「テストお疲れさ〜ん」

「はい、お疲れ様でした」

ずずっと黒子がバニラシェイクを啜る。その正面で高尾もアイスティーを啜った。秀徳と誠凜から大体同じくらいの距離のマジバで、二人は机を囲んで座っている。パス捌きを生業にする二人はいつしか意気投合して、いつのまにかプライベートで会う程になっていた。きっと緑間が知ったら取り乱すだろうなと頭の隅で高尾は思う。高尾の相棒の黒子への愛はもう引くレベルだ。元チームメイトの枠を大きくはみ出している。―――まぁ全てのキセキに共通していることだが。

「テスト終わってバスケしたいのに出来ないとか辛いよなー」

「そうですね。早く練習したいです」

流行りものなのか、質の悪い風邪にリコが罹ってしまい誠凜の練習は急遽中止になった。どうやら秀徳の中谷監督も同じのようで、秀徳も中止になってしまったようだ。

「あー真ちゃん揄うしか楽しみないわー」

「緑間くん冗談通じませんよ?」

「良いの良いの」

机の上から黒子の携帯を奪う。黒子の携帯から高尾がメールをすれば、あの天才シューター様はうろたえるに決まっている。そのために高尾は黒子の携帯を拝借したのだ。黒子は、高尾が実害のあることはしないと信頼してか、好きにさせていた。

「あれ?テッちゃんファイル面白いね〜」

「ファイル?………あぁ、アドレス帳のことですか?」

アドレス帳のファイルの括りが誠凜・帝光・他校生・その他になっている。見やすくて良いのだが、他校生という括りが気になった。高尾なんかは他校生という括りなのだが、黒子に他校生の知り合いが多いとは思えなかったからだ。

「テッちゃん、アドレス帳見ても良い?」

「良いですけど、変なことしないで下さいね」

他校生というファイルを開いてみる高尾。そこに載っている名前に、高尾は冗談抜きで立ち上がりそうになった。

「ちょ、テッちゃん!!何このアドレス帳神かよ!?」

見知った名前がアドレス帳に載っている。どれも有名なバスケ選手ばかりだ。身近なところで言えば正邦の岩村や春日に津川―――いや、もっと身近な人間がいた。秀徳レギュラーの大坪や宮地に木村だ。いつの間にと高尾は思ってしまった。

「うちの先輩方がいるんだけど……」

「IH終わった時に交換して欲しいと頼まれまして。緑間くんへの愚痴がほとんどですけど。というかキセキの行った学校の先輩やレギュラーの方から交換して欲しいと頼まれるんです」

キセキ専用のブリーダーはとても人気だった。しかし無理もないことだ。なにせ一癖も二癖もあるキセキの面倒が見れる人間など貴重以外の何者でもない。おまけに黒子は品行方正であるため先輩受けも良いだろう。

「うわー海常も桐皇もいんじゃん」

「今吉先輩からと若松先輩からのメールが一時期毎日のようで困りました」

「あぁー青峰だっけ?アイツ手間掛かりそうだもんなー」

「海常の笠松先輩から本気で海常に来ないかとも言われまして」

「考えることは何処も同じなんかねー」

実際決勝で誠凜に負けた後、大坪はよく「黒子がいれば……」とぼやいていた。もちろんパサーとしての能力を買ってではなく、緑間の世話係としてである。あの敗戦の理由がラッキーアイテムの大きななのだと勘違いした緑間は、しばらく規格外の大きさのラッキーアイテムを持ち歩いていた。はっきり言って邪魔でしかない。この状況を黒子ならば解決してくれる、そう大坪は思ったのだろう。黒子のアドレス帳に監督の中谷の名前を見つけた時に確信に変わった。

「あれ?この人確か……」

「?―――あぁ花宮さんですね、霧崎第一の」

「えっ!?確かラフプレーで有名なところだよな。テッちゃんの先輩と因縁があった筈だけど」

「えぇ、木吉先輩と去年色々ありました」

「そんな奴のアドレス帳持ってんの?」

「………試合終わった後に待ち伏せされまして、その時に携帯を奪われて勝手に登録されました。ちなみに霧崎第一のレギュラー全員分入ってます」

確かに黒子の言う通り霧崎第一レギュラー全員のアドレスが入っていた。しかし他人から携帯を奪うなど容易ではない。高尾の場合は机に置いてあったから手を出せたのだ。鞄などに入れていたらそれこそもっと難しい筈である。

「携帯なんて簡単に奪われる物だっけ?」

「花宮さん曰く、携帯を入れてある場所を予測したみたいですよ。頭が良いなら何でもありですかって内心呆れましたけど」

「さすが天才、無冠も伊達じゃないってか」

黒子にバレないようにメールボックスを開く。すると意外にも花宮からのメールが上の方にあった。心の中で手を合わせて謝ると、高尾はそっとメールを開く。

(えっ、ちょ、本当に花宮からのメールかよ)

悪童という名に似つかわしくない内容で高尾は驚いた。花宮からのメールの内容は、この前のテストについてだったのだ。しかも花宮によるテスト予測が内容だった。パスコースを全て読む花宮には、テストさえも読めてしまうのだろうか。だとしたら羨ましい限りである、

(見たことは秘密にしないとな……)

