彼らが施設に預けられたのは、今から五年程前のことだった。同じ事故で親を亡くした幼い子供達は引き取られる宛ても無く、中学を卒業するまで施設で育てられる。そういう複雑な状況で育ったからか、彼らは子供らしい可愛さよりも賢さを求めた。自分達は荒波に放り出された無力な存在だと、それを自覚して乗り越えるために。自分達が頼れるのは同じ境遇に生きる自分達のみだ。

そんな彼らに転機が訪れたのは、事故があった日と同じ雨の日だった。


「閉鎖、ですか」

「今まで寄附してくれていた団体さんからの援助が無くなってしまってね。もうこのお家は閉めなければならないの」

「僕たち子供達はどうなるんですか?」

「違う施設に行くか里親を見つけようと思ってるわ」

施設長は顔が利く人間だったからか、引き取り手は何とか出てきた。しかし五人を引き取ると名乗る者はいなかった。理由は簡単、五人が一つの場所に行きたいと主張したからだ。他の子供達はみな一人一人別の場所へ行った。だから比較的早くに決まったのだ。しかし五人は絶対に離れたくないと、それを全面に押し出した。当然受け入れられる筈もない。

「分かってちょうだい。五人一緒は無理なのよ」

「俺達はそれ以外じゃ動かないっスよ」

「頼むから……もうあなたたちだけなの」

「俺達の意志は変わらないのだよ」

「離れるなんて考えられるわけないだろ」

まだ十歳なのに威圧感は一人前で、施設員も困り果てていた。彼らが決まらない限り施設は閉められない。大人の事情ということもあり、それはとても困ることなのだ。

「僕らの意志は変わらないよ」

五人が五人であろうとする力は尋常ではない。同じ日に同じ場所で親を失った気持ちは誰にも理解できないからだろう。故に五人はひどく連帯意識が高い。

「ごめんください、誰かいますか?」

こんな雨の日に来訪者など珍しいことだ。しかもこの施設は既に閉鎖が決められている。そんな施設に用など普通は無いだろう。

「あれ?もしかしてテツナちゃん?」

「はい、お久しぶりです」

来訪者はこの施設出身の黒子テツナだった。里親が見つかり今はそちらで住んでいる。今年で高校一年生だ。

「お邪魔してもいいですか?」

「あっ、でも今は…」

「閉鎖の話は聞いてます。それから引き取り先が見つからない五人のことも」

濡れた傘を傘立てに立てて、黒子は五人がいるプレイルームに向かった。施設出身とだけあって部屋の間取りは覚えている。壁に貼ってあるものなどは変わっていたが、物の配置などは変わっていない。目指した部屋で仲良く固まって座っている五人の前で黒子は膝をついて座り、感情の起伏が分かり辛い無表情な顔で笑った。

「僕のところへ来ませんか?もちろん五人一緒に」

そう黒子が告げた瞬間、五人の体に電流が走ったかのような感覚が巡った。



施設員に事情を話すため黒子は一度五人の元を離れた。途端に緩まった空気で青峰は赤司に意見を求める。

「今の、ホントだと思うか?」

「どうみても今の人高校生っスよね」

「俺達五人を引き取ろうなど無謀だと思うのだよ」

「でもふわふわした人だったね〜」

「冷やかし……では無いんだろうな」

たった一言しか彼女は発しなかったが、あれが嘘や思慮の無い思いつきだとは思えない。彼女の中にある誠実さを赤司は感じ取っていた。しかし高校生に五人引き取れるのかという疑問は残る。

「とにかく話を聞こう。全てはそこからだ」

しばらくしたら戻ってくるだろう彼女を待つ間、赤司はとりあえず情報を整理しようと頭を働かせた。



「まずは自己紹介からですね。僕は黒子テツナ、君達と同じこの施設の出身です。君達が入ってきた五年前に入れ違いで此処を出ました。今までは里親と暮らしていたんですが、その方が先日亡くなってしまって。元々がかなり広い家なので君達を引き取る余裕はあります。私は養子の手続きをしていてその方の遺産も全て引き継ぎました。この施設にはとても恩がありますから、僕は協力を惜しみません」

長々とした自己紹介をした後に頭をぺこりと下げた。まるで五人のためと言わんばかりの環境に、赤司は夢じゃないかと疑った。五人一緒がどれほど難しいかは赤司自身もちろん知っている。それをひたすら主張し続けたのはもう一種の意地に近い。駄々をこねている自覚はあった。それでも不条理な世の中に対抗したくなったのだ。

「僕の方はいつでも受け入れは大丈夫です。あとは君達が決めることですよ」

黒子の提案に一番始めに乗ったのは紫原だった。ほぼ即答に近い形で紫原は黒子の意見に同意する。紫原としては五人一緒ならばどこでも良かった。なにせ紫原の世界は五人で完結していたのだから。

続いて青峰と黄瀬も黒子の案に同意を示した。この先五人一緒という条件が呑まれることはないと直感したからだ。世界はそこまで上手くは出来ていない。緑間も少ししてから案に同意し、残るは赤司のみになった。五人のリーダーとも言える赤司がノーと言えば五人は蹴るだろう。それほどまでに赤司の影響力は強い。

「どうしますか?」

「―――たとえこの施設に恩があるとしても、それが僕達を引き取るということに結びつくんですか?」

「はい」

「あなたは五人引き取るということを正しく理解しているんですか?」

「―――君は頭が良いですよね。じゃあ僕から言いましょうか。五人一緒だなんてほとんど無理な条件を提案して、君達はただ現状を維持する道を選んだ。それは逃げであって解決策では全く無い。それに君の意見は四人に色濃く影響を与えるみたいですね。君が彼らを縛ることで彼らの道を閉ざしていることに気づいていないんですか?」

まくし立てられた言葉に赤司は呆然とした。確かに赤司の言葉は影響を与える。しかしそれが縛るものだとは認識していなかった。みんな自分の言うことを聞いてくれる程度にしか考えていなかったのだ。当時の赤司はまだ幼すぎた。

「そんなこと――初めて言われたよ」

「………そうですか。じゃあこれからは色々言ってあげますね」

皮肉ではない純粋な言葉に、赤司は素直に感動した。どの大人も子供の赤司にどこか畏縮した態度を見せる。それが赤司にとって当たり前であったが、同時に苦しみでもあったのだ。でも黒子は違う、赤司を子供として扱ってくれる。畏縮したりせず年相応の子供として見てくれた。

「―――よろしくお願いします」

そう言って伸ばされた手を取れば、無表情の顔が少し綻んだ。その姿に赤司は心を打たれ、それは後日初恋だと発覚したのだった。


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以前言ったパロディを書いてみました。
このあとみんなの恋自覚編があったりするんだねきっと。
そして黒子ちゃん争奪戦の勃発です。
そんな話を誰か書いてくれないかな?
五人が成長期に入って黒子ちゃんをそういう目で見ちゃうみたいなエピソード下さい。
こう……若さ故の過ちみたいな(笑)

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