グループやアイテム、スクールといった裏組織が一時期にでも解散されてから、一方通行は所謂"家族サービス"とやらをするはめになっていた。黄泉川家で唯一の男手であるため買い物関連は任されたり、打ち止めが一方通行に懐いているので子守を頼まれたり、まだ番外個体は学園都市に慣れていないので付き添いを頼まれたりと、帰還してからの一方通行の生活は著しく忙しい。しかし長い間打ち止め達を離していた負い目は中々消えるものでは無かった為甘んじて受け入れる。

そんな中やけにアイテム連中とつるむようになっていた。元々ロシアで浜面と滝壺と面識が出来ていたからなのか。それともやたら打ち止めが麦野に懐いたからなのか。ただ一方通行と麦野沈利は立場上あまり仲良くならない。以前のような無駄なプライドは無いが、如何せん馬が合わないというやつだ。しかし今までの二人を知る者から見たら、関係は確実に良い方向に向かっていた。



「あっ、超こんにちはですね」

「超こンにちはって日本語としてどォなンだよ」

「私の超アイデンティティですから良いんです」

暗闇の五月計画の関係からか、やたら絹旗は一方通行に懐いている。しかし立場の違いはきちんと理解しているのか、彼女の踏み込む位置は一線引いた場所だ。番外個体のようにわざと踏み込んで来たりしないので、一方通行にとっても気が楽だった。

「あっ、そうだ!実はですね―――」

「抜け駆けだなんて悪い子だねぇ、絹旗ちゃん」

一方通行の背後から抱き着いて、乱入者―――黒夜はにやりと笑った。ちなみに今、全体重を一方通行に掛けている形なので、一方通行としてはかなり重い。軽くおんぶ状態の黒夜に対して、絹旗は少し憤慨したような口調で責め立てた。

「何をしているんですか!?今すぐその人から超離れて下さいっ!!」

「別にお前のじゃねぇし。五月蝿い女は嫌われるぞ」

「五月蝿い女ってなんですか!とにかく離れて!」

一方通行を真ん中に二人が押し問答を繰り広げる。絹旗は自制心が強いからなのか滅多に無いが、黒夜はある意味衝動の塊みたいなものなので、如何せんスイッチが入りやすい。街中で暴れてはいけませんという風紀委員のポスターを視界に入れていながら、手からは窒素爆槍いつでも発動状態だ。幸いというべきか人通りは少ないがこんな街中で発動すれば確実に被害が出る。

「いい加減にしないと私の能力が超発動しますよ…」

お前もかと思わず心の中で言ってしまった一方通行は悪くない。悪いのは場所もわきまえずに喧嘩を始めようとする二人である。しかもお互いレベル4とだけあって本気を出せば生半可なことは言えない。仕方ないというように一方通行は空いていた手で黒夜の頭を撫でた。

「お前ら双子は少し黙ってろ」

「「双子!?」」

「ギャーギャーうるせェンだよ。こンな所で能力なンざ発動してみろ。それこそ笑えねェことになる」

ギロリと赤い目が二人を睨みつける。普段から戦闘慣れしているからか睨みつけられることに恐れは無いが、一方通行から睨みつけられたという事実が二人を硬直させた。しかし―――

「ンじゃ双子の喧嘩、お兄様に止めてもらおうじゃン」

一方通行の背中から飛び降りて黒夜は右手を前に突き出す。これで窒素を集めて射殺してしまえば窒素爆槍の能力だ。そして絹旗も同じく窒素を集めて窒素装甲で最大防御をするだろう。二人の間に一方通行が入る形になるが、この程度で死ぬとは二人とも思っていない。

「はァい絹旗ちゃン、死んでくれ――る?」

右手に窒素を集めている筈なのに、黒夜の手からは槍が形成されない。形成されないどころか窒素が集まる感触すら無かった。それは絹旗も同じのようで、窒素装甲を上手く発動出来ていない。初めて見る能力の不調に、二人は自然と一方通行を見た。

「喧嘩、止めて欲しかったンだろ?とりあえず能力切れ。同じ口調とか聞いてて苛立つンだよ」

「あっ、はい……」

能力の発動を阻止されているのに使おうとすることは無意味だ。黒夜も同じく思っているようで、二人は能力停止の証として構えていた腕を下ろした。一方通行の眉は顰られたままだが戦意の無さは感じたらしい。全身から出していた気を少し緩めた。

「お前らはどォして会ったら喧嘩なンだよ」

「「だって……」」

「言い訳すンなら麦野呼ぶぞ」

その台詞に二人は黙り込んだ。麦野は絹旗にとっては元リーダーにあたる。年齢的にも立場的にも麦野から絹旗は色々と躾られていた。躾といっても麦野に迷惑を掛けるようなことをしたらシバくという可愛いものだ。しかし以前迷惑を掛けてしまった際にされたことが、絹旗の中に大きな傷を作り、今では麦野に迷惑を掛けるということ自体にトラウマ意識を持っていた。その時たまたま黒夜も同席しており、二人して仕置きを受けた記憶はまだ浅くない。

