「ノノハ〜宿題やった?」
「カイトまた忘れたの?もう今回だけだからね!」
これで付き合っていないなんて質の悪い冗談だ。しかし冗談でないのがギャモンにとって憂鬱だった。周りはもういつものことだというように受け止めている。隣にいるアナもキュービックも温かな目だ。
「二人ってホント仲良いよね〜」
「幼馴染み恐るべし!だよね〜」
まさにほわわんといったアナである。キュービックもアナに当てられてほわわん状態になっていた。ギャモンもほわわんになりたいが、流石にそうなったら明日槍が降ってしまう。いや、もういっそほわわん状態になってノノハに介抱してもらうのも良いかもしれない。そんな思考に陥るほどギャモンは末期だった。
「いっそ付き合ってくれたら楽なんだよな」
「ギャモン?」
ノノハがカイトと想いを遂げていたら、きっとギャモンはもっと楽なのだ。しかしノノハはカイトに想いを告げていないし、逆もまた然りである。それがギャモンにとって苦痛だった。
「あっギャモンくん、ちょっと聞いてよ〜。カイトがね………」
「あ?またカイトの奴何かやらかしたのかよ」
「また宿題忘れたんだって〜。ギャモンくんはパズルオタクだけど宿題とか忘れないよね。本当カイトとは大違い」
さらりとノノハは言ったが、ノノハの台詞はギャモンの胸を激しく叩いた。ノノハは“いつもギャモンが宿題をしている”ことを見ているのだ。好きな人が自分を気にしてくれている、そのことがとても嬉しかった。
「ノノハ……パズルオタクはやめてくれよ。せめてパズルマニアって言え」
「どっちも変わんないじゃん」
「パズルオタクって嫌な響きだろ」
オタクよりもマニアの方が響きが良い。なんとなくだがそう思った。………オタクなのは否定しないが。
「何してんだノノハ」
「愚痴聞いてもらってた。カイトは手間しか掛からないもん」
「なんだよそれ、俺はギャモン以下かよ」
「ギャモンくんの方がカイトより優秀に決まってるでしょ。ご飯だって美味しいし………」
ノノハの褒め殺しはギャモンに毒でしかない。それでもノノハが紡ぎだす言葉はギャモンにとって甘美だった。誰にも理解されなくてもいい、ノノハと二人きりで永遠に話がしたい、そう思う程に。しかし現実叶うことはない。ノノハの一番は常にカイトで変わることは無いのだから。
「辛いよね」
「アナ?」
「ギャモン……辛いよね。アナにはギャモンの気持ち分かるよ。だってギャモンの顔に書いてあるもの」
ふわふわとしたアナはそこにいなくて、いるのは真摯にギャモンを受け止めるアナだ。美術という感情に触れる作業をするアナにとって、物事の気持ちを読み取ることは容易である。それを表してこその美術家だ。だからギャモンの中に秘められた気持ちがアナには理解出来る。人に気持ちを見透かされるというのは気持ちが良いことではないが、アナに嫌悪感を抱くことはなかった。
「……でも俺としてはある意味すっきりしてんだぜ」
「すっきり?」
「ノノハの気持ちが俺に向くことは無ぇ。だから余計な希望を抱かなくて済む」
「断言しちゃうの?」
「あぁ断言出来る。だけど俺はノノハにとって一番頼れる奴にはなりたいんだよな」
恋人としての立ち位置が無理ならば、一番の友達としてノノハの傍に立ちたい。想う人間としてどうかとは思うが、それでもギャモンは何らかの形でノノハの近くに居たかった。そしてノノハの笑顔を見ていたいのだ。
「片想いだって悪くないんだぜ?」
アナに対して不敵な笑みを浮かべればアナも挑戦的な笑みを浮かべる。片想いの甘酸っぱさ、アナも経験すればきっと分かるだろう。その甘酸っぱさが辛いと分かっていながら、ギャモンはその道を選んだ。