綺麗な音を立ててボールがネットを通る。ボールが高い軌道を描く緑間のシュートは今日も好調で、見る者を圧巻していた。普段から見慣れている青峰でさえも感嘆の声を漏らす程だ。黄瀬ですら真似出来ないこの技は緑間だけのもので、緑間が一軍選手として輝く最大の理由。それだけに念の入れようも大きい。外れそうなシュートは決して打たないし、手の調子が悪ければ練習にすら参加しないのだ。もちろん基礎練習の方には参加しなければならないが。
「やっぱり緑間っちのシュートカッコイイなぁ」
「そうですね、是非外すところがみたいです」
「黒子っち?」
「完璧なシュートが外れる機会なんて中々見れませんよ。だから見たいじゃないですか」
無表情ながらに黒子の目はわくわくしている。確かに緑間がシュートを外す場面など見たことはない。完璧を好む緑間のことだ、そんな場面二度と来ないかもしれないがそれでも見たい。
「簡単だよテツヤ」
立ち聞きしていた赤司が手を招いて黒子を呼ぶ。黒子は素直に赤司の元に行った。赤司が黒子の耳元で何か話し黒子は頷いている。黄瀬の場所までは流石に聞こえなかった。
「じゃあ黄瀬くん、行ってきます」
使命を課せられたかのように黒子は緑間の元へ向かう。それを赤司は笑って見ていた。
ボールが宙に放たれる。緑間はそのボールがネットを通るのを見ずに所定の位置に戻った。すると目の前に神出鬼没の黒子の姿があり、思わず身が引きそうになる。しかし彼がいきなり出てくることは日常的によくあるので精神でそれを制した。
「流石ですね緑間くん」
「俺のシュートは落ちない。当たり前だろう?」
部員からボールを渡される。今は緑間のシュート練習の時間なのでゴールを占領していた。構えに入り腰を落とす。視線はゴールに向け腕を振ろうとした。
「緑間くんってシュートしている姿カッコイイですよね」
黒子の急な言葉に緑間の体勢が崩れる。普段から無表情が代名詞の彼からこんな言葉が出るなんて、今日はきっと槍が降るに違いない。それほどまでに黒子の言葉は緑間に大きな影響を与えた。
「黒子!?」
「あっシュート外れましたね」
ガコンと鈍い音を立てリングに当たって落ちる。緑間がシュートを外したことに体育館内がざわついた。違うコートにいた紫原と青峰が驚いた顔で緑間を見ている。
「けど良いもの見れました。緑間くんでもシュート外すんですね」
それだけ言って黒子は立ち去ろうとする。しかし黒子が持ち前の影の薄さで消える前に、緑間は咄嗟に黒子の腕を掴んだ。
「どういうことだ黒子。はっきりと言え」
「赤司くんから言われまして。緑間くんのシュートを外す姿が見たいなら、意表をつけばいいんじゃないかって」
淡々と述べる黒子に緑間は怒り拳を振り下ろす。相手が青峰辺りなら容赦無いがそこは黒子、もちろん手加減済みである。しかしやはり痛かったようで、涙目になりながら黒子は緑間を睨んだ。
「痛いんですけど緑間くん……」
「どう見てもお前が悪いだろう。………第一カッコイイとか思っていないのに言うな」
そう言い一瞥すると緑間は練習に戻った。今の汚点は払拭しなければいけない。今が練習だから良いものの、試合中なら赤司から説教ものだ。ざわつく部員を自分の世界から消して再びシュート体勢に入る。成功する自分をイメージを浮かべ、それに自分の姿を重ねた。
「いえ、緑間くんがカッコイイとは常日頃から思ってますよ」
再びの爆弾にまたしても緑間のシュートは軌道から大きく逸れ、何故かボールを入れている籠に入った。
「そういえば緑間くん何度かシュート外してましたね……」
秀徳戦前の黒子の呟きに日向達は過剰に反応した。キセキの世代の弱点は是非知りたい情報である。
「それがどういう条件かは分からないんです。ただ意表をつくとしか……」
「意表をつく?」
「中学時代は練習中ですけど、緑間くんがシュートの構えに入った時に声掛けたりして失敗させてました」
「その時どんなこと言ったんだよ」
「思ったことを言っただけですよ。緑間くんのシュートカッコイイですねって。そしたら外す外すのオンパレードで……。どうして緑間くん顔を赤らめてたんですかね?」
(………黒子って天然タラシだな)