※ボカロのリマインダーという曲を元にしました。
素晴らしい曲!みなさん是非聞いて下さいな!
赤黒でにょただよ!





過去を振り返ると後悔やら負の感情でいっぱいになる。今思えば学生時代の自分は幼かった。当時はそれに気づいていなくて、それが今とても恥ずかしい。特に恥ずかしいのは中学時代だ。帝光中でキセキの世代と呼ばれ頂点に立っていた、あの時代が輝かしくて同時に恥ずかしいと、今さらながらに強烈に感じる。

しかしそんな甘酸っぱい思い出だけでは無かったのだ。当時ずっと傍らにいてくれた少女、それが今までの自分の根底に根付いている。キセキの世代のメンバーは知らなかっただろう、赤司征十郎最大の弱みであり最愛の人間だ。彼女無しに赤司征十郎は語れない。

今日はそんな彼女の話をしようと思う。



出会いはいつかと聞かれたら小さい頃としか言いようが無い。黒子は出会った時から体が弱くほとんど外で遊んだことの無いような子だった。一方僕はその時から才覚を示していて、周りから神童として褒め讃えられるような子だった。僕達の出会いはお互いの両親がたまたま知り合い、ただそれだけ。僕の両親には神童として扱われる子供を普通の子供にしたいという思惑があったのだが、当時の僕には知る由も無い。外でほとんど遊んだことのない黒子と、普通の子供と遊ばない僕には通じ合うものがあったのか、僕達は出会ってから会うことが多くなった。黒子自身が礼儀正しい子だったからか風当たりも良く、僕の家も黒子に対して悪い印象を持っていなかったことが大きな要因だろう。

そんな黒子が病持ちだと分かったのが、ちょうど小学四年生のことだった。


「ごめんなさい、もう会えないんです」

入院が決まった黒子は僕にそう話した。黒子は大きな病院に行かなければならなかったため、引っ越しが決まっていたのだ。そこまで遠い地ではない、しかし小学生の足では厳しい場所だった。

「………分かった。でも連絡くらいはしても良い?」

携帯を持てる歳では無いので個人ツールは持てない。それでも離れた黒子と繋がれる手段があることは意味が大きかった。

その後は惰性でとにかく小学校を卒業した。早く中学校に進学して行動の幅を広げたかったのだ。そのために僕は公立ではなく私立へ進学した。帝光中と言えば文武両道を目指す良い学校として知られている。両親もその名前に魅せられたからかすぐに許可してくれた。


中学に上がる前に黒子の部屋を訪れた際に、黒子は僕に約束を持ちかける。それが結果として僕をバスケへ誘うものとなった。

「赤司くん、僕と約束をしましょう」

「良いよ。テツナとの約束なら守るから」

「まるで僕以外だと守らないみたいですね」

「失礼だな、それで約束って?」

「お医者さんに言われたんですが、退院はあと三年は無理だろうって。だから僕が中学に通うことは絶望的です。だからこそ、必ず高校には進学したいと思ってます」

「それで僕は何をすればいいんだい?」

「三年間、僕は輝く赤司くんを見たいです。君が輝く姿を糧にして僕は生きる」

「………それは素晴らしい約束だ、輝くだなんて難しい表現使って」

「一番になるだと君は勉強しかしないでしょう?一番になることは輝くことと同義じゃない」

「だからこそ……か」

「君は僕のために輝いて下さい。僕は君との未来のために三年間頑張りますから」

「いいよ、約束だ」

交わした指は決して切れないと、その時僕は思っていた。指切りは悠久を示すものだと、そう思っていたからだ。黒子との繋がりは消えないと信じきっていた。

そのあとはバスケ部に入り栄光の三連覇を狙おうと画作した。この歳は後にキセキの世代と呼ばれる天才が集まった年だ。僕以外にも一年でレギュラーになれる素質がある者はたくさんいた。

「良いですねバスケ、とっても楽しそうです」

黒子が手にしているのはバスケ雑誌だ。僕がバスケを始めてから黒子はバスケを勉強するようになった。バスケの話をすると必然的に専門語を使ってしまうため、それを理解してきちんと返したいかららしい。可愛らしい理由に心が暖まったのは今でも覚えている。

「………僕も頑張らなきゃですね」

最近は調子が良いみたいだが、やはり退院には程遠いみたいだ。黒子の痛みが理解出来ない僕は、ただ黒子の手を握るしか無かった。そして二年の月日が経ち、帝光中は三連覇を成し遂げた。三年に上がった時点でバスケが輝いていたかは分からない。それでも三連覇という形だけは残した。そして黒子の容態が急激に悪化したのもその時くらいからだった。



「赤司くん、明日が来るのが怖いんです」

繋がれた点滴、口を覆っている酸素マスク、それらが複雑な機械に繋がれている。今では外に出ることも叶わなくなってしまった。どうしてこうなったのか、僕には全く分からない。ただその時の黒子の表情が目に焼き付いて離れなかった。

