深夜と呼べるような闇の中、人工的な光がリビングを照らし人影を作っていた。同居人である保護者二人と姉(仮)は現在夢の中である。もう一人の同居人の白い彼は部屋に篭っていて何をしているのか分からない。一人静かに過ごせることがこの家ではある意味貴重なことなので、番外個体はこの時を存分に楽しんでいた。

(うわー深夜ドラマとか規制緩め放題じゃん。特に海外ドラマとか最高)

番外個体は現在15歳から17歳程の年齢という設定になっている。当然中身―――精神や思考もそれ相応な訳だ。一般的な人が通る性への興味がふつふつと沸き上がる。しかし日本の放送番組はモラルを気にしているのか、番外個体が観たいようなものはなかなか放送していない。そんな状況だからか、番外個体は深夜海外ドラマを観るのが趣味だった。日本語に吹き替えがなされていなくてもネットワークがあるので問題は無い。

「お前………それは引くわ……」

「一方通行!?」

深夜だが大きな声が出てしまった。いや、そんなことより目の前の人間だ。寝ているか確認はしなかったが、まさかリビングに来るとは思わなかった。

「なんで……」

「あァー喉渇いただけだけど。にしても深夜にエロドラマとか、お前何歳だよ」

「エロドラマとか言う一方通行もどうかと思うけど。………まぁ恥ずかしい姿晒したミサカに弁解の余地は無いけどね」

音量は下げるが電源は落とさない。番外個体の行動に一方通行は一瞬眉をひそめただけで何も言わなかった。一方通行にとって番外個体が何の番組を観ようと関係はない。ただその手のものとは思っていなかっただけだ。これが打ち止めなら急いで引き剥がすが番外個体相手ならする必要は無いだろう。しかしこうして咎めたにも関わらず観続けるというのはいただけない。

「一方通行はさぁ、こういうの興味あるの?」

「どォでもいい」

「健全な男子にあるまじき発言だねぇ。本当に男?もしかして女なんじゃない?」

「五月蝿ェよ。男だって何度言えば分かるンだよお前は」

「じゃあ一緒にドラマ観ようよ。欲情する一方通行を隣で見ていてあげる」

聞く耳持たずといった反応で強引に一方通行を隣に座らせる。振り払うことも出来たがそれはそれで面倒なので、一方通行は渋々番外個体の隣に座った。テレビの中では相変わらず男女が絡み合っている。番外個体の言う通り健全な男ならば本能が揺さ振られるのだろう。しかし様々なものを反射し続けた一方通行はホルモンバランスというものが欠如していた。だからか、こういうものを観ても体が全く反応しない。男としては駄目なのだろうが、反応しないものは反応しないのである。

「ねぇ一方通行、キスって普通唇にするよね。なんでこの男手の甲にしかしないの?」

「あァ?まァ見た感じ従者と主人だろ。だから愛情よりも尊敬の念に近いンじゃねェの」

「尊敬?」

「ネットワークでキスの格言って調べてみろ。そしたら分かンだろ」

「……ネットワークじゃ嫌、一方通行が教えてよ」

悪女のような笑みを浮かべて番外個体は一方通行に擦り寄る。ネットワークなんて無機質なものではなく、言葉という温かみのあるもので、番外個体は教えて欲しかった。一方通行は少し苛ついた表情を見せたがすぐに隠し、それでも面倒臭さは隠さずに言葉を紡ぎ始める。

「確かオーストリアの劇作家が由来だっだな。ソイツの『接吻』の中で手の上なら尊敬、額の上なら友情、唇の上なら愛情……みたいにキスの格言ってやつを使ったンだよ。それが色々派生して、今は愛情の種類として分かりやすく使われてる。まァこんなもンだろ」

「ふぅん。ロマンチック……なのかねぇ」

キスをした場所で愛情の種類が分かるなんて効率的だなと、番外個体の思考はとても冷静だっだ。それは番外個体が恋愛とは無関係な場所で育ってきたからかもしれない。キスの格言だなんて情報を詰め込む余裕があるなら効率的に人を殺す術を詰め込まれる、番外個体が育ってきた環境とはそういうところだ。

(……ってかキスの格言ってたくさんあんじゃん。モヤシの奴面倒臭くて一部しか教えなかったな)

結局の手段として脳内ウィキペディアを使えば、キスの格言の全てがヒットした。グリルパルツァー自身の手によるものは少ないが、その後聖書などを参考に様々作られたようだ。本家ではないが本家同様に羅列されているあたり、現代にかなり効力を持っているようである。

「……一方通行」

「あァ、どうした……って何すンだよ」

一方通行が耳を押さえれば番外個体はにやりと笑って自分の唇を舐めた。冷たいと思っていた一方通行の耳は予想以上に温かく、番外個体にはそれが少し驚きだった。

「……番外個体?」

「分からない……訳じゃないんでしょ?自分で自分に検索かけたら?」

一方通行がキスの格言を知っているのならば、恐らく派生も知っている筈だ。だから番外個体の行動の意味もきっと分かっているだろう。それを敢えて口に出さないのは恥ずかしいからだろうか。だとしたら滑稽であると番外個体は内心で嗤った。

「それじゃおやすみ〜。テレビよろしくね」

「お前は本当に好き放題やっていくな」

「ミサカはそういう生き物だから」

手をひらりと振って部屋に帰る。正直顔を赤らめるとか挙動不審な態度をとるとか、そういう反応が番外個体は欲しかった。しかし一方通行が要塞なみの防御力を誇ることは今さらの話なので仕方ないだろう。

「……ってか予想外、やられた方よりやった方が恥ずかしいかも」

普段の体温が低いからか、番外個体は自身の熱に動転する。電気をつけて鏡を見れば分かるのだろうが、そんな勇気は番外個体には無かった。

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