嬢様というもので、公共の交通機関など使ったことがない。そんな黒子が一人で電車を使って来たのだ。本家では大事な令嬢が消えたとあって大騒ぎであろう。書き置きくらいはしたかもしれないが、恐らく意味をほとんど成していない。とりあえず紫原は、見つけて保護したという旨を黒子の付き人である近衛に連絡した。

「それで征十郎様の試合はまだ続いているのですか?」

「今ちょうど第3Qが終わったから、あと1Q残ってるっスよ」

「そうですか、では僕は前の方へ行ってきます。こちらからでは見えないので」

「待つのだよ。お前をあの群集の中に放り出したら俺達が殺される。紫原、黒子を肩車出来るか?」

「着物だから抱っこで良い?片腕であげれば皺にならないと思うし」

「ありがとうございます」

ひょいと軽々しく黒子を抱き上げる。黒子自身の身長が低くても紫原が抱き上げれば話は別だ。コートの中から黒子の姿は一目瞭然だろう。まぁ赤司の場合、黒子がたとえ群集の中にいても一瞬で見つけるが。

「征十郎様の試合を見るのは初めてなのでとても楽しみです。征十郎様はどのようなバスケをするのですか?」

「赤司のバスケか……簡単に言えば体格差など問題にしないスマートなバスケなのだよ」

「みどちん分かりにくい」

「征十郎様は格好良いバスケをするのですか?」

「格好良いってよりもエグいバスケっスよ〜」

「……エグい?」

「おい黄瀬、テツに変なこと吹き込むと赤司に消されるぞ」

赤司は黒子を目に入れても痛くない程に溺愛している。それこそ黒子の教育に関して細かく口を出す程である。そもそもの話、赤司と黒子の関係というのは婚約者という仲なのだ。赤司と黒子は京都に深く根付く御家である。したがってこの婚約は政略に近いのだが、如何せん赤司が黒子を大層気に入ってしまった。婚約した時点では、赤司が十三歳黒子は五歳で八歳差の婚約である。別に赤司はロリコンというわけではない。単に黒子が好きで、その黒子がたまたま年下だっただけなのだ。

(にしてもこのタイミングでテツが来るとはな。誠凛も運が悪すぎた)

可愛い可愛い婚約者の前で、赤司が負けという醜態を晒す筈がない。たとえ逆転不可能と言われようと、黒子がいれば赤司の負けは決して無いのだ。それは四人がよく知っている。

「試合を直に見るのは初めてです。どんなものなのでしょう」

見たことも無いものに胸を膨らませている黒子。彼女は自分の婚約者が活躍するところを見たかっただけなのだろう。しかしその好奇心が誠凛の敗北を決定づけてしまった。皮肉な運命に四人は苦悶の表情を浮かべた。



「征ちゃんどうしたの?試合始まるわよ」

「……あぁ」

紫原が抱き上げている少女は紛れも無く赤司が溺愛している少女だ。あの色は周りに溶け込みやすく見失われがちである。しかし赤司の眼には彼女がはっきりと映っていた。

(テツナが何故此処に?)

赤司の中には疑惑が広がる。しかしそんなことは些細なことだった。黒子がこの場にいて赤司を見ている。それなのに洛山のスコアは誠凛を下回っているのだ。これはいけない、なぜなら黒子の前では赤司は格好良い征十郎様でいなければならないのだから。

「なんだよ、よそ見だなんて余裕じゃねぇか」

「………僕に話し掛けるな。思考が邪魔された、気分が削がれる」

「あぁ!?んだと!」

「吠えるな負け犬が。敗者は敗者らしくしていろ」

さっきまで霞んでいた世界が女神の存在で開けた。今赤司の目の前にあるのは勝利への確実な道である。揺らがないその事実に、赤司は皮肉めいな表情で嗤った。

「力を合わせれば勝てるだと?そんなことは幻想だと、この王(僕)が証明してやろう」

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