海常秀徳両チームを放り出して、黄瀬と緑間は向かい側コートの控え場所に行く。そこにはマネージャーである桃井がいた。手元にあるファイルには様々なデータが書いてあり、その姿は中学生の時以上に凛々しい。
「ちょ、二人共なんで此処に―――」
大きな声を出しかけた桃井を黄瀬が制す。賑わう体育館の中には響かなかったようで、変わった様子は無かった。そのことに二人は安堵してから桃井に向き直る。
「桃井っち、とても大切な話があるんス。青峰っちと紫原っちを、出来れば内密に集めて欲しいんスけど」
「二人を?――青峰君なら簡単だけど……」
「やっぱり紫原っちは難しいっスよね――」
「呼んだ?」
二人が顔を上げると目の前には紫原の姿が。二人共屈んだ体勢だったので(屈んでいなくても)自然と見下ろされている。不意打ちだったこともあり、黄瀬は「ひっ」と情けない声を出した。
「ムっくん!」
「桃ちんのところに二人がいたからね、何かキセキ絡みであったのかなって」
「紫原っちでなんだかんだで色々考えてるっス」
「で、何か用?」
桐皇のベンチにキセキの世代が三人揃うという異例の事態に、会場が少しざわつき始めた。たとえ黒子から見えない位置だとしても、反対側から見れば丸見えな訳で。キセキの世代がこそこそと、しかも二人はまだ試合中なのに、何か話していたら目を引くのは当然である。
「いや私も知らなくて……。あっ青峰君ちょっとこっち来て」
桃井に呼ばれ、けだるそうに青峰がベンチまで来る。その姿に桃井は無意識に目を反らしてしまった。それに三人は気づいたが何も言わない。
「なんだよ、ご丁寧に揃って」
「知らない。黄瀬ちん達が来ただけだもん」
「あ、えっと…その―」
「黄瀬急げ時間が無い」
タイマーを見れば残り時間が三分を切っている。そろそろ戻らないと流石にマズイ。なにせインターバル中に身勝手な行動をしている。呼び戻されないだけまだマシだ。
「十文字で、簡潔に言え」
「十文字!?青峰っち鬼畜すぎる」
「黄瀬!」
「あぁもう――、えっとスね………」
「黒子っちが来てるっス」
見事にきっちり十文字で言い切った黄瀬は褒められるべきだろう。しかし今、青峰と紫原の中では十文字なんてものは消え失せていた。黄瀬から告げられた内容だけが頭の中をこだましている。
「……黄瀬ちん、冗談きついよ」
「間違いなく黒子っちだった」
「どこにアイツはいるんだよ!答えろ黄瀬!!」
青峰が黄瀬の胸倉を掴む。緑間が仲裁に入ろうとしたが青峰の気迫に気圧された。今の彼には理性なんてものは残っていない。あるのは長年求めてきた唯一の光だけ。
「黄瀬!!」
「ここだよ」
降ってきた声に五人は天を向いた。