ジリジリとけたたましく目覚まし時計が鳴る。可愛い猫の形の癖に鳴り音が酷く煩く不格好だ。しかし中学入学と共に両親が買ってくれたそれを、黒子はとても気に入っていた。

「―――“今日”が来てしまいましたか」

黒子テツヤは本日で15回めの今日を迎えることになった。



誠凜が優勝してキセキの世代が和解して、黒子はとにかく嬉しかった。中学時代に戻れるとは思っていない。けれど集まって話が尽きない関係というのは黒子がずっと望んでいたものだ。誠凜に入らなければ、火神と出会わなければ、きっと今を迎えることは出来なかっただろう。

「俺らが決別してなかったら、黒子っちと同じ道を歩めたんスかね」

黄瀬が呟いた言葉を思い出したのはバスに乗っている時だった。赤司が仲直り記念にと旅館を予約してくれたのだ。誠凜のメンバーも快く送り出してくれた。ただ諸事情で黒子だけ後から合流することになったのだ。

(僕達が決別していなかったら……どうなっていたんでしょう)

六人が同じ高校に進学したならば中学の二の舞になってしまう。そうなれば五人は本当に腐ってしまうかもしれない。決別をしてもしていなくても、別れることは必要だ。そして今と同じように試合で対峙するのかもしれない。

(まぁありえないことを考えても仕方ないですね)

目的地まであと30分は掛かる。それまで少し休もうと、黒子は身を席に委ねた。



目を覚ますと、黒子はベッドに寝ていた。記憶との齟齬に眉をひそめる。記憶では確か旅館に向かうバスに乗っていた筈だ。

(夢ですかね……)

枕元の目覚まし時計を見れば、タイマーの10分前をを示している。いつも寝起きが悪く時間前になど起きたことがない。そんな違和感に黒子は不快感を感じたが、夢だからと気持ちを落ち着けた。窓から見える空は酷く不安定で、それがまた不快さを駆り立てる原因になる。

「とりあえず……動きますか」

ベッドから降りて辺りをぐるりと回る。見慣れた部屋の配置に違和感がなさすぎて、それが逆に夢である錯覚を消していった。

(あっ、写真立てがない………)

机の上にあった写真立てが無くなっている。その写真立ては中学卒業の際に黒子の母が買ってくれた物だ。それが無いということは、この夢の世界は中学時代ということになる。中学時代の夢は黒子の心情を表しているのかもしれない。そう黒子は自身を納得させた。

「……とりあえず、学校に行きますか」

夢ならば夢として楽しませてもらおうじゃないかと黒子は無理に開き直る。気丈に保たなければいけない程この夢は黒子を蝕んでいた。



結果として、この世界は夢では無かった。さすがに一週間過ごせば気づくというものだ。そして現象を解明するために様々な文献を探した結果、黒子は逆行という結論に至った。まさかそんなSFを体験するとは思わなかったというのが最初の感想だ。しかし周りは黒子のことなどお構い無しに動いていく。解明の糸口も見つけられないまま、黒子は青峰開花の日を迎えてしまった。それを機に他の四人も才能を花開かせていき、本来の世界と同じ結末を迎えることになる。だが黒子はこうなることが分かっていたので、誰よりも先に誠凛への勉強を始めた。こうなったキセキを倒すには誠凛に行くしかない。そこでまたキセキを倒すべく火神と出会わなければ―――。

しかし黒子はキセキを倒すことが出来なかった。理由は簡単で明確―――火神が誠凛に来なかったのだ。入学式で映える赤が見えないことに黒子は激しく焦りを感じた。けれども焦ったところで火神が来る訳でも無い。編入してくるかもしれないだなんて淡い願いは叶うことなく、黒子のバスケ一年目は幕を閉じた。

そこで黒子はまた奇妙な体験をすることになる。それはWCが終わった後、本来の世界ではキセキとの旅行を計画していた日のことだ。黒子は本を買おうと街を歩いていた。相変わらずの影の薄さで人に気づかれることもない。すると周りの人間が皆上を見上げて叫び始めた。黒子も釣られて上を見上げる。黒子の視界に入ってきたのは、視界いっぱいに写る鉄柱だった。咄嗟に目を閉じてその場にしゃがむ。しかし痛みは無くて、目を開けば見知った天井が目の前にあった。

(―――は?)

