今世間を賑わしているキセキの世代というアイドルグループは六人の男女グループである。主なボーカルは紅一点の少女、そしてあとの五人は楽器を担当しつつ歌を歌ったりとまちまちだ。デビューしてから右肩上がりに売れているキセキの世代は、事務所イチ押しの新人だった。
キセキの世代の人気の理由として、やはりビジュアルが上げられる。顔が良いのはアイドルとして必要要素だが、彼らには高身長という特典があった。180cmを超えているだけでも驚かれるものだが、彼らは平均して190cm程ある。その上ある程度の筋肉質であるため細いという印象はない。まさに逞しいという言葉が似合う。そんな彼らに世間が騒ぎ出すのは当然のことだった。
簡単に楽器担当を説明すればギターを黄瀬と青峰と赤司が、キーボードを緑間が、ドラムを紫原が担当している。ギターの三人にも役割があり、黄瀬はリズムギターで青峰がベースギター、赤司がリードギターを担当していた。ギター三人は基本的にどこのパートでも出来るのだが、籤引きの結果こうなったのだ。
そしてグループの要であるボーカルは先程述べたように紅一点の少女だ。何故少女と表すのか、それは彼女の名前と顔を公表していないからである。デビュー当初から彼女はフードを目深に被り顔を隠していた。デビュー時の会見でそのことについて彼女は「周りの格好良い集団と比べられるのが嫌だから」と公言している。しかし名前だけは呼び名が無いと困ってしまうので、彼女はペンネームとしてクロと名乗っていた。上記のような理由で、謎のボーカルという面でもキセキの世代は人気を集めていた。
「お疲れ様でした。今日の収録は以上です」
スタッフが部屋から出ていく。途端に楽屋に響くのは各々の疲労の声だ。アイドルで新人という名目上、他の人間に気を使わなければならない。そのため疲労が毎日溜まりに溜まってしまう。デビュー前に覚悟していたことではあったが、現実問題になるとやはり厳しい。
「あの……そろそろフード取って良いですか?」
「あぁいいよ」
「暑くないっスか?」
「暑いし視界も悪いし最悪ですよ。でも顔出すなって赤司くん煩いですし」
「顔出しだなんて僕は許さないよ」
中学時代から赤司の絶対王制は続いている。正確には中学時代のが抜け切らないのだ。それほどまでに赤司の力は強い。その赤司に顔出しNGとされれば黒子に文句を言う権利など無かった。
(まぁ顔出しNGに関しては五人も賛成していましたし。それに人前に出るほどな容姿じゃありませんからね)
黒子は顔出しNGについて自分の魅力の無さだと思っているが、実際は全く逆だった。黒子のもつ色素の薄い淡い水色の髪や大きい瞳、その可愛らしさは周りの視線を集めてしまう。今までは影の薄さで緩和できたようだが、五人と同じ土俵に立ち脚光を浴びればきっと露見するだろう。黒子にはいつまでも五人のお姫様でいて欲しいのだ。たとえ大切にすべきファンにでも渡す気は毛頭無い。
「……テツ、フード被れ」
「え?」
「誰か来る」
青峰の言葉に急いでフードを被る。数秒後にいきなり開かれた扉に赤司は息を吐いた。普通は入る時にノックをするだろう。しかしこれは意図的にしていない。キセキの世代の人気上昇と共に謎のボーカルについて関心が高まっている今、その情報が欲しくてノックをしない、所謂突撃というやつだ。幸いというべきか青峰は野性的な勘が働くため、幾度となく突撃に対処出来ていた。
「あ……みんなお疲れ〜」
「お疲れ様です真柴さん。ノックして下さいって毎回言っているのに相変わらずですね」
「え…あ、えーっと、つい忘れちゃって」
「そうですか、次は気をつけて下さいね」
そう言う赤司の言葉には棘が含まれている。相手もそれが分かっているからか顔色が悪かった。プロデューサーである真柴相手に赤司は強く出れない………なんてことはない。赤司がやろうとすれば目の前の人間を無職にだって出来る。しかしたまにはそういうことを止めようと少し自重していた。と言っても黒子に関して問題が起きれば容赦は無いが。
「何か御用ですか?帰り支度をしたいんです」
「あっそうだよねぇ。お疲れ様〜!」
慌てて出ていく真柴が見えなくなってから、黄瀬は堪えていた声を吐き出した。立ち去る際の真柴の顔が滑稽でたまらない。それは青峰も同様で、青峰も腹を抱えて笑っていた。緑間はそんな二人を呆れた目で見ている。黒子も緑間同様で、紫原は興味が無いのかまいう棒を頬張っていた。
「あの人いつになったら懲りるんスかね」
「俺そろそろアイツの足音覚えそうなんだけど」
「二人共笑いすぎです」
「だってアイツらテツの正体知りたくて躍起になってんだぜ」
「黒子っちの正体なんて掴める訳無いのに」
「赤ちんが情報網押さえてるからね〜」
「不用意なことでもしない限りバレることは無いのだよ全く」
最も危惧しているネット関係は赤司が独自のやり方で押さえているため、そこから情報が流出することは無いだろう。それに帝光中の面々は赤司の恐ろしさを直に知っている。そんな赤司相手に情報を流すだなんて敵対行為をする者はいない。バスケ部でなくても赤司の名は全生徒が知っていることなのだから。
「あっテツナ、次の曲は僕が作詞作曲担当なんだ。少しイメージを合わせたいから今日このあと空いているかい?」
「明日はオフですから大丈夫ですよ」
「えっ、黒子っち……もしかして今日赤司っちの部屋に泊まりっスか?」
「えぇ、赤司くんの部屋は防音なので」
「赤ちんの部屋に泊まるとか危なすぎ〜」
「そうだテツ!赤司の部屋に泊まるなんて許さねぇぞ」
「俺も青峰に賛成だ。年頃の女が男の部屋に泊まるなど……不埒なのだよ」
「だそうですけど、どうでしょう赤司くん」
「煩い奴は放っておけばいいんじゃない」
「こうなったら俺も付いて行くっス!」
「よく行った黄瀬!」
「もうみんなで泊まりでよくない?」
「まぁ赤司と二人きりよりかは安心だな」
「………良いだろう。荷物纏めて僕の部屋に集合、分かった?」
こうして仲良くキセキの世代の夜が更けていく。
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ちょっとした設定
→六人は同じマンションだけど違う部屋に住んでます
→キセキの曲は全部自分達で作詞作曲
→黒子ちゃんは女性キーならどんな高さでも出せるスーパーガール
→赤司様はもう赤司様