※黒子ちゃんが灰崎さんに恨みある設定。
男前でちょっぴり小悪魔な黒子ちゃんだよ!
黄瀬くんが灰崎くんと戦うのを黒子ちゃん知ってたみたいな空気だけど気にしちゃ駄目☆
原作無視のご都合主義な話だけど大丈夫!って人はどうぞ↓↓↓
技を盗む灰崎の前に海常は苦戦を強いられていた。灰崎の盗む対象はあくまで技のみでポテンシャルを奪えるわけではない。しかし今まで練習してきた技を盗まれ尚且つ自身が使えなくなるという状況を前に、指揮が落ちるのは仕方がないことだった。灰崎の技を警戒している黄瀬は得意技を見せることなく応戦しているが、それも時間の問題だ。
「技を盗むって……、黄瀬以上じゃねぇか」
「………」
「黒子?」
真剣に見入っているのか黒子は返事を返さない。試合に見入ることはよくあっても返事を返さないなんて初めてだったので、火神は疑問を感じた。
「黒子………お前もしかして怒ってんのか?」
「えっ……、………そうですね」
黒子の視線は依然として試合に向けられているが、会話をしてくれる気になったようだ。
「確かに灰崎くんの能力は凄いと思います。純粋に考えたら黄瀬くんよりも脅威ですし。………でも彼のバスケは周りから可能性を奪っていく」
「可能性を?」
「考えてみて下さい。今までずっと練習してようやく使えるようになった技を、彼は一瞬で盗んでいくんですよ。しかも盗まれた方はその技を使えなくなる」
「あっ………」
「………僕は彼のバスケの前で部を辞めていった人間を何人も見ています。灰崎くんは部員を"自分の手数を増やす駒"としか見ていない。そんなバスケはバスケじゃないです」
黒子の目にはありありと感情が滲み出ていて、火神は声を詰まらせた。バスケ部という中で灰崎を見てきた黒子は、きっと歯痒い思いだったのだろう。黒子よりも上手く才能のある部員が灰崎によって刈り取られていく。黄瀬と違って灰崎は何も残さず奪っていく。それはもう悲惨としか言えまい。
「黄瀬くんが以前言っていたように、僕のミスディレクションは黄瀬くんでも真似出来ません。それは灰崎くんも同じです。だから中学時代は色々あったんですよ」
黒子の得意とするミスディレクションは使い方次第でとてつもなく化ける。中学時代の黒子はそれをパスのみに利用していたため認知されにくかったが、今ではパスやドライブやシュートにまで応用出来るくらいだ。黄瀬も真似したがったが、こればかりはどうしようも無かった。
「今ではミスディレクションに誇りをもてていますが、中学時代は彼に色々と言われたんですよ。青峰くん達は『盗めないものへの苛立ちだ』って一蹴してましたけどね。………そんな中彼がある部員に言い捨てたんです」
「………何をだよ」
「………『お前の存在価値は俺に技を貢ぐためにあるんだ』って。あの時僕は本気で灰崎くんに殴りかかろうとしました。近くにいた緑間くんに止められましたけど」
「お前が殴りかかるって………相当だったんだな。でも、そこにいたのが俺でもお前と同じ行動してたと思うぜ」
「ちなみに青峰くんは殴りかかりました」
「おい!」
くすりと薄く笑い、黒子はコートに意識を戻す。第2Qを終えてインターバルに入るところで、張り詰めた空気は少しだけ弛緩した。しかし10分後にはまた両者の戦いが始まるのだ。試合の着く先が読めない展開に会場が沸くのは間違いないだろう。
「個人的なものですが、灰崎くんには色々とありまして。………だから黄瀬くんには代理で敵討ちをお願いしたんです」
「敵討ち?黄瀬に?」
「見ていて下さい。すぐに分かりますから」
黄瀬が凄い奴だというのは火神も知っている。しかし灰崎だって負けていない。むしろ陰湿さでいったら勝っているだろう。黒子が黄瀬の何に賭けているのか、火神はものすごく気になった。
「………なぁ、一つ聞いていいか?」
「なんでしょう」
「さっきの灰崎に暴言吐かれた奴、……どうなったんだ?」
「……辞めましたよ、その日に退部届けを出して」
「そうか」
後味の悪い最後に、火神は射殺すような思いで灰崎を思った。
インターバルを終えて両者がコートの中に戻る。その中で黄瀬は不意に右手を上げた。それを見た黒子が同じように右手を上げる。黄瀬の突然の行動に会場内でどよめきが起きたが、誰も呼応して上げた黒子には反応を示さない。改めて黒子の影の薄さを誠凜は感じることになった。