震えている黒子の手を取る。少し前と比べて明らかに冷たくなった手は、まるで彼女が消えることを予期しているようだった。しかしそんな最悪を考えたくはない。

「僕達、あとどれくらいこうしていられるんでしょうか………」

止めてくれ、頼むからそんなこと言わないでくれ、と心が叫ぶ。しかし言葉が出てこない、まるで喋り方を忘れてしまったみたいだ。だからなのか、僕はただ黒子をそっと抱きしめた。


次の日に病院に行けば、なぜかその階が騒がしかった。嫌な予感が脳内で警鐘を鳴らす。理性より先に本能が僕の足を動かした。目指すのは愛しいあの子が暮らす部屋だ。

そして目にした光景は、彼女の病室を慌ただしく出入りする医師と看護士、そしてそれを狼狽した様子で見る黒子の両親だった。誰がどう見ても分かる現状に、先程まで動いていた足が停止する。確かめなければならないのに体が動かない。いや、動かないのは心か。

病室に入ればそこには複雑な指示を飛ばす医師がいた。看護士達が機械を操作している。ドラマのような様子に僕は逃げ出したくなった。此処で見たことは夢なんだと、そう思いたかったのだ。

「赤司……くん」

それが声だったのか、唇の動きだったのかは分からない。しかし視界がそれを捉えた時、僕は誰かに背中を押されたように駆け出しベッドに近寄った。医師達が離れるよう声を掛ける。しかし黒子が何か話そうとしているのに気づいたからか、それ以上は何も言わなかった。

「赤司くん……ごめんなさい。君との約束……守れそうに…ありませんね……」

「テツナ?」

苦しそうな掠れた声で告げた言葉が脳内で反芻される。そして同時に何かが込み上げて瞳を濡らした。


そして次の日に、僕は急に病院に行きたくなった。理由を聞かれても答えられない、ただ"呼ばれた"ような気がしたのだ。午後の授業はまだある。それでも僕は荷物を纏めて急いで病院へ向かった。

昼間だからか病室には誰もいなかった。ただすやすやと眠る黒子がいるだけ。しかし僕にはそれが終わりを待つ人間にしか見えなかった。

「テツナ……」

そう言って手を握る。眠りが深いからか、黒子は何かしても覚めたことは無い。しかしその時だけ、ぎゅっと黒子は握り返してきた。その行動に僕は目を見開いて驚く。そして同時に悟ってしまった。

(あぁ、これが最期だったんだな)

窓を見れば雲一つ無い青空が広がっている。どうして空は青いんだろうと、そんなことを考えてしまった。窓から小さな葉っぱが舞い降りて、握った黒子の手の上に落ちる。同時に僕の頬を何かが伝っていった。

君は僕の気持ちを理解してくれていただろうか。そう問い掛けて何だが、僕は君の気持ちをきっと半分も理解出来ていなかったと思う。ただ僕にとって君は至上で最も大切な存在だ。それはきっとこれから先も変わらない。そして僕はこれから君に酷いことを言う。しかしこれが僕の思いで気持ちだ。

僕は君が笑ってくれればそれだけで良かった。一緒の学校に通えなくても、同じコートに立てなくても、僕は君がただ笑って、僕の名前を呼んでくれるだけで良かったんだ。


だからもう一度、君の優しい声で"赤司くん"と呼んでくれないだろうか。君はいつまでも僕の中で生き続ける。




リマインダー・アナザー解釈

これから先は正しい解釈ではなく私的にこの話用に解釈したものです。
同時に僕の頬を〜からの続きからとしてお読み下さい。




「赤司くん」

黒子の両親が縋るような目で僕を見る。これは後から聞いた話だが、僕が会いに行った直前の検診では一時的に回復していたらしい。それに気を緩めてしまった黒子の両親は少しの間とはいえ離れてしまった。娘の死に目に立ち会えなかった、それが両親の心を苛んでいた。

「テツナに頼まれたの。自分に何かあったら渡して欲しいって」

渡されたのは白い封筒。宛名が僕ということは手紙だ。所々字が震えている、きっと最近書かれたものなのだろう。

「拝見します」

封を切って中身に目を通した瞬間、僕の体内を電流が駆け巡った。

「赤司くん!?」

気がつけば僕は走っていた。目的地などは無い、ただ走っていたかったのだ。しかし無意識なのか、ふと我にかえればそこは屋上だった。

「どうして……どうして君は最後まで僕を揺らすんだろうね」

屋上から見た景色は、以前二人で見た時と変わっていなかった。それが心を刔る。僕はもう一度、その手紙に目を通した。


「赤司くんへ 長い文章は書けそうに無いので手短にしますね。君は僕が消えたらきっと泣くんでしょう。泣いてくれなきゃ困ります。でもずっと泣いてたらもっと困ります。僕は君に笑っていて欲しいから。だからお願いします、ずっと笑っていて下さい。ねぇ赤司くん、僕の声は届いていますか?」


強く風が吹いた。赤司くん、そう風が呟いたように聞こえた。

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