※捏造しすぎていてどうしようもないです。誠凜扱いが酷いかもですがキセキ主体だとどうもこうなってしまう。うちのキセキは最強なんです!それでも良ければどうぞ。
「あっ、お疲れっス」
誠凜との試合が終わり帰宅準備を進めている中、控え室廊下で黄瀬は青峰を待っていた。かつて青峰に負けた身として会うのは苦々しい思いもあったのだが、なんとなくそれらは昇華していて。旧友として再び仲を戻したいと思う程にまで思っていた。
「あぁ黄瀬か。わざわざ待ち伏せだなんてどうしたんだよ」
「いやー俺を負かした青峰っちが負けた様子を見に来ただけっスよ」
茶化したような口ぶりだが本意ではない。本来の用件を隠しながら黄瀬は話している。もちろん青峰はそれに気づいていたので、咎める気にはならなかった。
「桐皇さんには悪いけど、青峰っちちょっと借りますね」
それだけ言って黄瀬は青峰を連れて何処かへ行ってしまった。
「にしても見事な試合だったっスね」
自販機でアクエリアスを買って青峰に投げる。それをだるそうに青峰は受け取った。しかしキャップを開けて少し飲んだだけだ。あれだけの激戦の後の様子には見えない。
「観客席、熱気に溢れてて………虚しくなったのは俺だけスかね」
「少なくとも俺らはみんなそうだろ」
誠凜という新設校が桐皇を破った、これは偉大な功績だ。誰もが予想していなかったに違いない。―――そう、キセキの世代以外は。
「あとは紫っちだけ。こう見ると長かったなぁ」
「お前とは公式戦じゃ無かったしな」
「海常が秀徳より前に試合するには練習試合しか無いんスよ」
二人の会話は成り立っているがどこかおかしい。まるで"誠凜が勝つことが当たり前"のような言い方だった。
「黒子っちが気づいたらどう思うのかな……」
「それこそ決別じゃねぇの?特に俺なんか派手にやらかしたからな」
いつも通りの青峰に黄瀬は呆れ半分感動半分だった。まるで今までの激戦が嘘みたいだ。息は既に元に戻っていて、負けた人間のもつ独特な空気はない。勝者のような振る舞いをする青峰だが、確かに今回の試合青峰は勝者だった。
―――なぜなら今までのキセキの世代との試合は全てシナリオ通りなのだから。
赤司から黒子が誠凜に行ったという話を聞いて、四人は激情に駆られた。黒子が影として虚しさを感じていたことを五人は知っている。同時に全中後姿を消すだろうと予想もしていた。しかし卒業後新設校に行くとは思っていなかったのだ。キセキの世代と同じ道を進まなくても、才能を生かす道を選ぶと思っていた。バスケから離れるという選択肢は毛頭ない。
だから四人は赤司が提示した案に簡単に乗った。影が離れるなら捕まえに行けば良い。独裁的判断だとは思うが、五人の中に否定の意は無かった。
勝ち上がって、勝ち上がっていく影を最後に突き落とす。お前が一年かけてしてきたことは無駄だったのだと思い知らす。それこそ、もう一度立ち向かおうなどと思わせないくらいに。故に順番が必要だった。誠凜がいきなり青峰なんかと当たれば失敗である。
まずは年季の浅い黄瀬から戦っていき誠凜に自信をもたせる。誠凜に自信をもたせることは、影に自信をもたせることと同義だ。キセキの世代は遠い存在ではない、努力すれば倒せる存在だと思い込ませることが出来る。それが目的で黄瀬は練習試合で負けた。元々モデルとして笑顔の練習など様々なことをしてきた彼にとって、涙を流すなど造作も無い。
「まぁ笠松先輩辺りは本気だったから、調整が結構大変だったんスよ〜」
「赤司も無茶言うぜ。そこが一番大変だっつうのにな」
黄瀬が言うように、負けたいと思っているのは黄瀬だけであり他は関係無い。故に点数の調整がとても大変なのだ。勝たないように、かと言ってわざとらしいのはNG。自然に僅差での負けに導くのは思っている以上に難しかった。それは青峰も同じで、今吉達に気づかれないように手を抜くのが鬼門だった。
「それに比べて緑間っちは上手かったっス」
「当然なのだよ。わざわざシミュレーションしてたのだから」
気がつけば緑間までもが集合している。紫原と赤司を抜いたキセキの世代が集まっていることになるのだが、奥まった場所だからか誰にも気づかれていなかった。
「中学時代にシュート体勢からのスティールはされたことがあるからな。あの場面でやると思うのは当然だろう?」
「………けどもし来なかったらどうする気だったんスか?」
「体勢に入るとき黒子がこちらに走る姿が見えた。試合終盤とだけあってミスディレクションも消えかかっていたしな」
「あの状態で結構考えてたんだな」
素直に青峰は感嘆の声を漏らした。黄瀬も同様だ。しかし緑間の中では些事でしかなく、ただ眼鏡のフレームを上げただけ。
「結局は、みんな黒子っちを信頼したプレーだったんスよね」
「中学時代から見てきてんだよ。高校からのアイツらよりテツのことを理解してんのは当たり前だろ」
「アイツは逆境に強い。最後まで粘るのは変わっていなかったしな」
黒子への賛辞をそれぞれ述べる。それらは中学時代からの信頼と呼べるものであり、同時に一種の執着心でもあった。黒子テツヤという人間を誰よりも理解しているのはキセキの世代である、という誇示心でもある。五人が五人もっているものだからか、誰もそれに関して異論などない。
「ただ問題点があんだよなぁ」
「青峰っち?」
「お前も緑間も、俺も誠凜と一ゴール差だろ?テツの奴勘が良いからそろそろ気づくかもな」
「えぇっ!?それは困るっスよ!!」
「わざとらしく負けるのは駄目だったからな、そうなるのは仕方ないだろう」
「それに俺ちょっとミスしてんだよ」
「ミス?」
「ゾーン入った時のジャンプが少し軽かった気がすんだよ……。踏み込みが足りなかったかもな」
「あのジャンプ以上に飛べるんスかあんた……」
「普通の尺度で測るな黄瀬。コイツが常識破りなのはいつもだろう」
「ゾーン入って手加減とか青峰っち大丈夫っスか?体痛めてたりとかは……」
「正直お前とやった時の方が疲れた」
「青峰の場合、慣れのせいか黒子の脅威はほとんど無い。それだけ余裕が生まれたんだろう」
「あっ、でもシュートの時に視線ずらされる奴は痛かったぜ」
「あれされたら俺もキツイっスわ……」
「あの技はシューターにとって厄介だ」
ガタンと勢いをつけて青峰がベンチから立ち上がる。長身である彼等が立っていると圧巻されるものがあるが、紫原慣れしている彼等には大したことは無い。
「じゃあ後は紫っちに任せますか」
「俺達の役目は終わったからな」
「紫原にラッキーアイテムでも送るか」
それぞれが一つの目標をもって違う道を進み出す。控え室で寝ている黒子はそれに気づいていない。だが光の侵食は音を立てずに近づいていた。