制服としては珍しい青のシャツの上に、これまた珍しい白いセーター、更に黒ネクタイに白いブレザーという私立特有の制服を纏って、五人は家の門をくぐり出た。まだ中学一年になったばかりだというのに貫禄があるのは、その制服が五人に馴染みすぎているからだろう。赤司を除く四人は平均身長を裕に超えており、一年だと言っても信じてもらえないレベルにまで達している。

「なんか制服って面倒臭ぇな」

「何言ってるんですか、似合ってますよ」

「あんま時間無いっス!早く早く!」

「急かすのは止めるのだよ!俺が機械苦手なのは分かっているだろう」

「……真太郎貸せ、僕がやる」

デジカメを緑間から奪い取り手早くタイマーを設定する。赤司が作業をしている間に五人は家の前に黒子を真ん中にして立った。

「よし、十秒に設定したからな」

「早く早く赤司っち!」

「十秒なのだから焦る必要など無いのだよ」

「あっ、点滅してる〜」

「赤司くん早くです」

パシャリという軽快な音と共にフラッシュが焚かれる。きちんと撮れていることを確認してから、黒子はデジカメを鞄に仕舞った。まだまだこの子には頑張ってもらう予定である。

「じゃあ行きましょうか、帝光中入学式へ」

桜が舞い散る中、五人は帝光中一年生となった。



私立帝光中学生―――バスケをやる人間ならば知っている有名な中学校だ。毎年良い成績を残していて、部員も百人を超えると言われている。中学にも関わらず軍制を敷いている学校は珍しく、その点だけ見てもバスケへの力の入れ具合がよく分かる。

さて、帝光中は私立とだけあって当然お金が掛かる。一人のみならず五人も通うとなれば家計を圧迫することなど考えなくても分かる筈だ。しかし現実五人は帝光中に入学している。そんな無茶が叶った理由は、帝光中からのスカウトだった。五人が参加していたバスケのイベントに帝光中バスケ部の監督がたまたま顔を出していたのだ。その時に五人のプレイを見て、監督は純粋に欲しいと思った。全てのポジションを上手く熟している小学生など中々いない。監督は五人を見て、この五人は帝光を全中優勝へ導く鍵になると考えていた。

「すみません、少し良いですか?」

イベントで優勝した五人に声を掛ければ五人は怪訝そうな顔で振り返る。知らない人間から声を掛けられて不審に思っているのだろう。帝光中バスケ部の監督であると伝えると、五人はぽかんとした顔になった。

「君達バスケ上手いよね。誰に教えて貰ってるの?」

「別に……教わるとかしてないっス」

「あーなんかやってたらこうなった」

所謂天才肌というものなのだろう。努力で勝ち上がった選手は帝光中にたくさんいるが、圧倒的な天才というのは中々いない。その天才が今目の前に五人もいる。五人が作り出す未来を描いた監督は思わず身震いをした。

「……ねぇ君達、帝光中に来る気はない?整った設備で思い切りバスケ出来るよ」

「………大変嬉しいお話ですけど俺達は行く気はありません」

「えっ?」

「五人も私立に通わせるなんて、あの人に負担を掛けたくないので」

「えっ、ちょっと待って。五人はお友達なんじゃないの?」

「友達だよ〜。でも同じ家に住んでるから家族みたいなもん」

告げられた事実に監督は驚愕する。確かに五人分の私立を負担するのはとても難しい。それを五人はよく分かっているから、監督の申し出を断ったのだ。

「………親御さんとお話させてくれるかな?」

「ん、あそこ」

監督が視線を投げればそこには少女が立っているだけだ。母親達と思われる人間はいない。

「あれ、監督ですか?」

「……黒子?」

そこにいた少女に監督は見覚えがあった。既に卒業してしまったが、帝光中バスケ部を支えてくれていたマネージャーである。部員からとても人気が高く、過度に慕う後輩は少なくない。

「あれ、黒ちん知り合いなの?」

「言ってませんでした?僕は元帝光バスケ部のマネージャーですよ」

「その話は初耳なのだよ!!」

「僕も初耳だな。じゃあこの人はテツナの恩師か」

「テツって帝光出身なのか、すげー」

「中学時代の黒子っちどんな感じだったっスか?」

目を爛々として黄瀬は監督に詰め寄る。それを始めに青峰達も興味本意で監督に寄って行った。

「………ん?もしかして親御さんって黒子か?」

「親ではないですよ、強いて言うならば保護者です」

黒子と五人を取り巻く環境を監督は聞いて頭を悩ませた。元教え子がまさかこんな状況に置かれているとは思わなかったのだ。よく考えれば五人が同じ家に住んでいると聞いた時点で複雑な事情を察するべきなのだが。五つ子でも無い限り同じ歳の子が家にいることはない。その複雑な事情を考慮した上で、監督は後日、本格的にスカウトしようと決めた。

―――そうして五人はスポーツ推薦枠で入学を決めた。条件として二年の一学期までに一軍入りを提示したが、五人は見事に一年の二学期の時点で条件を満たした。



「さて、僕達ももう中学生だ。今まで通りにはいかないだろうね」

入学式や新しいクラスでの顔合わせを終えて、黒子と五人は早めに家に帰った。家に帰ってからやらなければならないことが多々あるのだ。お昼ご飯を食べた後、六人はリビングの机を囲んで座った。

「まずは部屋分けだな。今まで通りは無理だろう」

「空いてる部屋って幾つくらいっスか?」

「僕の部屋と君達が使っている大部屋を除けば……あと三部屋ですね」

現在黒子は今までと同じ部屋を、五人は宴会用に作られた大部屋を自室にしている。しかし五人の成長スピードは他とは比べようにならないくらい早い。平均身長を裕に越す彼らが全員同じ部屋というのは無理になってきていた。かといって五人に一つずつ部屋をあげられるほど家は広くない。よって二人で一室になる予定だ。そのために組み合わせを決める必要があった。