「ンじゃ分かったらとっととお前ら帰れ。ついでに買い物行ってこい」

「ちょっと!なんですかその超パシリ的扱いは!」

「コイツと買物とかありえねぇ……」

「……お菓子は一つまでだからな」

「仕方ないですね。ほら黒夜超行きますよ」

「ハーゲンダッツ買ってやるからな!!」

いがみ合いながらも、結局はお菓子に吊られて二人はお使いに行った。ちなみにこの買い物は一方通行が黄泉川から頼まれたものである。そんなに重くは無いのだが杖をついている身にとって、簡単な動作ですら面倒になっていた。体よく言えば彼女の言う通りパシリだが、御駄賃をあげている以上問題無い。

「で、いつまで見てンだよお前らは」

「一方通行が年下少女と手でも繋いで買い物行かないか期待してたんだけどな〜」

「浮気は許さないんだからねっ!ってミサカはミサカは奥様みたいなことを言ってみたり」

「一人は違うがうちのガキが世話になったみたいだな」

番外個体と打ち止めと麦野が先程から居たことに一方通行は始めから気づいていた。しかし特に害は無いため放っておいたのだ。一方通行ら三人の会話をアフレコしたりしていたのだが、バレたら処刑なので言わない。

「兄とか目茶苦茶笑えるんだけど。保護者からお兄ちゃんデビューかよ」

「保護者の方が上だよね?ってミサカはミサカは確認してみる」

「お前ら二人は一度黙っとけ。あと麦野、あいつらそろそろ戻ってくるから何処か行け」

「おいおい扱いが悪いな。このガキ二人を今まで面倒見てたんだ。私にもアイス奢れよ」

「あのねっ、麦野は道に迷ってたミサカと番外個体に道案内してくれたんだよっ!ってミサカはミサカは麦野を庇うような発言をしてみたり」

「まぁ本当だから何も言わないけど」

「お前ら本当に方向音痴だな」

呆れたような目で二人を見れば少し萎縮したような態度を見せる。この二人は方向音痴の前科をかなりもっているので、一方通行の発言を否定出来ないのだ。普段は反撃する番外個体も黙ってしまった。

「そういやさっきの何だ?ガキ二人の能力無効化したみたいだったけど」

「別に大したことじゃねェよ。ただあの二人の演算領域の窒素を能力変換出来ねェように、俺の能力で一時的に操作しただけだ」

「操作しただけ、ねぇ………」

含みをもった言い方をする麦野に、一方通行は一瞬眉をひそめた。特に悪意のある言い方ではないのだが、何かしら言いたいことがそこにあるわけで。それを主張していながら自分からは言わない麦野の行動は、一方通行にとって少し勘に障るものがあった。

「んじゃこの二人は任せたから」

突然の言葉に二人とはどの二人か疑問が浮かぶが、すぐにミサカシリーズの二人だと認識する。分かったと返せば麦野はただ笑ってその場を去った。窒素の双子を回収する気は無いようだ。

「………お前らにも何か買ってやる」

「えっ本当!?ってミサカはミサカは素直に驚いてみたり」

「保護者の奢り、最高だねぇ」

結局スーパーに行く羽目になったが、まぁ良いかと少し譲歩した気分になる。スーパーの中で窒素の二人が暴れているのを見て頭を悩ませることになるのだが、それはまた別の話である。

+++

(にしても、操作しただけねぇ……)

適当に街を歩きながら、先程の一方通行の言葉を脳内で反芻させる。ミサカシリーズの二人は何とも思わなかったが、麦野はその言葉に少し恐怖を覚えた。絹旗と黒夜はレベル4とだけあって、かなり強い部類に入る。レベルが高くなる程演算式が高度になるのは言うまでもないだろう。その二人の演算式を相手に一方通行は制圧ではなく無力化を行った。それは一方通行の脳内で絹旗と黒夜の演算式を理解した上で、同時に無力化するための演算を行ったということだ。言葉にすれば大したことが無いかもしれないが、実行することは恐らく不可能に近い。それこそ垣根帝督では出来ないだろう。

(うちの絹旗が崇拝レベルで見てるのが何となく分かるのが癪だな)

今の一方通行に害的な要素は無い。しかし申し訳無いが絹旗にとって一方通行は存在自体がほぼ害だと、麦野は少し遠い場所からそう分析している。黒夜にとってもなのだが、彼女は感情を表に出している辺りまだ大丈夫だ。一方活気的そうに見える絹旗だが内側に溜め込む気質がどうもある。

「おい麦野!!」

名を呼ばれて振り返れば、そこには一方通行がいた。麦野を追ってきたのか少し息が上がっている。似合わない汗を少し浮かべて、一方通行は手に持っていた袋を麦野の方へ投げた。

「礼だ、受け取っておけ」

袋の中にはハーゲンダッツが入っていた。軽いノリでねだったのだが、どうやら良い方に転じたらしい。先程まで何やら暗いことを考えていたが、ミルクキャラメル味は全てを塗り替えていった。

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