「テッちゃんさ、花宮とはどんなメールすんの?」

「花宮さんとと言うよりも霧崎第一レギュラーとですね。花宮さん名義で五人分内容が書いてあるので」

「そっか。で、内容は??」

「基本的に霧崎第一に来いとかですよ。あとテスト前はテストの予想問題が送られてきます。どうやって誠凜の情報を手に入れているかが謎ですが」

「やべっ、テッちゃんマジで面白い」

試合をするたびアドレス増えるね、どこかで聞いたようなフレーズだ。しかし黒子にぴったりだろう。キセキ以外にも黒子は着々とファンを増やしていた。かくゆう高尾も同じ身分ではあるが。

「しっかし冗談抜きでこのアドレス帳凄いぜ。とりあえず東京の強豪なら一発で連絡出来る」

たとえそれが監督陣であったとしても、黒子相手なら出ないということはあるまい。なにせどこの高校も喉から手が出る程欲しい人材なのだから。それを分かっていないのは黒子だけだろう。

「高尾くんが思っている程のことじゃないですよ。高尾くんだってアドレス帳たくさんでしょう?」

「いや数じゃなくてレベルの話だからな!第一うちや海常とかのレギュラーと直通とか絶対羨ましがられるから」

「はぁ……」

やはり価値を分かっていないらしい。高尾ならお金を出してでもこのアドレス帳は欲しいのにだ。電話一本で夢のチームを作ることも不可能ではない。

「テッちゃんさ、キセキとは離れたって言ってたけどメールしたら返事来るの?」

「黄瀬くんと赤司くんが3分以内に返信してきますね。緑間くんは5分くらいで、あとの二人はせいぜい掛かって10分かと」

「キセキの返信すげぇなっ!」

これはもう仲が良いとしか言いようがない。むしろ決別したと思っているのは黒子だけで、向こうはきっと未練たらたらなのだろう。じゃなければキセキの黒子大好きは説明出来ない。黄瀬はいつも試合を見に来ていて、数少ない見に来ない日は本人が試合をしている時だ。緑間だって何だかんだで理由を立てて試合を見に行っている。青峰は今は敵だと離別宣言をしているのにテツテツ五月蝿い。紫原は黒子を見る度に美味しいとか食べちゃいたいとか呟いている。そして俺様何様赤司様は黒子のことが心配で心配で堪らなくて、ハイスキルなストーカーを繰り返したり対戦校に鋏を送ったりするほどだ。

「真ちゃんからメールとか来んの?」

「緑間くんから毎日ラッキーアイテムについてメールが来ますね。僕も見ているので必要無いんですが」

「真ちゃん笑えるんだけど……」

おは朝信者は黒子までもを巻き込むようだ。現に高尾も幾度かラッキーアイテムについて(強制的に)指南を受けた。中学時代から黒子はその犠牲者なのだろう。

「でもテッちゃん愛されてるよね」

「愛されてる………ですか?」

「だってテッちゃん凄く大切にされてる。当事者だから分かんないのかもね」

「はぁ………」

幻の六人目の特技は観察眼を使ったミスディレクションによる視線誘導。しかし当の本人へ向けられるベクトル、視線は上手く観察出来ないようだ。そんな黒子が可愛くて愛しくて、高尾は思わず頭を撫でた。男が頭を撫でられても嬉しい筈がなく、その手はすぐに弾かれてしまう。それでも高尾は何故だか機嫌が良かった。

「ねぇテッちゃん、ストバスやらない?」

「……良いですよ、やりましょう」

お互いバスケ好き、集まったらとにかくバスケだ。マジバの会計を手早く済ませて二人は店を出た。すると途端にカラフルが目の端を過ぎる。まさかと思い鷹の目を使えば、今会いたくない人間がホイホイいた。

「テッちゃんコッチ来て。じゃないと――」

「あれ、黒子っちじゃないスか。隣にいるのは緑間っちの学校の人っスよね。なんで二人が一緒に居るんスか?」

「黄瀬くんこそどうして此処に?」

「黒子っちの匂いがしたんスよ〜」

「まったく君はいつも冗談を……」

(テッちゃんそれ冗談じゃない!確信犯ストーカーか天性のヤンデレだから!)

「もしかして黒子か?まったくこんなところで会うなんて偶然なのだよ」

「緑間くん、お久しぶりですね。どうして此処に?」

「おは朝の占いで此処が吉なのだよ」

(そんな局所的なおは朝無ぇよ!!あと真ちゃん、右手に隠してる黒い物体は犯罪行為だぜ)

「ん、テツじゃねぇか。部活今日無いのか?」

「相変わらずサボりですか青峰くん。でも此処は通学路じゃないですよね」

「あぁー、気がついたら此処にいた」

(なんかピュアに感じるんだけど!テッちゃんに会いたいと思ったら本能的に足が動いたとか!)

「関東のキセキが一同に集まるとかどんなホイホイだよ……」

「高尾くん?」

「いや、なんでもない。テッちゃんも大変だね」

「……はい?」

この先のキセキ展開について行けるほど高尾は出来た人間ではない。ストバスをしたいのは山々だが、胃の調子を考えて辞退することにした。その決断に対してキセキ3人が口角を上げたことに気づいた者はいない。


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黒い物体=発信機だよ!

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