黒子はその時、ループ現象というものを体験した。それから黒子はこの世界の原則を理解した。この世界における最も重要な原則―――それは黒子の生に限りがあるということだ。黒子は決められた日―――正確にはWCが終わった一週間後に黒子は命を落とす。それは何をしても変わらない事実で、黒子は途中から諦めた。そしてもう一つ分かったことがある。それは黒子がいた本来の世界には奇跡が溢れていたということだ。黒子がループしてきた中で火神が誠凛に来た回数は僅かに4回、木吉が途中参戦してきた回数は0回である。火神と木吉、その二人が誠凛に齎(もたら)したものは大きい。それを失った誠凛はキセキに勝つことなど出来なかった。しかし黒子には誠凛以外に進む道は最初から無く、ループする世界でただ絶望を味わっていた。

(………だったらもう、諦めた方が良いかもしれない)

10回目の逆行ループ世界の青峰が開花する前日に、黒子は屋上から投身自殺をした。開花したキセキを倒すことは出来ない。離れていくキセキを見ていくことも辛くて出来ない。ならば輝かしい時代を輝かしいままで残していきたいものだ。だから黒子は逃げるという形で世界から離脱する。ループから逃げ出せなくても構わない。ただとにかく逃げたかった。

(あっ天井………)

黒子テツヤは本日で11回目の世界に迎えられた。



黒子が自身を天命ではなく自らの手で下すようになって、変わらないと思っていた世界に変化が起きた。正しく言えばキセキの世代の言動に変化が現れたのだ。今までは同じことの繰り返しで、試合結果のスコアですら同じだった。そんな世界が急に変わったものだからか、黒子の中に一種の喜びが生まれる。しかし変わったのはキセキの世代だけで、世の中の流れは変わらない。だが試合のスコアはキセキの世代が影響を及ぼすからか、変化がちらほら現れた。もちろん大差であることには変わりないが。

(死という大きな概念を変えたからですかね………。でも開花は変わらない)

そう、結局青峰の開花は変わらなかった。ならば黒子のやることは一つ、同じことを繰り返すだけだ。次の世界に無機質な気持ちを寄せて、黒子は車が行き交う道路に身を投げた。



15回目の世界で黒子はあることを決意する。今までの世界で黒子はとにかく逃げ続けていた。しかし今回はそうではなく、敢えて言おうと思ったのだ。この先に起こる未来を告げれば、黒子がいなくなった世界で何かが変わるかもしれない。不確定なことに間違いは無いが、それでも何もしないよりはマシだ。

「………何の用だい?改めて話だなんて」

「………君達に聞いて欲しい話があるんです」

五人の目をきちんと見て、黒子は大きく息を吐いた。もうすぐ去る世界だというのに緊張してしまうのは何故だろう。五人の視線が黒子を捉えて離さないからだろうか。

「今からする話は君達にとって意味が分からないかもしれません。それでも黙って何もせずに聞いて下さい。………単刀直入に言えば、君達は今日を機に大きく変わります。バスケが……君達を繋ぐ鎖が砕け散り始める。僕はそれを何度も見てきて、その都度絶望を味わってきました。嫌な話ですが、離れていく君達を見ていられる程僕は強くありません。……だから僕は先にこの世界から去ります。我が儘を言ってごめんなさい。僕はもう、君達に沿える影じゃないんです」

硬直して動けない五人を前にして、黒子は背を翻し校門を目指す。この時間帯、道路が車で溢れていることを黒子は今までの世界で知っている。痛みなど感じる前にループしてしまうのだから、黒子にとって死は恐怖では無かった。

「………さようなら、また次の世界で」

小さく呟かれた黒子の言葉は走ってきた車の音に掻き消された。







大きな音に五人の意識は引き戻される。校門前の道路は悲劇に包まれていて、その非日常さに赤司は乾いた息を漏らした。そして乾いた息は段々笑い声に変わっていき、最後は不釣り合いな高笑いになっていく。四人はそんな赤司の様子に何故か眉をひそめなかった。

「………なんだ、“そんなこと”が理由だったのか。全く気づかなかったよ」

「赤ちん大丈夫?」

「あぁ大丈夫だ。5周目にしてやっと死んだ理由が分かった」

「………まさか黒子がループしているとは思わなかったのだよ」

「“黒子っちも”だったんスね」

「テツの奴何度もって言ってたけど何回目だったんだろうな」

「そんなことより次に行くぞ。テツヤが死ぬ理由は俺達との決別だ。このタイミングなら、明日の練習試合が妥当だろうな。それを警戒していけば次は問題無いだろう」

「ん〜了解」

全員がポケットから取り出した物―――それはカッターナイフで。五人は躊躇いもなく手首に当て深く切り裂いた。辺りに飛び散る血が五人を濡らしていく。そんな異様な光景の中、五人はただ笑みを浮かべていた。




※あまりにも意味不だったので解説
→キセキは黒子ちゃんが自殺した周からループを始めています。
→黒子ちゃんが先に死ぬのでキセキが自殺することを黒子ちゃんは知りません。
→黒子ちゃんの自殺の原因が知りたくてキセキ頑張る(この辺を書いてしまうとキセキ逆行がバレる可能性があったので敢えて書きませんでした)

そんな感じですかね。
分かりづらい話ですみません。

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