「だが組み合わせと言ってもほぼ決定しているようなものだろう」

「まぁ身長で組み合わせるよね〜」

最も身長の高い紫原と低い赤司、上から二番目の緑間と下から二番目の黄瀬、青峰は余りで一人部屋。この分け方が一番分かりやすく妥当だろう。しかし青峰の一人部屋という点が四人にとって納得のいかないところだった。

「やっぱ一人部屋は狡いっスよ」

「涼太の意見には僕も賛成だな。というかあの部屋に二人は少しキツイ」

「良いじゃねぇか別に。他に分け方無いだろ」

「やっぱり部屋割りは揉めますね……。いっそあみだくじにします?」

「そうすると赤司の一人部屋が決定したようなものなのだよ」

「引き良いもんな、赤司の奴」

こうなると話し合いは泥沼化してくる。やはり五人を三部屋に、という分け方がいけないのだろうか。しかしそれ以外に分け方などある筈も無い。

「もうじゃんけんで良くないですか?」

「黒子っちもう呆れ半分っスよね!?」

「五人を三部屋という事実は変わりませんし、だったらもう何でも良いかなって」

「……仕方ない、この際赤司のチートには目を臥せよう」

「チートだなんておかしなことを言うね。僕が負けるはず無いということは当たり前の法則だよ?」

「あーほら、とっととやろうぜ」

黄瀬の掛け声で各々が手を出す。五人でやればそれなりに回数が掛かる筈なのに、ものの見事に一度で勝者が決まった。

「やっぱり勝利は基礎代謝と変わらないね」

その後のじゃんけんの結果、一人部屋を赤司が、あとの二部屋を黄瀬・緑間と青峰・紫原が使うことになった。



「さて、じゃあもう一つの議題にいきましょうか」

「家事分担っスよね?」

「僕達ももう中学生だからね。家事くらいは負担させて欲しい」

今までは小学生だからという理由で、黒子はあまり五人に家事を手伝わせなかった。身バレ騒動の際に一度は分担の話も出たが、それも黒子が結局一蹴してしまったのだ。しかし流石に中学生となれば分担は当たり前になってくる。

「それに黒子は今年受験だろう?」

そう、黒子は今年受験生だ。今までも勉強は疎かにしていないが、今より一層勉強に励まなければならない。執筆の作業も受験を理由に休む予定だ。そんな黒子に家事全般を任せるわけにはいかない。

「とりあえず食事は僕がやりますね。君達料理スキル皆無でしょう」

「……すみません」

以前黒子がいない時に五人で料理をしようとした時があった。(ちなみに怪我をするといけないので緑間は不参加だ)その時に五人は如何に料理が苦手を痛感することになった。あの時出来上がった暗黒物質は永遠の黒歴史である。

「料理を除けば……掃除に洗濯などですかね」

「掃除は良いとして……、問題は洗濯だよな」

「洗濯が問題…ですか?」

訳が分からずに黒子は首を傾げる。黒子には理解出来なかったが、五人は洗濯の危険性をよく理解していた。

(どうする?仮にテツナに事情を話したとしても俺達が憤死して終わるだけだが)

(母親ですら恥ずかしいのに黒ちんに下の事情話すのは嫌だよね〜)

(いや、テツの場合『よく分からないので詳しく説明して下さい』とか言いそうじゃね?)

(男の事情詳しく話すとか拷問じゃないスか!)

(と、とにかく黒子に洗濯を任せる展開だけは避けるのだよ)

全ての心内会話をアイコンタクトで済ませる。しかし方向性は決まったが誰が話を切り出すかというのが問題だった。下手をすれば『詳しく説明する』という最悪の結果が待っている。

「く、黒子っち……洗濯のことなんスけど」

((((よくやった!!))))

「はい」

「やっぱり六人分なんてキツイし分担にしない?」

「でも一度にしないと電気代とか無駄ですよ」

(しまった!電気代という壁があったのだよ)

(家計云々なら僕達も強く出れない)

(『電気代なんて気にしないで』なんて言えないもんね〜)

(金の前では俺達も無力なのか……)

「じゃあ洗濯は俺達が担当するっス!」

「……君達がですか?」

「そうだな!黄瀬の言う通りだぜ!(テツに洗濯させる展開だけは避ける!)」

「………」

「黒ちん?」

「お前達……馬鹿だな」

「馬鹿すぎて溜め息すら出るのだよ」

事情が分からない三人が二人に意見を求める。赤司はちらりと黒子を見た後、三人に耳打ちするように小さな声で話した。

「お前達が洗濯するというならテツナの下着やらも洗濯するわけだが?」

「「「あっ……」」」

本当に見落としていたようで、赤司は思わず息を漏らした。三人は自身の下着事情に気を取られすぎて、黒子の方まで思考が回らなかったようだ。下着云々の話を女性にさせるのは非常識、それくらいの常識は赤司も緑間も持ち合わせている。

「とりあえず洗濯は僕がやりますから、君達は掃除お願いしますね」

最悪の結果を避けることが出来ずに、五人は内心相当凹んだ。



しかし後日黄瀬がスカウトを受けモデル業を始めたため、黒子の家の家計に少し余裕が出来た。それを理由に五人は改めて洗濯の交渉に出る。だが黒子が五人の抱えている事情に気づかなかったので、結局恥ずかしながら五人は諸々説明する羽目になった。黒子も聞き終わった後流石に罪悪感を感じ、その日の夕食は五人の好きなものだったとか。

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