大門カイトと井藤ノノハ、二人の関係性を一言で表すとしたらそれは幼なじみというやつだろう。幼い頃から一緒にいる二人は登下校も一緒していて、高校生になってもまだ同じ。端から見たら付き合っているという認識になるかもしれないが、二人が幼なじみだと断言しているためそれ以上の邪推は憚られた。二人の周りにいる人達に二人をからかう趣味も無い。
そんないつも通りの日常の中、二人にとある転機が訪れた。カイトが同級生に告白されたのだ。その女の子はカイトと同じくパズルの好きな子で、パズルを解くカイトの姿に惚れたらしい。高校一年生ともなれば恋愛事に関心や期待をもつのは当然で、例に漏れずカイトもその一人だった。一方ノノハはカイトの恋を応援する姿勢で、極力カイトと過ごす時間を減らそうと努力している。ただカイトを起こす役目は部屋の関係上ノノハの仕事なので、それだけはノノハがしていた。
カイトが付き合いだして数日経ち、カイトは次第に何か不調を感じつつあった。何かと言われても言葉で形容出来ない、そんな不確かなものだ。しかしそれはどんどん大きくなっていき、相手がカイトの不調を感じるくらいまで肥大した。そこまで大きくなっていながら原因が分からないとは、もう鈍感を通り越して違う領域の問題になっている。そしてその原因を突き詰めたのは不思議というか何故か隣にいる男子だった。
「井藤さんがいないからじゃねぇの?」
きっと彼は何気なく言っただけなのだろう。もしくは彼女がいる癖に黒々とした雰囲気をもつカイトへちょっとした皮肉かもしれない。どちらにせよ彼は自分が言った言葉の意味や重みを正しくは理解していなかったに違いなかった。そしてカイトは彼の言葉を聞いて、胸に溜まっていた何かが消えていくのを感じとったのだ。すとんと胸に落ちるという言葉の偉大さを初めて感じた瞬間だった。
「別れてくれないかな」
そう切り出したのは、隣の男子との会話の次の日だった。
「あんまり長く続かなかったね〜」
「まぁな。合わないって思ったら終わりなんだろ」
「良い子だったんだけどね……」
とあるファミレスにて、ノノハはケーキセットを注文して嬉しそうに頬張っている。付き合っていた間色々と気にかけてくれたのに無下にしてしまったお詫びとして、カイトの奢りであるため機嫌が良いのだ。ファミレスだが味がとても良い、故にノノハはこのファミレスを気に入っていた。
「まぁ今回付き合ってみて色々分かった」
「カイトは女心を理解してないからね〜」
「うるせぇ」
頼んだコーヒーに口をつけてノノハを見る。嬉しそうに食べるノノハを見ているとカイトも嬉しくなってきた。こういう感覚は付き合っていた時無かった。それが答えなのだろう。
「大切なものが何なのか、再認識出来たよ」
「?」
「いや、こっちの話」
今はまだ気づかれなくて良い、この先ゆっくり進めていけば良い。そうカイトは思っていた。しかしこの先に出会う人々によってその認識は改まる。事態はそんなにゆっくりしていられないようだ。