「おい黄瀬何やってんだよ!」
「ちょっと確認っス」
「どうでもいいから早く来い!」
笠松の声に黄瀬は慌ててコートに戻った。
「なんだよさっきのアレ。もしかしてファンサービスってやつか?」
ボールが他に回っている間に灰崎が話しかけてくる。うざいと感じながらも黄瀬は答えを返した。
「ファンサービスなんてしないっスよ。ちょっとした合図っス」
「合図だぁ?」
「そう―――」
笠松から黄瀬にパスが回り、黄瀬と灰崎の1on1になる。普段なら豪快に抜いてダンクを決めたいところだが、灰崎相手に簡単な筈が無い。しかし別の理由で黄瀬には今ダンクをしない理由があった。
「アンタをぶっ潰す合図だよ」
黄瀬が放ったスリーポイントシュートは綺麗な弧を描いて、そのままネットをくぐる。シューターではない黄瀬がスリーポイントを決めただけでも驚きだが、周りの驚きはそこではない。灰崎が一歩も動けなかった、そこに理由がある。
「ねぇ………今の見えてたっスか?」
「それは……あのチビの………」
「ミスディレクション――手品とかで使う技法っスよ。アンタが中学時代『消えるしか能が無い』っていった黒子っちの十八番」
「なんでお前がっ……」
「………なんでっスかねぇ?」
含みのある言い方にいらついたのか、灰崎が黄瀬に掴み掛かろうとする。当然の如くそれは審判に止められた。
「あぁ、もうしないっスよ。ただ黒子っちにこれで得点決めてくれって頼まれただけだし」
「チビがお前に?」
「俺はただアンタに黒子っちは無能じゃないって見せつけたかっただけ。まぁアンタの言う無能の技で点を取られたんだから、アンタも無能かもだけどね」
「てめぇ!」
「バスケはバスケで返す。コート上なら尚更っスよね?」
黄瀬の挑発に簡単に灰崎は乗る。その安易な愚直さに、黄瀬は内心で嘲り笑った。
「僕が教えたんですよ、アレ」
アレというのがミスディレクションであるのは分かる。しかし黄瀬が使えるという点に疑問をもった。あれは黄瀬でも真似出来ない、そういう技だった筈だ。
「真似出来ないのは僕のミスディレクションです。つまり影の薄い僕自身を更に薄める、それが出来ないだけなんですよ。ミスディレクション自体は黄瀬くんだって出来ます」
「つまりミスディレクションは出来てもプレイは出来ないってことか」
「はい。でも一回くらいなら油断している相手に対して黄瀬くんでも効果はあります。僕の場合は相手もそれを意識していますが、黄瀬くんがそれをするとは誰も思っていないので」
黄瀬自身が目立つ存在であるため、一瞬でも視界から消えることはものすごく難しい。それを分かっていながら、黒子は黄瀬に頭を下げて頼みこんだ。黒子が頭を下げて頼みこむなんて滅多に無いことなので、始め黄瀬はとても驚いた。しかし同時に黒子からの厚い信頼を感じて了承したのはすぐのこと。黒子自身にも練習はあったが、時間を見つけては黄瀬にミスディレクションを教えに行っていた。黄瀬にとっては黒子と長い間一緒にいれるため、お互い損というものが無かったのが幸いだ。
まさか灰崎も黄瀬がミスディレクションをするとは考えないだろう。だからこそ成功したのであって、今後成功することはない。それでもたった一回、しかも第3Q開始早々にかました意味はあった。不意打ちの攻撃で相手チームの動揺を誘うことが出来たからだ。
「お前黄瀬に頼んだって言ってたけど、自分で敵討ちすれば良かったんじゃねぇの?」
素朴な疑問を火神は投げかける。少し間の抜けた表情をしたあと、黒子は少し呆れた表情で言い切った。
「海常が準決勝に上がって来るのに、どうやって灰崎くんと戦うんですか?」
黄瀬を―――海常を黒子は信頼している。キセキの世代だからというだけではないのだ。今までの努力や勝ちたいという思いやバスケに対する心、それらを総合的に見て黒子は海常が勝つと判断した。
「……悪い、変なこと言ったな」
「楽しみですね、強くなった黄瀬くん達と戦うの」
練習試合から誠凜は海常と試合をしていない。お互い強くなるには十分な時間があった。それをようやくぶつけることが出来る。火神は終わってもいない試合を前にして、次の試合への奮えを感じていた。